新規事業にチャレンジする後継者
二つの“キカイ”で「本当の可能性にアクセス」【テクノツール株式会社(東京都稲城市)島田真太郎氏】
2024年 8月 2日
1. 事業概要を教えてください
事業内容はアシスティブ・テクノロジー(AT)の提供で、重度肢体不自由者向け入力デバイス、アームサポートなどの開発・輸入・販売、そして点字文書作成システムの開発・販売を行っている。また、新たに就労支援事業を始め、就労継続支援B型事業所「テクノベース」(横浜市南区)を子会社で運営している。年商は1億4740万円(2023年9月期)。スローガンは「本当の可能性に、アクセスする」だ。
機械設計エンジニアだった父(島田努氏)が1994年12月にテクノツール有限会社を設立した(1999年に株式会社化)。きっかけは、長女、つまり私の姉に重度の障害があり、4歳で急死したことだった。Windows95の上陸やインターネットの普及を追い風に、「身体的事由で外出困難であっても、コンピュータやインターネットにアクセスできれば、自宅や病院、施設にいながら他者と繋がったり、働いたり、社会参加できる」と考え、キーボードやマウスが使えない人向けの入力デバイスを開発した。
設立から2年後の1996年には、初の自社製品として「小型ひらがなキーボード/98」を発売した。これは、脳性麻痺などで手が震えるような人でも操作できるよう、二つのキーを同時に押すことがなく、50音順にキーを配列するなどの工夫を施した製品だ。それ以来、パソコンやスマホ、タブレット、ビデオゲームへと入力対象の幅を広げている。自社製品の開発だけでなく、海外製品の輸入・販売も積極的に行っている。
2. どんな新規事業に取り組んでいますか
重度肢体不自由者の働くチャンスを広げる就労支援事業に力を入れている。昨年3月の第3回アトツギ甲子園で新規事業としてピッチを行い、優秀賞を受賞した。当社はこれまでアシスティブ・テクノロジーに取り組み、その結果、重い身体障害があってもできることが増えてきた。次に、そうした「できること」をどう社会の中で発揮していくのか、社会や経済の一員として参加していくのか、を考えた末にたどり着いたのが就労支援事業という結論だった。
日本にはすでに多くの就労支援事業所があるが、重度肢体不自由者が利用できるところはほとんどない。その理由は(1)決まった場所に通わなければいけない(2)手作業や単純作業が多くマッチする仕事がない—ということだ。このうち通所については、コロナ禍を経て就労支援でもテレワークが認められる土壌ができていた。また仕事のミスマッチについては、当社のATによってパソコンの操作環境をつくり、ITを利用した仕事ができると考えた。
そして昨年12月に就労継続支援B型事業所「テクノベース」をオープンした。運営は、株式会社LITALICO(リタリコ、東京都目黒区)との共同出資で設立した子会社が行っている。オープンからまだ半年だが、すでにいくつか実績が生まれている。たとえば、テクノツールでゲームの入力支援をした神経難病患者の男性が就労を目指してテクノベースを利用しており、就労適性が高いため一般就労を目指して支援を続けている。また、iPadの操作支援をした特別支援校の生徒がテクノベースで実習を受けた。このほか、地元・横浜市や開所候補地であった川崎市の支援機関とは、開所後に見学に来てくれたり、利用候補者の紹介・受け入れの連携をしたりと協力関係が続いている。現在、障害のある人がテレワークでできる仕事を共に創るパートナー企業を募集している。
3. 事業承継をどのように決心しましたか
直接的な転機は2011年3月の東日本大震災だった。新卒入社した電子部品メーカーで営業職として2年間を過ごし、ビジネスや経営への関心が高まり、事業承継も意識しはじめたタイミングで震災が起こった。「いつ何が起こるかわからない。やりたいことがあるなら、失敗を恐れず飛び込んでみよう」と思い、父に相談した。
それまで父と事業承継に関する話をしたことはなく、収益性の低い事業であるため父も継がせようとは考えていなかった。最終的には私の意志を尊重してくれ、2012年4月に入社した。その後は前職の経験を生かし、とくに主力製品のアームサポートの営業と販路開拓に力を入れた。そして2021年に2代目の代表取締役に就任した。
4. 後継者の「魅力」や「やりがい」は何ですか
最大の魅力は数十年、会社によっては100年以上の蓄積を土台にチャレンジできることだと思う。「蓄積」とは理念、技術、設備、社員、資金、取引先、地域や文化との関係性など企業によって様々だ。
大きなお金が動かせる大企業や短期的な成長を目指すスタートアップが目立つが、中小企業も間違いなく日本のものづくりや雇用、地域の暮らしや文化、環境を支えてきたプレーヤーだ。人間の暮らしは短期的かつ直接的な経済合理性だけで成り立っているわけではなく、むしろ本来そうでない動機で行動する方が自然なはず。大企業やスタートアップは前者の経済合理性で駆動せざるを得ないのに対して、オーナーシップが強く蓄積のある中小企業は異なる合理性で事業活動ができる。社会の課題や歪みと直接関わることと、収益性を求めることを矛盾なく両立できる可能性が最も高いプレーヤーが歴史ある中小企業であり、そこにアトツギのやりがいがあるのではないかと感じている。
5. 今後の展望を聞かせてください
「本当の可能性に、アクセスする」というスローガンどおり、あらゆる人たちの本当の可能性にアクセスできる社会を目指して、重度肢体不自由者の社会経済参加を進めていく。そのために必要なものは二つの「キカイ」、すなわち機械(デバイスやテクノロジー)の提供と機会(チャンス)の創出だ。
就労支援事業、そして今年に入って始動した、車椅子ユーザーを中心とする「eモータースポーツチーム」の事業を通じて、二つのキカイづくりを行っていく。どちらも当社だけで成しえることではなく、共感してくれる企業等とのパートナーシップによって取り組んでいきたい。就労支援であれば、「障害者だから安くやってもらおう」という考えではなく、共に働く機会をつくっていこうという姿勢で挑んでくれる企業と仕事をつくり、雇用につなげていきたい。eモータースポーツチームでは、競技活動を通じて「環境次第で成長でき、対等に戦える」ことを発信し、スポンサーシップや協業により障害の有無を超えて共に楽しみ、競い合える機会創出を行っていきたい。
企業データ
- 企業名
- テクノツール株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1994年12月
- 資本金
- 1000万円
- 従業員数
- 13人
- 代表者
- 島田真太郎 氏
- 所在地
- 東京都稲城市東長沼 2106-5 マスヤビル4F
- Tel
- 042-370-6377
- 事業内容
- アシスティブ・テクノロジー(AT)の研究開発、輸入、コンサルティング、販売
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