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コロナ禍のような「想定外のリスク」への対処法とは?【慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科教授・大林厚臣氏】<連載第3回>(全4回)
2021年 2月10日
今、目の前にある危機にどう対応し、将来のリスクにどう備えていくか——。慶應義塾大学大学院の大林厚臣教授に企業のリスク対策について伺う連載第3回では、この度のコロナ禍のように「想定外のリスク」が現実化したときの対処法について考えていきます。
想定外の事態では、リスクの連鎖を食い止める
想定外のリスクが現実のものとなり、被害が出てしまったときに心がけるべき点について、大林氏はまず「被害の拡大を食い止めること」を挙げました。
「リスクは連鎖します。例えば地震で生産設備が壊れ、事業の停止を余儀なくされたとき、地震という『本質的な原因』により、生産設備という『経営資源』が損なわれた結果、『事業』レベルで被害が出るという連鎖が生じています。被害の拡大を防ぐには、この連鎖を断つことが大切。そこで役立つのが『経営資源』にフォーカスした『代替』による対応です」
仮に災害などで生産設備が故障しても、予備の設備を用意しておく、連携先に代替生産を頼んでおくといった「代替」手段を整えておくことにより、操業停止で取引先にも迷惑を掛けるという「事業」レベルの被害を防げます。例えば事業拠点の「代替」手段であるテレワークが、地震による交通遮断にも、感染症対策にも有効なように、「代替」なら一つの対策で多様なシナリオをカバーできるのもポイントです。
コロナ禍に求められる「急速なイノベーション」の視点とは
コロナ禍は未知の感染症であったことに加え、被害が広範囲に長く続くことが対応を難しくしています。ただ、「危機対応=急速なイノベーション」という視点から状況を見渡してみると、道が開ける可能性があると大林氏は指摘します。
「『シーズ』を組み合わせることによって、『ニーズ』を満たす革新的なものを生み出す。これが私の考えるイノベーションの本質です。危機対応も、あり合わせの代替手段を組みあわせながら、喫緊のニーズを満たすという構造は同じ。しかもそれを時間のない中で行うわけです」
こうした「サバイバル」とも言える状況で大切なのはニーズの優先順位づけ。まずは無数のニーズのうち、本当に必要なものは何かを見極めた上で、「使えるものは何でも使う」という心構えで機転を利かせ、今ある「手段=シーズ」を転用しながら急場をしのぎます。このとき平時と同じ完璧さを求めないことも大切。「使いながら改良していく」という前提で、完成度より実用可能性を優先させるべきといいます。
コロナ禍の需要減にも「急速なイノベーション」が有効
コロナ禍においては、主力事業の需要減に悩む企業も少なくないでしょう。リスク対策の話からは少し離れますが、こうした需要減に対応するにも「急速なイノベーション」の考え方がヒントになりそうです。大林氏は、三重県にある金属加工メーカーの新製品開発の例を紹介してくれました。
「接触感染への注意が強く呼びかけられていた昨年4月、同社は殺菌力の高い純銅で、電車のつり革やドアハンドルに直接触れずに済むフックを製作。発表後すぐに問い合わせが殺到し、一時受注を停止しなければいけないほど高い注目を集めました」
市場の新たなニーズをいち早く掴み、自社で持っていた金属加工技術と銅の性質を組み合わせ、そのニーズに応える新製品をつくる。これも危機に対応した一つのイノベーションと言えるでしょう。
次回最終回では、今後想定しておくべきリスクや、中小企業がBCPを策定する際のヒントなどについて紹介します。
連載「BCP策定の一歩を踏み出し、中小企業の基盤強化につなげてほしい」
- 第一回 コロナ禍で注目の「BCP」は、中小企業のリスク対策にどう役立つのか?
- 第二回 企業のBCP策定に役立てたい、リスク対策の三つの手段
- 第三回 コロナ禍のような「想定外のリスク」への対処法とは?
- 第四回 BCP策定の一歩を踏み出し、中小企業の基盤強化につなげてほしい
大林 厚臣(おおばやし・あつおみ)
慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科 教授
1983年、京都大学法学部卒業。日本郵船株式会社を経て、1996年にシカゴ大学行政学博士号(Ph.D.)を取得。慶應義塾大学大学院経営管理研究科の専任講師、助教授を経て2006年より現職。2018年からは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)課題「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」評価委員長も務める。経済学、産業組織論、リスクマネジメントなどを専門とし、企業等の事業継続・防災評価検討委員会座長など多数の政府委員も歴任。
取材日:2020年12月10日