Be a Great Small

スマホで健康管理 次の100年見据えDX事業に挑戦「岩渕薬品株式会社」

2022年 5月27日

新たな事業にチャレンジする岩渕琢磨氏
新たな事業にチャレンジする岩渕琢磨氏

千葉県四街道市の岩渕薬品株式会社は100年以上の歴史を持つ医薬品総合商社だ。メーカーから仕入れた医薬品などを県内の4500もの薬局や病院などに供給し、地域医療を支えている。既存事業に加え、2020年には新たにDX(デジタルトランスフォーメーション)事業をスタート。「健康」をキーワードに次の100年を見据えた新たなビジネスモデルの構築にチャレンジしている。

「歩く」仕掛けさまざま

千葉県四街道市にある岩渕薬品本社
千葉県四街道市にある岩渕薬品本社

岩渕薬品の創業は1914年。初代が千葉県佐倉市に薬局を開店したのが始まりだ。当時は、今のように有効な医薬品が少なかった時代。近隣住民のために私財を投じて、解熱のための氷蔵を建設するなど当時から地域の医療に貢献してきたそうだ。やがて小売販売だけでなく、近隣の病院や薬局への卸売りを手掛けるなど事業を拡大。ここ数年は「健康」をテーマに医薬品以外の事業も展開し、総合ヘルスケア企業として新たな成長を目指している。

その先頭に立つのが、2019年から経営の舵を握る代表取締役社長の岩渕琢磨氏。就任後間もなく東京のITベンチャーと共同で企業向けヘルスケアアプリ「LEAF」を開発。2020年に一般企業向けのサービス提供を始めた。

「健康管理のため社員に積極的にウオーキングに参加してもらえる仕掛けを施している。会社が率先してウオーキングを働き掛けて、社員の健康に貢献することができる」と岩渕氏はアプリの機能の説明してくれた。

チャットで交流も

企業向けヘルスケアアプリ「LEAF」
企業向けヘルスケアアプリ「LEAF」

独自のチャット機能もあり、対戦する社員間でコミュニケーションを取ることができる。「ふだんあまり接触がない社員同士も『きょうはどこまで歩いた』『こっちはこれだけ歩いた』とアプリでやり取りをするとお互いの励みにもなり、社内のコミュニケーションの輪も広がる。会社の風通しがよくなっている」と岩渕氏は話す。

健康管理は個人でやろうとしてもなかなか長続きはしない。会社が積極的に社員の健康管理に関与することで、大きな成果を上げることができる。会社と社員が両輪となって社内の健康増進に努めていく。従業員の健康を企業の経営として考える「健康経営」が注目されているが、まさにその視点から生まれたアプリだ。「人手不足の時代、社員が病気で欠ければ会社にとっても大きな損失。社員の健康増進は会社の経営にとって大きなプラスになる」と岩渕氏は説く。

成長の「種」を探す

岩渕氏がこのアプリの開発を進めたのは、医薬品をめぐる環境の変化が背景にある。日本の医薬品市場はここ数年、需要が低迷。将来も縮小傾向が続く見通しだ。高齢化による需要増はあるものの、低価格のジェネリック医薬品が普及し、市場全体の伸びが抑えられるからだ。

「売り上げが伸びない中で、どうやって成長をさせていくか」。新たな成長の種を探す中で、たどり着いたのが「予防」「健康増進」という視点だった。「これまで医薬品を供給し、治療の分野で貢献してきたが、病気になる前に未然に防ぐという取り組みがこれからは重要と考えた」岩渕氏は語った。

地域の実情に合った医療や介護、生活支援などを一体的に提供する「地域包括ケアシステム」に着目。仕事の傍ら、自治体や保健所、介護現場などを精力的に回り、地域の実情を学んだ。すると、高齢者の介護や見守りをはじめ、地域が抱えるさまざまな課題に気づかされたという。

「これまで100年以上、地域や取引先・顧客に支えられてやってきたが、業界内をみていて地域の課題に全く目を向けていなかった。100年分の恩返しをこつこつとやることで、次の200年、300年につながるのではないか」と思いたったという。

