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「音力発電(神奈川県藤沢市)」新発想でエネルギー創造

この記事の内容

  • 音や振動で発電する新技術を開発
  • IoT、再生可能エネルギーにも応用
  • 「特許技術しか商品化しない」と自信
新オフィスの前で発電床を手にする速水氏

「エネルギーのハーべスティング(刈り取る)が当社のコンセプト。世の中には未利用エネルギーがあふれており、新しい発想で技術開発していく」

こう語るのは、音力発電の速水(はやみず)浩平代表取締役。同社は社名の通り、音(音波)や振動などで発電する技術を開発するベンチャー。これまでに発電床、振力電池、振子型振動力発電装置などの商品を生み出している。音声発電機も試作機を開発済み。なかでも、創業時から販売し、現在でも主力商品となっているのが発電床だ。

これは、人が歩行したり、車が走行したりする際に床に与える振動エネルギーを電気に変換する発電機。圧力を加えると電圧が発生する電子部品「圧電素子」と発電基板で構成するシステム。発電量は歩行の場合、1秒当たり2ミリワットと小さいものの、一歩踏むと300~400個の高輝度LED(発光ダイオード)を瞬間的に発光できる。

2006年の創業の翌年には大手文具メーカーがオフィスフロアのLED誘導灯として購入。「これが話題となり」(速水氏)、その後はごみ処理やスポーツなどの公共施設、商業施設にも導入され「建築業界では知られるようになった」。現在では外部に量産発注し、コスト削減を図っている。15年度のJICA(国際協力機構)のODA(政府開発援助)普及・実証事業として、ブラジル・クリチバ市の自転車専用道路にも採用されるなど、海外でも活躍している。

速水氏が音や振動で発電できないかと考えたのは、小学校時代にさかのぼるという。理科の授業でモーターと発電の仕組みを学び、「音で発電できないか」と考えた。その想いは慶應義塾大学環境情報学部に入学しても続き、「2年生のころから本格的な研究を始めた」。最初はうまくいかなかったが、半年ほどで「圧電素子を利用することがブレークスルーとなった」。

「当初から大学発ベンチャーを狙っていた」速水氏は06年の卒業と同時に、中小機構が慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(神奈川県藤沢市)内に開所したばかりのインキュベーション施設「慶應藤沢イノベーションビレッジ」(SFC-IV)に入居し「創業のイロハから教わるなど大変助かった」。早くも同年9月には創業。公的施設に入居したことで、周囲から一定の信頼を得られたことも効果的だったという。今年1月には事業が軌道に乗ったことなどから同施設を〝卒業〟、藤沢市内にオフィスを移転したばかり。

速水氏はIoT(モノのインターネット)や既存の再生可能エネルギーのレベルアップにも取り組む。IoTでは、圧電素子の発電量を上げて無線送信の電源とする。すでに日本バレーボール協会と連携。試合会場内の数カ所のスペースに無線モジュールを組み込んだ発電床を設置し、来場者が床を踏むとスマートフォンで日本代表選手の画像が見られるほか、有名選手とAR(拡張現実)写真を撮影できるアプリを実用化した。水族館や美術館でも同様のシステムを実現。「他のスポーツ向けも開発中」だ。無線送信距離を伸ばせば、獣害などに悩む農地でも中継器なしの見張りシステムが可能だ。

再生可能エネルギーでは、水力、風力、波力などの開発に挑む。設置コストを半減させた船型小水力発電装置や、効率を3割向上させた風誘導型風車などを開発済み。今後は「波力に力を入れる」としている。日本は海洋エネルギーの宝庫だが、台風や海洋生物対策などの制約から、波力発電はいまだ実験段階。速水氏は「波力を利用した揚水発電など新しい発想で挑む」という。同社の取引先の90%は大手企業で、そのうちの複数の企業から出資を得ており、これらパートナーとも連携する考え。

「特許技術しか商品化しない」と独自の発想に自信を持つ速水氏。新しいアイデアで挑むのがベンチャーの役割とし、IoT、エネルギー分野などで新しい風を吹き込み続けそうだ。

企業データ

企業名
音力発電
Webサイト
資本金
8940万円
従業員数
6人
代表者
速水浩平氏
所在地
神奈川県藤沢市湘南台1-1-6、湘南台駅前クリニックビル
Tel
0466・53・8788
事業内容
音力・振動力発電、その他エネルギーハーべスティング技術の研究開発・コンサルティング・販売など