中小企業・小規模事業者によるカーボンニュートラルの取り組み事例

5S・環境委員会を設置し、社員が無理なく環境活動を続けられる仕組みを構築。自社内で中小企業版SBT認証に取り組んだ経験が更なるモチベーションの向上に:株式会社東明電気製作所(静岡県裾野市)

2025年 12月 12日

企業データ

企業名
株式会社東明電気製作所
Webサイト
設立
(創業)1968年
従業員数
47名
所在地
静岡県裾野市深良830-1-1
業種
製造業

富士山の麓に位置し、豊かな自然あふれる裾野市。同社は裾野市に本拠を構え、制御盤・ハーネス・コイル等の電気制御関連製品を主に取り扱う製造業として発展を遂げてきた。創業以来長年にわたり培ってきた確かな技術力は、取引先からも厚い信頼を獲得している。

取引先の大手電機メーカーから「エコアクション21」(※1)(以下、EA21)の取得を推奨されたことを機に、省エネや3Rの取り組みを開始。その後、中小機構の「CO2排出量算定支援」(※2)を利用し、カーボンニュートラル達成に向け一歩を踏み出した同社。2024年冬、自社内で中小企業版SBT認証の取得まで完遂する等、取り組みを益々深化させている。

代表取締役 俵沙織氏、5S・環境委員会の責任者 豊田亜由美氏にお話しを伺った。

(※1)「環境省が策定した日本独自の環境マネジメントシステム(EMS)」を指す。
(一般財団法人 持続性推進機構)https://www.ea21.jp/ea21/
(※2)本支援は「事業再構築相談・助言」の専門家派遣を活用した支援です。
CO2排出量の算定等について、専門家がアドバイスを行います(無料・最大3回)。
(中小機構)https://www.smrj.go.jp/sme/sdgs/favgos000001to2v.html

東明電気製作所の俵沙織氏と豊田亜由美氏

[取り組みのきっかけ]
取引先の大手電機メーカーの推奨でEA21を取得。中小機構の支援をきっかけに、本格的にカーボンニュートラルの取り組みを開始

インタビューに答える代表取締役 俵沙織 氏
インタビューに答える代表取締役 俵沙織 氏

同社は創業から50年以上にわたり電気制御関連製品の製造を主力とし、大手電機メーカーのサプライヤーとしての実績を重ね、社会インフラに貢献を果たしてきた。経営理念として、「技術には無限の可能性。地域とともに成長し、持続可能な社会づくりに貢献する」ことを掲げ、脱炭素社会の実現に向けて、全社的に環境活動に取り組んでいる。

同社の環境活動の始まりは、取引先の大手電機メーカーよりEA21の認証取得を推奨されたことに端を発する。

「取引先からEA21の取得を推奨された2015年当時は、あくまで『推奨』でしたが、2025年現在では取引条件としてEA21の取得が求められています。今振り返ると、将来必要となることを見据え、前もってお声がけいただいたのだと思います。取引先からご紹介いただいた専門家のサポートを受け、無事認証を取得することができました」(俵沙織氏)

2015年にEA21を取得して以降、自社工場や事務所におけるLED化をはじめ、デマンドコントロールによる節電、コンプレッサーのエア漏れチェック、3R活動などの取り組みを地道に継続。それから時が経った2023年、本格的にカーボンニュートラルへの取り組みへと踏み出すきっかけになったのが、中小機構の「CO2排出量算定支援」の利用だ。EA21の取得を推奨された取引先から同支援の紹介を受け、申し込みに至ったという。同支援を通じてカーボンニュートラルを体系的に学ぶことができ、今後の取組方針を整理する良い機会だったと俵氏は語る。

「全3回にわたり、中小機構の高鹿初子アドバイザー(※3)(以下、高鹿AD)に丁寧にご支援をいただきました。1回目は私を含む社員全員が参加し、カーボンニュートラルの概要から取り組む意義に至るまで分かりやすく講義いただきました。2回目と3回目は、5S責任者中心に自社のScope1、2を算定し、CO2排出量を「見える化」できました。計算根拠となるデータの集め方も高鹿ADに丁寧にレクチャー頂き、スムーズに対応できました。高鹿ADの講習中にSBTの存在を初めて知り、算出したScope1、2や削減目標数値を活かすためにも、中小企業版SBT認証の取得にチャレンジしたいと考えました」(俵沙織氏)

取引先の大手電機メーカーからの働きかけを契機に、環境活動の歩みを着実に進めてきた同社。次のステップとして、中小企業版SBT認証の取得に向け一歩を踏み出した。

[具体的な取り組み]
5S・環境委員会を設置し、無理なく環境活動を続けられる仕組みを構築。
自社内で中小企業版SBT認証を申請できたことが大きな自信に

インタビューに答える 5S・環境委員会責任者 豊田亜由美氏
インタビューに答える 5S・環境委員会責任者 豊田亜由美氏

中小企業版SBT認証の申請準備と並行して着手したのが、社員全員でカーボンニュートラルに取り組むための土台づくりだ。製造現場の社員が中心となって構成する5S・環境委員会を2024年に設置し、通常業務の延長として無理なく環境活動に取り組んでいる。同委員会の設置に踏み切った背景には、俵氏自らが参加したEA21静岡県大会において登壇企業の発表に感化されたことが関係しているという。

