中小企業応援士に聞く
「社員の幸せ」が最大のミッション【三重化学工業株式会社(三重県松阪市)代表取締役社長・山川大輔氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2022年 8月29日
1.事業内容をおしえてください
1956年(昭和31年)に祖父が創業し、父、叔父が引き継いだ後、7年前に私が4人目の社長に就任した。創業当初は家庭用洗濯糊や工業用接着剤・石鹸などを製造していたが、市場の需要があったため、食品の配送・保存用として使う保冷剤の製造に切り替えた。ただ保冷剤は夏に需要がある商品。従業員の雇用を継続的に守るため、冬の商品である手袋の製造も始めた。他社と差別化するために、寒冷地用の防寒手袋や作業用手袋に特化した。
作業用手袋は自社ブランドが多く、作業服店やホームセンターで販売している。20年ほど前から製造は中国に移管し、一部中国でも販売しているが、国内での販売がほとんど。自動車関係の油まみれになるような作業をしている方に、利用していただいていることが一番多い。
一方の保冷剤も国内販売がほとんどで、ごく一部を韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)地域に輸出している。コロナ禍になる前は、タイを訪問してサプライヤーやパートナーを探したり、展示会への出展を計画したりしていたが、現在は保留中だ。
このほか、医療機関と連携した医療機器や植物由来の原料を活用したエコ保冷剤の開発など、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みも実施している。売上高比率は作業用手袋が35%、保冷剤が25%、頭や体を冷やす保冷具が25%、医療機器が5%といったところ。最近になって事業の多角化や海外展開を進めているので、経営は弟の専務と2人で担っている。
コロナによる影響は出ている。自動車関係の工場の操業停止に伴い、20年4~6月は売り上げが50%減となった商品もあった。一方で夏場のマスク着用により、保冷剤付きマスクや熱中症対策グッズが良く出た。コロナ禍前の19年10月期は17億4000万円だった売上高が、20年10月期は16億6000万円、21年10月期は16億2000万円と推移した。
2.強みは何でしょう
創業以来、多角化し続けてきた企業なので、変化すること、違う事業を行うことを厭わないことが強みだ。とはいえ、最も得意とすることは様々な関係先と連携すること。オープンイノベーションの取り組みである「ミエラボ」事業もその一環である。ものづくりは市場ニーズを組み込んでスピード感を持って進めていくことが大事なので、これからもいろいろな企業・支援機関と連携していくつもりだ。
社屋にも工夫を凝らしている。あえて打ち合わせスペースから研究・開発室が見える配置とし、その場で浮かんだアイデアをすぐに試作に結びつけられるようにしている。製造業らしからぬスペースを提供することで、採用活動・人材確保にもつなげている。
3.課題はありますか
今年になって石油由来の商品を含め、資材全てが値上がりし、苦労している。物流コストや電気代も増えていて、今年は耐える年になっている。資材を輸入に頼っているところがあるので、1ドル=135円という為替水準は厳しい。急激な変化のため、価格転嫁ができない。外的要因に左右されない企業を目指して経営してきたが、ここまで急激だと大変だ。
最終的に製品価格に反映させなければいけないと考えている。値上げせざるを得ないとしても、どれくらい上げるか、どれくらい当社が努力するかを検討している。ユーザーあっての売価なので、資材などの値上がり分を100%転嫁するわけにはいかない。
また、生産管理がアナログなので「見える化」していきたい。ただオートメーション化しない方が良い商品も多く、急激なオートメーション化はできない。当社のような規模の企業の生産管理のDX(デジタルトランスフォーメーション)化をどこまでやったらよいか葛藤している。
物流面での課題としては、QRコードなどを使わず、目視で確認して出荷しているので、間違いがある。受注と生産と物流のバランスもあまり良くない。多角化が得意な半面、小ロット・多品種な製品に対する生産や物流の管理で問題が生じている。早急に生産管理システムや資材原料発注プロセスのDXは進めたいが、DXはあくまでも手段であり、社員の意識改革をどのように進めていけばいいか悩んでいる。
4.将来をどう展望しますか
タイを始めASEAN地域には、保冷剤の販路拡大のチャンスがある。日本で氷やドライアイスから保冷剤に置き換わったように、タイなどでも同様の需要があると考えている。コールドチェーンをどう築くかが問題だが、それを作っていきたい。
タイでは保冷剤や保冷具の使い方を知らない人も多い。以前訪問した際、保冷剤をどうやって冷やすか、どのような時に使うかから説明しなければならなかった。逆に言えばそれだけチャンスは大きいということだ。コロナ禍が落ち着いてきたので、今年中にまたタイに行き、タイに拠点を構えてベトナムなどへの進出も狙っていきたい。コロナが落ち着いていれば2023年には方向性が決められると思う。
今は次の世代につなげていくための準備期間だと思っている。これからの市場は20代・30代が考えたものの方がウケると感じており、若い世代に仕事を任せられるようにしていきたい。若い世代が仕事をしやすい環境を整えていくことが、自分のこれからの課題と考えている。5年後・10年後に当社が面白い会社になったと言われるようにしていきたい。
5. 経営者として大切にしていることは何ですか
松阪市内を始め三重県内の中小企業でも、30代後半から40代の社長に世代交代したところが増えてきた。新しい経営者は、自分で考えて会社経営を行う人が多いが、従業員とのコミュニケーションや人手不足など、人に関する悩みについては、情報共有すれば少しでも楽になると考えている。商工会議所の青年部などで活動しているときにも、相談できる関係性があったので、それを教えてあげたい。
中部経済産業局や三重県庁、三重県産業支援センターなど外部とのつながりに関する情報も教えて、悩みや課題があれば相談できる場所があることを知らせていきたい。
私は近い将来の定量的な目標は設定していないし、特に売上髙は重要ではないと思っている。社員の幸せを高めることと地域貢献などを意識していけば、利益は付いてくると考えている。「先義後利」は意識している。
6.中小企業応援士としての抱負を教えてください
委嘱状をもらって責任重大だと感じている。中小企業は経営者が一人で悩んで、解決して何とか生き残っているというところが多い。もっと連携していいと思っている。中小機構の施策・事業を知らない人たちに紹介したり、当社がいろいろな方と連携しながら商品開発・情報共有する場を作ったりしているので、それに巻き込みながらともに発展していけるように応援する立場になっていきたい。「中小企業応援士」という名刺をいただいたので、これまでより聞いてもらいやすくなったかもしれない。
企業データ
- 企業名
- 三重化学工業株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1956年(昭和31年)
- 代表者
- 山川大輔 氏
- 所在地
- 三重県松阪市大口町255-1
- Tel
- 0598-51-2361
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