衰えぬ開発者魂
渡邉慧(オプトロン) 第4回「人真似しないモノづくり」
資本の論理
独立の出資金は渡邉と森田の2人の自己資金で都合した。渡邉が1千万円、森田が8百万円を出資して、神奈川県の相模原市で会社を立ち上げた。事業分野は工業用センサーである。
だが、外部の資金に頼らず、自己資金で起業したはずの会社は、5年後には他社の資本が入る不遇に見舞われてしまう。資金計画に甘さがあったのかも知れない。資金不足で経営を継続できない事態に陥ったのである。証券会社の仲介で、ある中堅企業から2千万円の出資を受け入れ、資本金を3千800万円に増資したまでは良かった。当然のごとく、経営にも関与してくる。非常勤の会長と役員として2人が乗り込んできた。
何しろ株式の50%以上を握っているのだから、完全な親会社である。つらい思いもしたが、幸いなことに2年ほどして、センサーは思ったほど魅力のある事業ではないと思ったのか、さっさと資本提携を解消して撤退してしまったのである。
「彼らは多角化戦略の一環としてセンサー事業に参入したわけですが、それ程儲からないと結論付けたらしいんです。技術者の私の眼からみて、センサー事業も何とか芽が出そうだと自信を深めていた矢先だったので、喜んで引き揚げてもらいました」
渡邉が目星をつけた技術とは、「精密ゴムローラー検査装置」のことだった。レーザープリンターに使う特殊なゴムローラーの検査装置のことだ。ゴムローラーにわずかでも傷があると光が漏れる特性を利用して、その傷から漏れた光を捉えて検査する仕組みになっている。1万分の1mmの分解能で、ゴムローラー1本を検査するのに3秒以下で済む優れた製品である。従来の検査方法では1時間もかかるのである。この装置にもユニークな独自開発のレゾナントスキャナーが使用されている。渡邉はこの製品について、「累積赤字を全て解消したほど売れました」と胸を張る。
もう一つ、事業の柱となったヒット商品が、光の反射波の位相から距離を測る「測距離式光カーテンセンサー」だ。これも自社開発のレゾナントスキャナーでレーザー光を60度扇形に走査し検出範囲を平面にしたユニークなセンサーである。地下鉄のホーム用ドアの残留者検出用として各ドアごとに設置されている「安全センサー」のことである。開発時には神奈川県から「先端技術製品開発奨励金」を受けた独自技術でもある。そして、当面の開発課題はこれまでの方式とは異なる「3次元センサー」の開発という。
これは電車のドアに何かが挟まっていないか、ホームから転落者がいないか、ホームドアに残留者がいないかなどを、1台で検出する多目的センサーである。
出願しないのも知的財産管理
「株式は公開し上場したい。できれば何年か後に。売上げが年率20〜30%増の勢いで伸びていますから。目標を持って前へ進まないと」
渡邉にはモノづくりの専門家として、明確な経営理念がある。「人真似は絶対にしない。後追い製品は作らない。オリジナリティーのある製品しか作らない考え方は今でも貫いています」とキッパリ言う。
渡邉には生活の中で新しいアイデアを思いつく「ゴールデンタイム」がある。1日の中でアイデアがひらめく時間帯があるのだ。自宅で一眠りした後の真夜中の午前2時から4時にかけてのこと。枕元には必ずメモ帳を忘れない。3次元センサーもそうした時間帯の中で生まれたアイデアだった。
実際にアイデアを試す場は、横浜の外れにある自宅ガレージの2階にある。ここは事業化の可能性を探る個人の予備的な施設ではあるが、小型の工作機械まで据え付けたミニ試験場の趣を持った渡邉の「アイデア道場」というべきものだ。
幅広い技術開発の経験を持つ渡邉には、知的財産管理にも一家言をもつ。
「特許を出願する際には必ず技術説明が必要です。開発した技術によっては出願しないことも高度な知的財産管理だと思います」(敬称略)
掲載日:2007年4月2日