経営課題別に見る 中小企業グッドカンパニー事例集
「ライフスタイルアクセント株式会社」国内工場直結でアパレル業界に革命
ライフスタイルアクセントは、メイド・イン・ジャパンの工場直結ファッションブランド「Factelier(ファクトリエ)」の運営会社で2012年に創業した。同社は、ミッションを「語るもので、日々を豊かに。」、ビジョンを「クラフトマンシップの世界一の伝え手となる。」とし、熱狂的なファンを作ることで急成長しており、アパレル業界でも注目を浴びている。この成功は、どのような想いと取り組みによるものなのか。
この記事のポイント
- 業界慣行とは真逆の工場が価格を決める希望工場価格で、高い技術をもつ、ものづくり工場を活性化
- 「ものづくりのものがたりを伝えることで共感の輪が広がり、ファンが集まる
- 「想いで買う」新たな価値軸で、ファクトリエがしたい未来を創る
日本の工場から、世界の一流ブランドをつくる
ライフスタイルアクセントは、2012年に山田敏夫社長が創業したメイド・イン・ジャパンの工場直結ブランド「ファクトリエ」の運営会社である。ファクトリエはファクトリー(工場)とアトリエ(工房)を組み合わせたブランド名である。日本全国の高い技術力がある工場と直接提携して商品を作り、タグには各工場の名前が入るなど、工場を前面に押し出して商品を販売している。
熊本市内で、100年以上続く老舗洋品店で生まれ育った山田さん。店舗の上が自宅だったこともあり、幼い頃から日本製の上質な洋服に囲まれて育った。大学在学中にフランスに留学し、グッチのパリ店で働いた体験が、ライフスタイルアクセントを起業する原点となっている。
あるとき、同僚に「日本には本物のブランドがない」と言われた。ヨーロッパの有名ブランドであるエルメスやグッチ、ルイ・ヴィトンは小さな工房から生まれ、自社工房で職人が作っている。一方の日本のブランドは、製造コスト削減のために海外に移転し、メイド・イン・ジャパンではないものが大半であった。さらには、アパレルの国内生産比率は1990年の50.1%から2009年にはわずかに4.5%にまで低下し、国内にある高い技術は消滅の危機に瀕していた。このときから、「日本のものづくり工場から世界の一流ブランドを作る」ことが、山田さんの目標となった。
その後、大学を卒業し、一旦はアパレルとは違う業界に就職するが、時代の変化が山田さんを後押しする。インターネット販売の普及は、小売店舗をもつのに必要な初期投資を不要にした。広く人に知ってもらうには、広告を使わなくてもSNSを活用でき、移動のための飛行機代もLCCで安く移動できるようになり、あらゆるもののハードルが下がってきた時代だった。山田さんはこの環境変化を「天の時」と捉え、2012年に起業した。
工場と顧客の双方に「適正価格」で付加価値をつくる
ファクトリエでは、山田さんが全国600以上の工場を直接訪問し、世界で戦える光る技術力をもっていると判断した工場と提携している。そして、ファクトリエでは「適正価格」を大切にしている。この「適正価格」には2つの意味がある。
1つ目は、工場にとっての適正価格である。一般的にアパレルの商品価格設定は、希望小売価格から商社、メーカー、卸などの流通マージンを引いたものが工場の取り分、つまり工場価格となる。さらに、セール販売を前提としたコスト設定になるため、工場へ発注する金額がより低くなり、工場の利益がさらに出なくなる。ファクトリエでは引き算で工場への発注金額を決めるのではなく、「工場希望価格」の2倍を小売価格としている。つまり、工場の言い値で買い取っているのだ。工場価格の2倍が小売価格になることを工場も知っているため、自ずと自社製品の小売価格を意識することになる。さらに、自社名がタグに表示されることに加え、職人のプライドもあるため、価格を吊り上げるようなことはない。
これまではアパレルブランドの下請けとして、提示された発注金額で作るしかなかった工場が、自分たちが小売価格に見合った価値を市場に提供しているのかを考えるようになる。利益も出るので、妥協しないものづくりをするようになる効果も大きい。「考えるものづくりをしていかないと付加価値は生まれない」と山田さんは言う。
2つ目は、顧客にとっての適正価格である。ファクトリエでは工場と直接提携し、それをネット販売することで、中間業者を介さずにお客さまに届けるため、高品質な商品を手ごろな価格で販売することができる。いくつかの実店舗もあるが、あくまで現物確認とサイズ確認のためのフィッティングスペースであり、買った商品をその場で持ち帰ることはできない。購入する場合は、店舗でもタブレットでネット注文し、後日新品を届けるという徹底ぶりである。また、社員間の連絡はスマホのビデオチャットを使うなど、バックヤードはIT化して効率性を追求している。
一方で、ものづくりに対しては「非効率な部分に投資する」と考えている。効率的な大量生産はせず、こだわりのある付加価値の高い商品を適正価格で提供する方針を貫いている。
