農業ビジネスに挑む(事例)

「ユニオンファーム」フランチャイズ制を前提にした新規就農者の育成

  • 有機栽培技術と販路開拓に独自に取り組む
  • 農産物の生産でフランチャイズ制を確立

新規就農は言葉以上に困難が多く、決して易いことではない。しかし、農業を、新しく職を求める人から常に選択肢の1つとされるような職業にしたい。そんな思いから2000年、農業生産法人・ユニオンファーム(茨城県小美玉市)が創業された。

2年間かけて独自に開発した有機栽培技術で野菜づくりをする

ユニオンファームの前身は、地元・茨城で農業資材を販売するアイアグリが1998年に社内に発足させた農業技術チームだ。その目的は、農業人口の減少に対し、減農薬ならびに有機栽培技術を確立することで(農業人口減少の対策として)新規就農者を育成・支援することだった。その農業技術チームは、杜建明さん(ユニオンファーム取締役総農場長)、大高昌明さん(ユニオンファーム水稲事業部農場長代理)ら3名でスタートしたが、「それまで実際の畑で野菜をつくったことがなかったので、農薬を使うにしても有機栽培にしても農産物の生産がどれだけ難しいかがわからなかった」(玉造さん)という状況での船出だった。 そのため98年からの1年間、地元の生産者から農地を借りて梨と米を対象に技術開発に取り組んだ。農業研究者の杜さんを中心に減農薬と有機栽培の技術について自らの仮説を立て、それを実際に検証することを繰り返しながら1つひとつの技術を確立していった。そして99年からハウス栽培でチンゲン菜、ホウレン草などを試験生産、さらに2000年からは実用栽培をスタートさせ、それと同時に農業技術チームはアイアグリから分離独立し、ユニオンファームとして本格的に有機栽培事業を始めた。

消費者に近いところに販路を求めよう

ユニオンファームは、2年間を要して確立した有機栽培技術によって生産した野菜を当初は市場流通に卸した。しかし、品目数および生産量が少ないこともあり、苦労して栽培した有機野菜が二束三文の値段でしか売れなかった。それを目の当たりにして同社では、これではいけない、もっと消費者に近いところに販路を求めなければと考えた。

「しかし、たとえ有機野菜を望む消費者がいたとしても、スーパーさんでそれを売っていただくにはそれなりの環境が必要です。また、ある程度の品目数も供給できなければスーパーさんと直接取引してもらえません」

そこで、市場流通ではなく直接小売店へ販路を開拓しようと企図した同社は、店舗に訪れる消費者に有機野菜を選んでもらうためにはそのメッセージ性を高めなければならないと考えた。そこでスーパーの店内に有機野菜コーナーを設けて消費者へのメッセージ性を高めることを提案し、さらに商品アイテムもチンゲン菜、ホウレン草、レタス、セロリ、春菊の5品目を供給することで小売店へ直接販路を開拓した。

ユニオンファームは2001年に農地を拡大し、有機野菜の生産量を増やしていった。それに比例するように販売量も増えていき、販路もスーパー以外に仲卸業者へも拡大していった。

「自社のホームページを開設すると、全国で有機野菜を探している仲卸業の人たちからアクセスがあり、それによって仲卸業者さんとの取引が徐々に始まりました」

食の安心・安全を求める消費者の間に有機野菜が広まるにつれ、野菜の仲卸業者の間にも有機野菜の取扱い量が増えていった。そのため彼らは全国で有機野菜の生産者を求め、ユニオンファームもそうした仲卸業者とビジネスを始めることでさらに販売チャネルを増やしていった。

ユニークな新規就農者育成事業

有機栽培技術を確立し、販路の開拓・拡大によってビジネスが軌道に乗り始めた2003年秋、ユニオンファームはそれまでに蓄積した栽培ノウハウをマニュアル化し、そのマニュアルをもとに新規就農者の育成事業をスタートさせた。創業時の目的がいよいよと実行へと移された瞬間だった。

この事業では就農希望者に2年間の研修を施し、終了後にはユニオンファームのフランチャイズ農場の経営者(フランチャイジー)として独立させる。研修プログラムは講義と栽培実習で構成され、研修期間中の実習生には見習い社員扱いとして月額15万円の給与も支給される。

2004年春に迎えた第1期就農希望者(1名)は、ユニオンファームが出展した新農業人フェア(全国農業会議主催)で面接して選んだ人物だ。

「第1期生を迎えた当時は、なにをどう教えるかも試行錯誤を繰り返しながら決めていきました」(玉造さん)

そして2年間の研修を経た第1期生には、農地・施設の賃貸斡旋から詳細な事業計画の策定までサポートしてフランチャイジーとして独立させた。

ユニオンファームは、「フランチャイズ制農業」というユニークな発想で企業経営する

農業を職業選択の1つにしたい

ユニオンファームは農業でのフランチャイズ制というユニークなビジネスモデルを実践する。そのフランチャイズ契約の基本は、フランチャイジーがユニオンファームの年間生産計画に参画して同社の生産基準に基づく有機野菜づくりと全量納品の義務を負い、一方、ユニオンファームはフランチャイジーを技術支援する義務を負うことにある。

「フランチャイジーには、すでにユニオンファームで栽培技術を確立した有機野菜を生産してもらい、その分、生産移管したユニオンファームでは新しい品目の有機野菜づくりに取り組んでいます」(玉造さん)

いわばユニオンファームは新品目の試作開発機能を担い、フランチャイジーが量産を担う分業制だ。

ユニオンファームのフランチャイズ制は、職業として農業を選びたいが、企業の従業員ではなく1企業の経営者として農業を営むことを希望する人には打ってつけだ。しかも栽培技術と販路が確保されるという恵まれた環境で経営をスタートできる。そこまで整った環境を提供するユニオンファームの心中には、「社会に対して農業を職業の選択肢として提供したかった」(玉造さん)ことが根強くあった。

今春、ユニオンファームは第7期の研修生を迎え、今夏には7人目のフランチャイジーを独立させる。

新規就農・新規参加者への道づくり

ユニオンファームは「新農創造」を社是とし、新しい農業のあり方、新しい農産物のつくり方、新しい農業者を生み出すことに勤しむ。

その社是の一環として、野菜のみならず米づくりでもそれを実践している。

「米は日本農業の王道ですから、ぜひともやりたいと思っていましたし、参入する大きなチャンスがあったことを機に米づくりを始めました」(玉造さん)

2009年の4haから徐々に水田を増やしていき現在は19haまで拡大している。販路も外食企業、加工食品企業、さらには海外の飲食チェーンと多岐にわたる。

「米づくりに参入した真意は、米作も新規参入する選択肢の1つにできるようビジネスモデルを確立したかった」(玉造さん)

ユニオンファームの新規就農・新規参加者への道づくりの挑戦はつづく。

企業データ

企業名
有限会社ユニオンファーム
Webサイト
代表者
玉造洋祐
所在地
茨城県小美玉市中延1712