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使いやすいロボットで、中小企業の生産性を向上「株式会社チトセロボティクス」

2023年 10月 5日

代表取締役社長 西田亮介氏
代表取締役社長 西田亮介氏

人手不足や生産性低下に悩む中小企業にとって、ロボット活用は大きなテーマだ。しかし、現実には導入は進んでいない。せっかく導入しても、気が付けば工場の片隅でほこりをかぶっているといったケースもある。大きな要因として、ロボットを動かすのに不可欠なティーチング(教示作業)の難しさがあげられる。株式会社チトセロボティクスは、ティーチング作業をなくすという逆転の発想で開発したロボット制御ソフトウェア「クルーボ」で、ロボット導入を阻む壁に挑戦している。その成果が評価され、今年度の中小企業優秀新技術・新製品賞の中小企業基盤整備機構理事長賞を受賞した。

ロボットの普及を阻んでいた教示作業

皿を効率良く洗浄するトレイハンドリング
皿を効率良く洗浄するトレイハンドリング

飲食店のバックヤードでロボットが黙々とお皿を洗っている。その量は1時間に2000枚。人間が二人がかりで洗ってもこなしきれない枚数だ。このロボットを動かす頭脳として搭載されているのが、チトセロボティクスのクルーボだ。
従来、ロボットを導入して期待する作業をさせるには、あらかじめ決まった動作をするようにカメラの座標系、ロボットの作業座標系、ロボットの関節角座標系などの座標を正確に設定する教示作業が必要とされていた。さらに、作業現場で発生するカメラの位置やロボットの姿勢のずれなどに応じて、対称物の位置と姿勢を計算し、誤差を極限まで小さくする作業(キャリブレーション)も不可欠で、これらの作業に対応することは、中小企業の人材では難しかった。しかし、調整作業に外部の人材を呼ぶと、追加で数百万円の費用がかかってしまう。それなら、結局人間がやる方が手っ取り早い。これが、中小企業でロボット導入が進まない要因として指摘されていた。

独自の制御技術でロボット導入の課題を払拭

ロボット制御ソフトクルーボ
ロボット制御ソフトクルーボ

クルーボは、こうした教示作業やキャリブレーションをなくすにはどうすればよいか、という発想から生まれた。クルーボは、対象物と手先の相対位置(姿勢情報)のみに着目してロボットを制御する「ビジュアルフィードバック制御」という従来のロボット制御とは全く異なる技術をもとに開発した。座標変換の誤差が累積することはなく、カメラとロボットの座標系は想定した設定位置・姿勢から大きくずれていても、まったく問題がないという。この制御方法を見出したことで、難しい調整が不要で、しかも精度は0.02ミリメートルという精密な制御を実現させた。
西田亮介社長は「人間は目で見て体を動かす。このアルゴリズムをロボットに応用すればいいのではと考えた。針の穴に糸を通す時に、人間は糸を針に近づけていく。それを数学的にロボット制御に使うことを実現し、特許も取得した」と説明する。また、開発段階では、国のものづくり補助金や経営革新計画、東京都の明日にチャレンジ中小企業基盤強化事業助成金など、さまざまな補助金も役立てた。
同社は立命館大学発のスタートアップ企業。立命館大学工学部ロボティクス学科の川村貞夫教授の研究室で生まれた技術をもとに起業した。川村教授は同社の取締役にも就き、同社の開発を支えている。また、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に採択され、立命館大学や山形大学と連携した開発にも取り組んだ。

110万円と破格の価格設定で普及を後押し

0.2mmの細線をハンドリング
0.2mmの細線をハンドリング

クルーボの登場でロボットを導入した現場のライン変更が容易になり、メンテナンスもやりやすくなる。まさに中小企業にとって必要とされるものだ。同社は当初このクルーボを搭載したロボットを企業に販売するビジネスモデルで事業をスタートさせた。事業は好調だったが、さらに普及させるためには、システムインテグレーター(SIer)の役割が大事だと考えるようになった。
SIerは、ロボットメーカーとロボットユーザーの間を取り持ち、ロボットを現場に設置して動けるようにするまで調整する役割を果たしている。同社はSIerにとって扱いやすく追加の調整が不要な制御ソフトであれば、エンドユーザーにもより早く普及していくという発想で、SIerをターゲットに、クルーボを販売する事業モデルへと転換した。価格も1セット110万円という従来のロボット制御ソフトと比べれば破格の安さに設定した。しかも、売り切り型で追加の費用は発生しない。

4台のロボットを同時に制御
4台のロボットを同時に制御

これにより、SIer経由でエンドユーザーに販売されるロボットシステムの価格は従来なら数千万円かかっていたものが、1000万円を切るレベルにまで低減できるようになるという。導入企業は初期投資が抑えられキャリブレーションなどの追加費用が発生しないため、安心して導入できる。まさに、同社、SIer、エンドユーザーが、ウインーウインの関係を築けるのだ。
同社がクルーボを市場に本格投入したのは2022年1月。発売以来、大きな反響を呼び、さまざまな開発案件が持ち込まれている。「今はその対応に追われている状況で、業績は好調」という。

「未来のはたらく姿」を支援する会社へ成長目指す

人手不足の外食産業に貢献
人手不足の外食産業に貢献

同社はこれからも、ロボットをもっともっと社会に普及させていくことを目指して開発を進めていく。そのためには、自社のエンジニアの開発力やモチベーションを高めていかなければならない。そこで同社は「10%ルール」というものを設けている。エンジニアは業務時間の10%は全く業務と関係ないことに使うというものだ。外出先で何をしても自由で、事前相談の必要もない。必要なら会社が資金も支給する。自由な発想の中から生まれてくるイノベーションに期待している。
西田社長は同社の将来について「ロボットをもっと使いやすくして、人は創造的な仕事にフォーカスする。そんな『未来のはたらく姿』を支援する役割を果たしたい。そのためにも、大きくて強い会社にしたい」と言う。人手不足という目先の社会課題に応えるだけでなく、日本の生産性向上に貢献する覚悟を感じた。

企業データ

企業名
株式会社チトセロボティクス
Webサイト
設立
2018年3月1日
資本金
非公開
従業員数
15名
代表者
西田亮介 氏
所在地
東京都文京区春日2-19-1
Tel
03-5615-8271
事業内容
ロボット制御ソフトウェア「クルーボ」の開発・販売、ロボットシステムの研究・開発・販売