山田さんは、生産性が高いことにはあまり興味がないと話す。ファクトリエの製造原価率は5割を超えるが、製造原価率よりも本質的に価値があるかが大事であり、「価値が価格を超えた瞬間に人は買ってくれる」と考えている。一般的には、製造原価率を下げるためには製造コストを削減することを考えるが、山田さんの発想は逆である。「製造原価率を下げたいのであれば、付加価値を付けて高く売るべき」と語る。製造原価率を下げるために製造コストを下げなくてはならなくなるのは、製造コストが高いからではなく、付加価値付けができていないのが要因と考えている。
価値を正しく伝え、商品選択の「第3の価値軸」をつくる
では、ファクトリエが提供する付加価値とは何か。「『伝え手』として、『作り手』である工場の想いや商品のこだわりを、『使い手』である顧客に正しく伝えること」だと語る山田さんは、ファクトリエのこの考えを商品選択の「第3の価値軸」にしたいと言う。第1はデザイン性で買う価値軸、第2はファストファッションに代表される、経済性で買う価値軸である。そして第3は「作り手の想いで買う」価値軸である。
商品の価値を正しく伝えるために、ファクトリエのホームページでは、商品の説明以上に工場とそこで働く人、そして商品に込めたこだわりと想いの紹介に力を入れている。山田さんは野菜を売ることにたとえて、「綺麗なイタリアンサラダで見せてもいいし、バーニャカウダーで見せてもいい。でも作り手のおじさんの笑顔の方が、この人がすごく素敵な想いで作ったんだなということが伝わる。それに共感して買ってもらうことを僕は大切にしている」と語る。
日本のものづくり工場の未来をつくる
ファクトリエとの提携がもたらす工場側のメリットは大きい。適正な利益を確保できる自社名の入った商品を手にすることはもちろんだが、従業員のモチベーションが高くなるのだ。自分たちが作ったものが、自分たちの工場の名前で世の中に出て直接評価されることが、経営者よりも従業員のモチベーションを上げるのに役立っている。
中小企業においては、人手不足と後継者不在が深刻な問題であり、ファクトリエと提携する工場も例外ではない。しかし、山田さんには工場を買収する考えはない。それは工場の支配につながることと、内部に取り込んでしまうと工場をコストと見るようになるからだと言う。自分たちはあくまで『伝え手』に徹し、工場の価値を高めることで経営者の子どもや従業員が継ぎたくなるような工場にすることが、自分たちの役目と考えている。また、付加価値を生み出さない単純作業だけで疲弊する工場に若い人たちは来ない。自分たちで創意工夫したこだわりの自社製品を生み出す「考えることが楽しい、価値を作ることが楽しい」工場にしないと人は集まらない。
これらに対する施策の一つとして、ファクトリエでは「工場サミット」を毎年開催している。当初は工場の若手採用を目的とした学生と工場の交流の場であったが、現在は顧客も加わり、『作り手』『継ぎ手』『使い手』『伝え手』が交流できる場となっている。
また、工場見学ツアーも定期的に開催し、顧客と工場が直接交流できる機会を提供している。工場側はどのように自分たちのこだわりを伝え楽しんでもらえるかを考えるようになり、従業員のモチベーションがさらに高くなる。この工場見学ツアーは有料であるにも関わらず、人気のイベントとなっている。
「革命の同志」と新たなスタンダードをつくる
ファクトリエではアパレルで常態化しているセールはやらない。さらに、翌日配送のような商品本来の価値とは関係のないサービスは重視していない。『作り手の想い』を正しく丁寧に伝えることが一番重要なことであり、その考えに共感し応援してくれる人に買って欲しいと考えている。熊本市内に大規模小売店が増える中で実家の洋品店が残っているのは、上質な商品をきちんと説明してくれる「あなたから買いたい」をやっているからであり、市場環境は変わっても、「あなたから買いたい」はなくならないと山田さんは言う。
山田さんは「『作り手の想い』や『伝え手としての僕らの想い』で買ってもらう。そんな新しいスタンダードを作ろうとする『革命の仲間たち』が僕らであり、お客さんであってほしい」と語る。「このコンセプトを世界のメジャーにしたい」と語る山田さんは、「想いで買う=相手のことを考える優しい経済圏」のさらなる拡大に意欲を見せる。
企業データ
- 企業名
- ライフスタイルアクセント株式会社
- Webサイト
- 設立
- 2012年
- 従業員数
- 20名
- 代表者
- 山田 敏夫
- 所在地
- 熊本県熊本市中央区手取本町4-7
中小企業診断士からのコメント
ものが売れない時代である。少子高齢化で市場全体が縮小していることも理由の一つであるが、ものが市場に溢れ消費者が心から欲しいと思える商品が少ないことの影響も大きい。市場全体の縮小は、規模の経済による優位性を追求する大企業にとっては大きな脅威である。しかし、画一的ではないものを求める消費者に、こだわりのものづくりにより大企業と差別化した商品を提供する中小企業にとっては、むしろ機会と捉えることができる。
アパレル業界は、有名ブランド品とファストファッションに二極化している。ファクトリエは「語れるもので、日々を豊かに。」を掲げ、商品の背景にあるストーリーを丁寧に伝えることで共感と信頼を得てファンを増やし、新たな価値軸を提案することで成長している。まさに差別化戦略の成功事例と言える。
渡邊 一弘