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点滴を必要とする患者の車椅子移動を簡単・安全に実現【株式会社樋原製作所】

2020年 8月 27日

車椅子取付点滴スタンド保持器「スマートキャッチャー」
既存の点滴スタンドを誰でも簡単に車椅子に連結できる
製品名=車椅子取付点滴スタンド保持器「スマートキャッチャー」

多くのキャスター移動式点滴スタンドに対応

点滴中の患者を車椅子で移動させる際、介助者にかかる負担は小さくない。点滴スタンドを転倒させないよう細心の注意を払い、走路の段差や障害物、すれ違う人などにも常に気を配りながら、慎重な操縦が求められるからだ。そんな車椅子移動の負担を軽減し、より安心安全な走行を実現したのが、株式会社樋原製作所の車椅子取付点滴スタンド保持器「スマートキャッチャー」だ。

同製品を車椅子の左側後部、車輪の内側に設置すると、レバー操作だけで誰でも簡単に点滴スタンドを車椅子に連結できるようになる。しかも、点滴スタンドは上下二箇所で固定されているため強度も抜群。多少の段差であれば、走行しても安定性を保持できる。連結器具はΦ25mm(=ミリサイズパイプ)とΦ25.4mm(=インチサイズパイプ)に適用でき、シリンジポンプや輸液ポンプを取り付けた多くのキャスター移動式点滴スタンドに対応可能だ。もちろん、患者自身が自力走行する際の優位性も高まるだろう。

患者の安全面を最優先してたどり着いた仕様

同製品は、公益財団法人田附興風会医学研究所・北野病院の協力のもと、現場からニーズを吸い上げ、現場での臨床試験を繰り返し、設計変更を数十回も行って完成した。点滴患者の車椅子移動の負担軽減および医療業務の効率化を念頭に置きつつ、最優先したのは安全面だ。当初は、点滴スタンドを車椅子の外側に固定するタイプを設計していたが、この設計では介助者が車椅子を操縦しやすくなる一方、地震など万が一の際に咄嗟の対応がしづらい点を懸念。移動時には点滴スタンドが介助者の両手の内側に位置するような設計に変更したことにより、不測の事態にも対応しやすくなったほか、25%のコストダウンにも成功した。

現場のニーズをさらなる改良に結びつける

すでに北野病院をはじめ多くの病院に導入されており、特に重度の患者が多い急性期病院などでの需要が高いという。現在、そのような医療現場のニーズに応じ、ストレッチャーへの連結を可能にする製品も開発中だ。また現状の同製品は、車椅子に取り付ける際には専門的な技能を要する仕様となっているが、これを簡素化する新機種を近々発売する予定。同製品の取り付けさえも誰でも簡単に行えるようになる新機種であれば、導入のハードルはさらに下がり、医療機関のみならず、老人ホームや各種介護施設、リハビリ施設など、ユーザーの裾野はさらに広がっていきそうだ。

超高齢社会の日本では、提供する医療の質を落とさず、いかに業務を効率化できるかが大きなポイントの一つ。現場ニーズを反映しながら改良を重ねる同製品の今後に注目しておいて損はないだろう。

取材日:2020年7月10日

企業データ

企業名
株式会社樋原製作所

1960年創業。アルミ・チタン・ステンレスなどの高速・精密な切削加工を得意とし、設計から製作・組立・検査までを一貫して行えるほか、必要に応じて高精密・複雑・薄肉加工などの技術を独自開発して対応。長年、半導体・液晶製造装置の領域で採用されてきた技術力を、近年は介護や医療機器分野にも展開。スマートキャッチャーのほかにも、車椅子に取り付けられるヘッドレスト、尿バックの取付具なども開発・販売している。