BreakThrough 企業インタビュー
自社技術と他社技術を組み合わせて介助ロボットの実現を目指す【株式会社Piezo Sonic】<連載第2回(全2回)>
2020年 12月 14日
創業から3年足らずの間に、従来の超音波モータの倍の寿命を実現した「ピエゾソニック モータ」と、段差を乗り越えられる搬送用自律移動ロボット「Mighty」という二つの新価値を創造した「株式会社Piezo Sonic」。開発の原動力はなんだったのでしょうか。
研究者の心を折る超音波モータの研究に長年没頭
超音波モータの長寿命化の鍵を握るのは摩擦です。この摩擦と向き合わなければならない超音波モータは「研究者や開発エンジニアの心を折るテーマ」と言われています。
「実は摩擦はまだ解明されていない部分が多い分野です。摩擦係数というのも全て結果論に過ぎず、試す前に材料同士の摩擦係数を予想することはできません。その上温度や湿度など環境によっても結果は変わります。この摩擦について研究するには、とにかくトライアンドエラーの繰り返ししかありません」
あまりの難しさにテーマを変えたり、会社を辞めたりする研究者も多い中、多田氏は学生時代から20年以上もこのテーマと向き合っています。その原動力となったのが介助ロボットへの渇望でした。
「祖父が他界する前、体が不自由になるのにつれてどんどん心も塞ぎ込んでいくという姿を目の当たりにし、高齢者でも病気でもポジティブに生活できる世界を実現したいと強く思うようになりました。例えばいくら肉親であっても、何度もトイレの介助をお願いするのは気が引けてしまいますが、ロボットならそんな気苦労は必要なくなる。そのようなロボットに超音波モータは絶対に必要だと思い、この研究は自分が進めようと考えました」
足りない技術は産学官連携で補う
そして創業翌年の2018年、東京都大田区の助成のもと、同社の発案で中央大学、民間企業7社が連携するロボット開発プロジェクトがスタートします。
「ロボットに必要な要素は『行動・動作』『計測』『認識・判断』の三つです。このすべてに当社が対応するのは不可能ですから、『行動・動作』以外は他社の技術を使わせてもらう必要があります」
「ピエゾソニック モータ」は、搬送用自律走行ロボット「Mighty」のステアリングに使用され、段差乗り越え機構の設計や、そのソフトウェアの開発も同社が担当しました。一方で、センサーや画像認識など「計測」「認識・判断」にあたる部分は連携企業の技術を活用。こうして開発された「Mighty」に対しては、一部よりすでに注文が届いているほか、2021年以降に宅配業者と連携して高層マンションなどでの配達試験が実施される予定。多田氏の目標達成までの距離は着実に縮まっています。
互いの立場を理解し、一つ一つ組み上げていく
多くの企業や大学、行政組織を巻き込んだ産学官連携プロジェクトを成功に導く秘訣はあるのでしょうか?
「研究機関は関心のある領域が限定的であったり、行政組織はどんな状況でもきちんと書類を用意しなければならなかったり、メーカは仕様がしっかり決まらなければ動き出せないなど、それぞれの立場によって事情が異なることを理解する必要はあると思います」
常にそれらの中立に立ち、全体を前に進めていくのが同社の役割です。
「みんなを引っ張っていくというより、それぞれとじっくり話して、一つ一つ組み上げていくイメージです。ただし、プロジェクトには時間的な制限があります。決まらないならすべて当社が決めて、力ずくでも事業を進めるという覚悟ももっています」
今後も同社のものづくりには、連携の機会が次々と訪れることでしょう。
「あくまで介助ロボットが最終的なゴールですが、そこに向かう過程にはまだまだ多くのステップがあります。例えば『ピエゾソニック モータ』の応用品を作るにあたっては、ギヤヘッドや搬送装置、カスタムロボットのメーカなどと一緒に、互いの長所を組み合わせた製品を開発できるとありがたいですね」
連載「自社技術と他社技術を組み合わせて介助ロボットの実現を目指す」
- 第一回 長寿命の超音波モータと段差を乗り越えられるロボットを開発
- 第二回 自社技術と他社技術を組み合わせて介助ロボットの実現を目指す
企業データ
- 企業名
- 株式会社 Piezo Sonic(ピエゾ ソニック)
- 代表者
- 代表取締役・多田興平(ただ・こうへい)
多田社長が超音波モータのメーカ勤務を経て2017年に創業。「ピエゾソニック モータ」、自律移動ロボット、IoT デバイスを開発・製造・販売するファブレスメーカ。これら製品の知見をもとに、新サービス開発のコンサルティングにも対応する。
取材日:2020年10月30日