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「C-INK(岡山県総社市)」「ナノインク」で世界に挑戦

この記事の内容

  • 材質を選ばず多様な基板に電子回路を書き込めるナノインクを開発
  • 大学発ベンチャーとして起業。専用インクジェットプリンターを開発
  • イスラエルに事務所、米シリコンバレーで営業開始へ。狙うは世界市場
市場関係者に披露した専用インクジェット印刷機を紹介する金原氏(ナノテック会場のブースで)

フィルム、ガラス、セラミック、紙など多様な基板に電子回路を書き込む。そこで使われるのは導電性が高い金、銀などの金属粒子を溶剤に混ぜたインクだ。この製造過程ではどれだけ不純物を取り除けるかがポイントとなる。

ナノ(10億分の1)メートルという超微細レベルで金属粒子に付着する有機物を取り除き、品質の良い金属膜を容易に形成できる印刷。これを可能にしたのが、C-INK(シー・インク)代表取締役の金原正幸氏(40)が開発したナノインクだ。

「数10ナノメートルの金属ナノ粒子が液中分散している状態がナノインク。これを塗布乾燥させると、ナノ粒子が緻密に並んだ薄膜になり、熱処理するとナノ粒子特有の融点降下により粒子同士が融着し金属結合を形成する。その結果、ナノインクによる塗布膜は、金属箔に近くなる。これが従来の塗布材料との大きな違い」という。

低温で熱処理ができるので、高温だと変化する基板材料にも電子回路を書き込め、経年による酸化は最表面だけで内部までは届かない。抵抗率は従来の銀ペーストと比べ10分の1程度。さらに、家庭用インクジェットプリンターで利用できる。

「科学者として研究に没頭していた時期は、社会への応用までは考えていなかった。だが、常識を突き破る極めて金属純度の高いインクを開発でき、これは必ず世の中の役に立つことを確信した。多くの企業で生産プロセスの効率化に貢献する」と金原氏は語る。

筑波大学大学院で無機ナノ粒子の研究に従事し、岡山大学の助教として教鞭をとる傍ら2010年に独自理論による導電性金属ナノ粒子の開発に成功。

こうして在任中の12年、前身となるコロイダル・インクを設立した。会社設立後も実用化に向けた研究開発を続け、社長業に専念するようになったのは15年4月から。「現在は科学者より経営者の意識が強い」と話す。

設立当初は、金属インク原液を生産・提供する会社だったが、水溶液なのでインクジェットプリンター用のインクにもなることを知る。不純物が少ないインクは安定的にノズルから噴射でき、詰まることがない。手軽に電子回路を作れるインクは、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代には欠かせない存在になることが見込まれる。

ただ、現状のプリンターではA4サイズが一般的で、基板材料が限られてしまう。基板の大量印刷も時間がかかる。ナノインクを普及させるには、金属ナノインク専用のインクジェット印刷機が必要だった。これを開発し、今年2月に東京・有明の東京ビッグサイトで開催された国際ナノテクノロジー総合展(nano Tech2017)で披露し、多くの来場者にアピールした。これでナノインク普及への〝武器〟が整った。

本格的な販売体制の構築などは、これから。会社設立当初は、多くの日本企業に商品説明に歩いたが、結果として見向きもされなかった苦い経験がある。国内から海外ではなく、むしろ海外から国内への展開が必然だったのかもしれない。

昨年11月にジェトロ(日本貿易振興機構)の支援でイスラエルを視察。「積極的なベンチャー支援のあり方に驚いた。ここにビジネスチャンスがあると強く感じ、帰国した翌月に再び訪問し、事務所を設立した」という。

今年1月には中小機構のF/S支援(実現可能性調査)で米シリコンバレーの先端企業8社を訪問し、ナノインクを説明した。「まだ公表できないが、電子回路以外にも利用法があり、大きな反響があった」と十分な手ごたえを掴み帰国。すでに米国の営業担当を配置している。

米国企業がナノインクを採用すれば、生産現場であるアジア各国への輸出につながる。国内での本格展開を飛び越え、活躍の場は世界になる。

「海外での需要は確実にある。どこでビジネスをするにせよ基本は顧客目線でいることであり、利益は後からついてくる。私にとっての経営は、よき仲間を作ることだと考えている」と金原氏は強調する。

企業データ

企業名
C-INK
Webサイト
設立
2012(平成24)年8月
従業員数
6人
代表者
金原正幸氏
所在地
岡山県総社市赤浜550
Tel
0866・92・5111
事業内容
金属ナノインクの生産および供給

※16年12月1日に社名変更(旧社名・コロイダル・インク)