「ジェム（観音寺市）」ITで女性・外国人を積極活用

全国展開する大手がひしめく英会話スクール業界にあって、「地方都市でも最高の教育が受けられる場をつくる」をミッションに、成功している企業がある。香川、愛媛両県に12カ所の英会話スクールを展開し、幼児から大人まで約2000人の生徒に教えるジェムだ。「講師全員がネイティブスピーカー」「スタッフ全員がテレワーク・在宅勤務が可能」などの優位性を確立し、いち早く「働き方改革」と「生産性向上」を両立させている。

創業は1981年。大学を卒業して間もない合田美雪代表が、夫の実家のある香川県豊浜町（現観音寺市）で学習塾・英会話教室を開いたのが始まりだ。転機は6年後に訪れる。米国ユタ州に渡り、現地の小学校教員として教育現場をつぶさに見た。

米国は移民大国であり、「国語（英語）教育に対する価値観が日本とまるで違うのに驚いた」と合田代表。「英語がまったく分からない子、モチベーションの低い子がたくさんいる。必然的に教育の方が魅力的になるしかない。できるだけ飽きさせず、興味を持たせる方法です」と語る。

帰国後は教育スタイルも変えた。以前は自ら教えていたが、米国人のネイティブスピーカーに任せた。「日本語に堪能でないネイティブと話が通じると、子どもたちは素直に感動する。私が教えると、どこか日本人の『狸のシッポ』が見えてしまう」。踊り演じる〝役者〟は任せ、脚本や演出といった〝裏方〟に徹した。

合田代表は米国人が話す「アメリカ英語」にこだわる

ただ、四国の地方都市に米国人を呼び寄せるのは簡単ではない。米国滞在時に築いた人脈をフル活用したほか、米国内に事務所も設けた。「小学校には大学教授らの子どもが多く通っていた。その関係で大学の卒業生を次々と呼び寄せることが可能になった」と話す。

合田代表は英語発祥の英国ではなく、米国人が話す「アメリカ英語」にこだわる。「国際学会に参加すると、米語を話す人に必ず議論が流れる。子どもたちの将来のためにも〝最強の英語〟を授けたい」という。しかも彼らには3～4年で一旦帰国してもらう。「日本に長く滞在すると、彼らの話す英会話の〝質〟が悪くなる。特に日本人と結婚したらだめになる」と、教育の質向上に徹底的にこだわっている。

実は日本の英会話スクールには、意外にも米国人講師が少ないのが実態だ。豪州やフィリピン、インドなど他の英語圏の人の方が多い。これに対し、ジェムは米国人がアメリカ英語を教える点が最大の強みになっている。

もう一つの強みは、こうした質の高い教育を安価に提供している点だ。授業料は月謝制で、入会金も年会費もない。にもかかわらず、利益を確保できるのは、徹底したITの活用により、優秀な女性を積極的に社員として雇用しているからである。　

全社員が閲覧できるクラウド型のメールシステムを導入。社員全員のメールのやり取りを集中させ、いつ、誰が、どんな内容を書いたか検索できるようにした。社員はどこにいても情報を共有できるため、テレワークや在宅勤務が可能で、勤務時間も自己申告制にした。子育てや介護などとの両立を実現し、家庭を持つ優秀な女性を雇用することを可能にした。

合田了副代表はシステムを使いこなすための社内ルールを徹底させた

合田代表の長男で、システム構築を担当した合田了副代表は「システムを使いこなすための社内ルールを徹底させた」と話す。例えば子どもが急に発熱して仕事を休む場合、届いたメールに気づいた他のスタッフがその仕事に対応する。特定のスタッフしか対応できない仕事は、気づいたスタッフがコメント欄を使い、そのスタッフに引き継ぐ。当然、日報などを書く手間も不要になる。

個人情報に配慮しながら生徒全員の氏名、住所、在籍校舎などは入力されており、スタッフが書いたメールの蓄積から生徒個人の細かな情報を共有できる。このシステムだけで顧客情報管理も実現するわけだ。

「仕事を柱に組織を構成する『ホラクラシー型』経営を行えるようになった」と合田副代表。部課長などの役職を配したピラミッド型組織ではなく、「仕事に人を付ける」フラットな組織づくりを目指している。

こうした経営・教育方針が評価され、米経済誌「フォーチュン」で毎年発表される「働きがいのある会社」に2015年から4年連続で選ばれたほか、17年には「四国でいちばん大切にしたい大賞」の中小機構理事長賞を受賞。18年は経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」、中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300」に選ばれた。

合田代表が多店舗展開を始めたのは、創業後20年目に当たる2000年。長男の了副代表が82年に生まれ、子どもが18歳になるまでは仕事を抑え気味にしたからである。自らも子育てしながら、理想の教育と働き方を追い求めてきた合田代表。働き方改革が叫ばれる時代になった今、「ようやく時代が追いついてきた」と実感している。