女性起業家応援ページ

「女性起業のトレンド」選択と集中が大切、やらないことを決める勇気も

これまで11回の記事で、女性起業家や女性の起業支援事例を扱ってきました。最終回では、これまでの記事を振り返りながら女性起業の傾向や特徴を考えてみます。

紹介事例に共通するキーフレーズ

本企画で紹介した女性起業事例には、3つの共通する特徴がありました。1つ目はこれまでにないサービスで新市場を開拓したこと。2つ目は小さく始めること。そして3つ目は最優先事項を決めて着実に事業を発展させていることです。順にみていきましょう。

これまでにないサービス

最初に「これまでにないサービスで新市場を開拓したこと」について。Waris(ワリス)は文系総合職女性と中小企業を業務委託の形でマッチングしています。時間や場所にしばられず柔軟に働きたい優秀な女性と、人材採用に困難を感じている中小企業のニーズが合致して取引先を広げています。

Trist(トリスト)は、自宅のある郊外で働きたい人に「場」を提供します。契約する法人は、家賃の高い都心部のオフィス賃料や社員の通勤手当を節約できるメリットがあります。

WarisとTristは、いずれも働き方改革の潮流を上手に捉えた新しい業態と言えるでしょう。

以前からある業態でも、新しい顧客層を掘り起こすことができます。フロントステージは創業5年ほどの中小企業を中心にPRサービスを提供しています。このステージの企業は独自性のある商品・サービスを持っていながら、事業拡大に忙しく広報に時間や人手を割くのが難しい——。ベンチャー経営を間近に見てきた経験を生かした顧客ターゲットの設定が成功した事例と言えます。

社会課題を解決する起業家もいます。ウィメンズアイは、女性のエンパワーメントを通じた地方創生を手掛けています。伝統的に若い女性に対する抑圧が強い東北地方で、それでも地元に住み続けている女性たちに生きがいを持ってもらうことが、地域の活性化につながるという信念に基づいた活動が特徴です。「地元で夢が叶えば、若い女性が定住しやすい。そのためには、働いて自立できることが大事」という石本めぐみ代表の言葉は、地方における女性の起業支援の重要性にもつながってきます。

「小さく始める」こと

次に「小さく始める」ことについて。女性社長2400人の支援を手掛けてきたコラボラボ横田響子社長は、男性起業家と比べた女性起業家の特徴として堅実さを挙げています。一般的に言って、男性起業家が創業時に立派なオフィスを借り、資金調達をしがちであるのに対し、女性起業家は最初、シェアオフィスから事業を始め、事業の基盤をある程度作ってから融資を受けるそうです。

例えば、Warisの共同創業者・田中美和さんは、最初は別の仕事もしながら、創業した経緯を話してくれました。事業プランに市場性があるかどうか、地方公共団体などが主催するビジネスプランコンテストに応募し、審査員のフィードバックを活かす過程も堅実と言えます。ちゃのま保育園では、創業者の宮村柚衣さんが当初は園長を兼ねていましたし、フロントステージの千田絵美社長は、先輩経営者のオフィスに間借りする形で創業しています。

いずれも、無理をせず過剰にリスクを取らず、現実的なところから事業を始めているのが特徴と言えるでしょう。

選択と集中

最後に、経営戦略でいちばん大切なこと、選択と集中について。事例で紹介した女性起業家は、最優先事項を決めていました。ちゃのま保育園創業者の宮村柚衣さんは「保育士さん最優先」と話しています。長時間労働で休みが取りにくい職種と言われる保育業界で、自分の子どもの運動会を当たり前のように優先できる職場環境は魅力的です。経営情報を保育士さんにもオープンに伝え、運営に参加できる仕組みも特徴的です。子どものために働きたい、と考えて保育士になった人たちの技能とモチベーションを活かすことを徹底しています。

ところで、優先事項を選択することは、優先しない事項を選ぶことにもつながります。宮村さんは保育士さん優先を決断して以降、現場の保育は保育士さんに任せることにします。自ら作った素敵なインテリアの園舎をあきらめた経緯からは、潔さと同時に本当に大事なこと以外を捨てる勇気を感じることができます。

Tristでは「託児をやらない」と決めたそうです。シェアオフィスを利用する女性からは託児サービスを求める声も強かったそうですが、尾崎えり子社長は、自らが得意とする法人営業に集中するため、保育士確保には時間が取られる託児をしないことにしたそうです。顧客の要望にただただ応え続けるのではなく、自らの強みに特化し集中し、他をやらない決断をすることの大切さが分かるエピソードです。

Ourshare(アワシャーレ)の小嶋美代子さんは、ダイバーシティマネジメントに関する講演やコンサルティング、途上国支援と幅広い活動をしています。大手IT企業の部長職を辞した小嶋さんは、もといた会社に愛着がありました。今、仕事を選ぶ基準は「できるだけ断らないようにしつつ、自分の未来を見てくれている依頼に応えること」だと言います。大企業をあえて離れたからこそ、それでもやりたいことに特化する自分なりのルールを持って仕事をしています。

支援する側の特徴

女性起業家の支援にも特徴がありました。ひとつ大きなものは「寄り添い」です。経済産業省経済社会政策室の女性起業家等支援ネットワーク事業は「ゼロ・イチ支援」に力を入れていました。これは、起業という選択肢があることを知らなかったり、自分が起業すると決意できていなかったりする段階です。結婚・出産・育児で就業を中断しがちな女性の気持ちに寄り添った支援政策は、国際協力の分野でも重視されている要素が見られました。

経産省の女性起業家支援コンテストで受賞した札幌市男女共同参画センターや、女性向け起業塾なでしこスクールの取り組みは、広い北海道全体を視野に入れた先進的な取り組みでした。特に、無理に起業を勧めるのではなく、望ましいライフプラン全体を考えているうちに起業する人もいれば、就職する人もいる——という知見は重要です。

コラボラボの横田響子社長は「女性起業家にとって成功の法則はシンプルではありません」と話します。売り上げや店舗数が増えるといったような単純な指標ではなく、私生活を含めた全体的な満足度が重要であるという指摘は示唆に富んでいます。

人生100年と言われ、シニアの就労も当たり前になりつつあります。生活全体の満足度を追求する起業は、女性だけでなく男性にも、シニアにも広がっていくのではないでしょうか。