「まずはできることから」と、社員によるボランティア活動からスタート。がんや生活習慣病のリスクを手軽に検査できる「血液検査キット」を活用し、千葉県内の企業向けに健康支援サービスに乗り出した。さらに社員の日常の健康管理に注目し、今回のアプリ開発につながった。

会社間の対抗戦も

弟で専務の裕樹氏(右)のサポートが開発を後押しした
弟で専務の裕樹氏(右)のサポートが開発を後押しした

開発の大きな後押しになったのは、岩渕社長の弟で代表取締役専務の岩渕裕樹氏だ。大手医薬品メーカーで8年経験を積んだ兄の岩渕氏と対象的に、裕樹氏は大手IT企業に勤務していた経歴を持つ。アプリ開発の知識やネットワークを持ち、社長の思いを具体化させていった。

ウオーキングは脂肪の燃焼効果が高く、さまざまな生活習慣病を予防・改善させる運動だ。しかも手軽に一人でもできる。ウオーキングの習慣をつけてもらうだけでも大きな健康増進効果が期待できる。ウオーキングを習慣化できるさまざまな“味付け”をアプリに施した。社内で実際に試行的に使ってみると、成果がみられた。

岩渕氏は、裕樹氏と2人で、ふだん付き合いのある千葉県内の企業に働きかけ、21年11月にイベントを開催。25社・約400人が参加した。「企業同士の対抗戦をやると、1社だけでやる以上に盛りあがった」と岩渕氏は手ごたえを感じた。企業同士のコミュニケーションもよくなり、連帯感も醸成される。

「地元・千葉を盛り上げていくメンバーなんだという団結力が生まれ、地元の活力にもなってくる」。岩渕氏自身、経営者同士の交流が深まり、そこから地域の課題に対する気づきもあったそうだ。22年7月にも新たなイベントを計画中で、利用者はさらに増える見通しだ。

このほか、アプリには、定期健診の結果を記録する機能もある。ふだんなら結果を一読して終わりの健診結果を「見える化」することで、健康への関心が持ちやすくなる。それだけでなく、会社としても社員全体のデータを分析して適切な健康施策に役立てることが可能になる。

「第二の創業」目指す

次の200年に向けて「第二の創業」を目指す
次の200年に向けて「第二の創業」を目指す

今後の大きなテーマは、収益を上げられるビジネスモデルの構築だ。千葉県内の企業への利用を広げる一方、物販や健康支援サービス、企業の健康経営をサポートするコンサルティングサービスの拡大を目指す。「この事業は第二の創業と位置付けている。事業のスタートから10年で本業と同じ額の利益を稼ぐことを目標に進めている。すでに3年目に入っているので、あと7年後の目標達成を目指したい」と岩渕氏は意気込んでいる。

岩渕氏が見つめる先は、スケールアップしている。アプリを活用した地域課題の解決だ。

生活習慣病のリスクを抱える従業員を対象としたトライアルでは、専門家を交えて協議。多くの従業員が食生活の中で野菜が不足していることが明らかになった。アプリの活用の輪が広がり、例えば、アプリを利用する社員たちと地域の農家をイベントなどでつなげる仕組みができれば、従業員の野菜不足の改善に加え、地元農家の支援にも貢献できる。一石二鳥の効果が期待できる。

今は企業向けだが、市民向けに自治体が活用する環境が整えば、市民全体のアプリの利用が広がる。4月には、アプリを通じた地域連携を見据え、社内に「まちづくり事業部」を組織した。「アプリに必要な機能は追加が可能。地域の実情に合わせながら、さまざまな仕掛けを提供することで地域の課題解決につなげたい」と岩渕氏。その言葉には、100年前に氷蔵をつくった初代の思いにどこか結びついているようにもみえた。

企業データ

企業名
岩渕薬品株式会社
Webサイト
設立
1948年6月
資本金
1億円
従業員数
469人(2020年3月31日現在)
代表者
岩渕琢磨 氏
所在地
千葉県四街道市鷹の台1-5
Tel
043-236-7707(代)
事業内容
医薬品総合商社