「トップダウンではなく社員が主体となり環境活動に取り組むことの重要性を説かれ、自社でも仕組み化が必要と考えました。現場主導でカーボンニュートラルに取り組むことを期待して5S・環境委員会を設置し、責任者に豊田さんを任命させていただきました」
(俵沙織氏)

5S・環境委員会の責任者に任命された豊田氏は、委員会メンバーに主体的に参加してもらえるよう工夫を凝らした結果、メンバーからの提案も徐々に活性化してきたと語る。

「月に1度、委員会の定例会議を開催しています。委員会メンバー(管理部門、製造部門の各課の代表者)が、課ごとに集約した改善提案を発表する他、例えば資料の読み合わせをする場合には参加者に解説者の役割を担ってもらう等、参加者に当事者意識をもってもらうよう会議を進めています。また、5S・環境活動掲示板を設置し、定例会議に参加できない社員にも必ず情報共有を行うようにしています。会議以外にも、各課の職場にビニール袋やクリップ、インクカートリッジ等を再利用する回収ボックスを置くことで、環境活動を日常に溶け込ませるといった工夫も行いました。その結果、委員会での提案数は徐々に増え、最近では省エネ性能を有する自動販売機の導入を検討してはどうかといった忌憚のない意見も出るようになりました」
(豊田亜由美氏)

環境活動の状況を社員に知らせる掲示板
環境活動の状況を社員に知らせる掲示板

社員主体で考え、取り組む風土作りに尽力する豊田氏。俵氏と対話する中で中小企業版SBT認証の申請にチャレンジすることが正式に決まり、取り掛かることになったものの、当初は日本語から英語への翻訳作業やカーボンニュートラルに係る専門用語の理解に不安もあったという。

「中小企業版SBT認証の申請は英語で行う必要があるため翻訳作業に不安がありましたが、普段から外国人社員とのコミュニケーションに翻訳アプリを使用していたこともあり、大きな抵抗感なく取り組むことができました。専門用語については、高鹿ADの講習で得た情報をベースに、環境省やSBTの公式webサイトの公開資料を確認する等して理解を深めました。担当している通常業務の合間を縫っての準備は大変でしたが、着実に資料作成を進め、無事申請に至りました。実務は私が担いましたが、申請に必要なデータは他の社員の協力があってこそ作成できたと思います。約1年がかりのプロジェクトでしたが、自社内でやり遂げたことで大きな自信に繋がりました」(豊田亜由美氏)

[感じたメリット・課題]
中小企業版SBT認証取得を通じて社員のモチベーションが向上。
取引先の大手企業からの要請に対応する準備が整った

中小企業版SBT認証に対する反響は徐々に大きくなってきたと俵氏は語る。

「商談の際に中小企業版SBT認証を取得していることを先方に伝えたとき、感心されることも徐々に増えてきました。思ったよりも反響があり、都度社員にも報告していますが、自社に誇りを感じて環境活動に一層力を入れてくれているように感じています」
(俵沙織氏)

「大手企業においては、サプライチェーン全体での脱炭素化が進められています。私たちが取引先の大手電機メーカーから、EA21取得の推奨や中小機構のCO2排出量算定支援の利用を紹介されたように、今後ますます脱炭素への取り組みは求められると思います。例えば、CO2排出量算出データやCO2削減計画の提出といった依頼がくることが想定されますが、私たちは中小企業版SBT認証を取得し情報を持ち合わせているため、求めに応じてスムーズな対応が可能です」(俵沙織氏)

一方で、以下のような課題も感じている。

「中小企業版SBT認証の取得はゴールではなく、削減目標の達成に向かって具体的な行動計画や進捗を管理していかなければなりません。こまめな節電等による使用電力量の削減のみでは目標数値の達成が難しく、補助金を適宜活用して太陽光発電等の設備投資も検討する必要があります」(俵沙織氏)

「新卒採用も検討していますが、若い方はホームページ等から、企業がどのような社会貢献活動をしているかよく見ていると聞きます。カーボンニュートラルに取り組むことも大事ですが、取り組み内容を対外的に発信していくことも同じく大切だと思いますので、より一層力を入れていきたいと思います」(俵沙織氏)

[今後の展望]
果敢なチャレンジを続け、業界内の中小企業のモデルケースを目指す

東明電気製作所

当初は、取引先の大手企業からの働きかけで始まった脱炭素への取り組み。
今までを振り返り、俵氏に率直な感想を伺った。

「『カーボンニュートラル』と聞くと、つい身構えてしまいますが、まずは自社でできることを継続して取り組むことが大事だと思います。電気をこまめに消す、ごみを分別し再利用するといった小さな取り組みからスタートし、社員の意識を高めていくことが重要です。中小機構のカーボンニュートラル支援制度や金融機関のGXサポート制度を上手く活用することができれば、専門知識がなくても次の一歩を踏み出すことができると思います」(俵沙織氏)

最後に、今後の展望についてもお話いただいた。

「当社は社会インフラを支える製造業として、持続可能な社会づくりに貢献する責任があると考えています。まずは、中小企業版SBTで定めた目標値達成に向けた取り組みに注力したいと思いますが、ISO14001の取得やScope3の算定にも果敢にチャレンジしたいです。そして、これらの取り組みを取引先や地域に積極的に発信し、業界内の中小企業のモデルケースになることを目指して引き続き社員全員で頑張りたいと思います」(俵沙織氏)

無理なく社員が環境活動を続けられる仕組みを構築し、自社内で中小企業版SBT認証を見事取得した同社。カーボンニュートラルに向けた挑戦は緒に就いたばかりだ。

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