中小企業応援士に聞く

高品質な電子機器を支える提案型企業【特殊精機株式会社(福島県喜多方市)代表取締役・慶德孝幸氏】

中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する 全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。

2022年 1月31日

代表取締役の慶徳孝幸氏
代表取締役の慶徳孝幸氏

1.事業内容をおしえてください

2008年に完成した那須工場
2008年に完成した那須工場

1963年(昭和38年)8月に、消防設備や防災システムの設計・施工業として東京で創業した。66年に福島県喜多方市に喜多方事業所を開設し、コンピューター用記憶装置の製造を開始。91年には本社を東京から喜多方市に移転した。

現在は本社・岩月工場(福島県喜多方市)と那須工場(栃木県那須塩原市)の2カ所を拠点としている。このうち本社・岩月工場は、高級一眼レフカメラ用交換レンズや、オールラウンドレシーバー、高級ヘッドフォンアンプ、IoT(もののインターネット)製品などの完成品が主力。一方の那須工場は、さまざまな電子部品をプリント基板に実装するSMT(表面実装)が主力で、放送映像・医療・車載・産業機器・IoTから5G(第5世代移動通信システム)対応など高品質が要求される通信機器関連の基板を製造している。

日本ビクターのカラオケ10万台生産達成を記念し、1981年に社員の手造りでカラオケ神社を工場内に建立した
日本ビクターのカラオケ10万台生産達成を記念し、1981年に社員の手造りでカラオケ神社を工場内に建立した

新型コロナウイルス感染症については、サプライチェーン(部品供給網)の寸断や世界市場の冷え込みが影響し、最も落ち込んだ2020年5月の売上高は前年同月比で30%減少した。直近の2021年6月期の売上高も、新型コロナウイルス感染症や半導体不足などの影響で伸び悩んでいる。

対策として、全従業員を対象に月2~3日の計画休業を実施し、雇用調整助成金を活用した。また資金繰りに関しては、新型コロナウイルス感染症の長期化を想定し、無利子融資や行政の給付金・補助金を利用した。

2.強みは何でしょう

目視支援検査装置による品質確認
目視支援検査装置による品質確認

半世紀にわたって蓄積した技術力と経験値に基づく対応力・提案力だ。「上流から品質を造りこむ!」をコンセプトに掲げ、「かゆいところに手が届く」問題解決・提案型企業として、手作業による一点ものの試作から多品種小ロットの生産まで手がける。電子部品の実装から完成品の組み立てまでの一貫した品質・工程管理をジャストインタイムで提案・対応できる点が強みだ。

とりわけ那須工場で行う電子基板実装では、0402サイズ(0.4mm×0.2mm)の微細チップ部品の実装をはじめ20年以上にわたる実績がある。これまで積み重ねてきたノウハウと最新設備とで高難易度のプリント基板実装を最も得意としている。

那須工場は2ライン構成であり、両ラインに3D印刷検査機をはじめ実装検査装置、外観検査装置、X線検査装置を備えるとともに、熟達した社員による検査を行うなど、万全・充実の品質保証体制で取り組んでいる。また工場内の静電対策、温湿度、RoHS10、クリーン度管理も徹底している。

3.課題はありますか

導入した管理システムと5S化された製造ライン
導入した管理システムと5S化された製造ライン

2014年に代表取締役に就任するまでは、国内生産が盛んであり、「作れば売れる」という時代であった。しかし、海外製品の台頭により国内メーカーの生産量は減少し、低コスト・大量生産の拠点が日本国内から中国やASEAN(東南アジア諸国連合)地域に移行。当社の大口取引先の工場が閉鎖されたことにより、安定した受注が見込めなくなり、その対応に追われることになった。

打開策として、まず量産志向だった業態を転換し、多品種・小ロット・短納期を強みに掲げて、自社の技術対応力・提案力を武器に取引先を開拓した。入社以来、製造管理や品質管理、リペアー、営業、また協力企業への出向など、多種多様な現場で得た経験が役に立った。

また、そのタイミングで中小機構東北本部の「専門家継続派遣事業」を受けることができ、PDCA管理の仕組み化や実装ラインの生産効率向上を図ることにより、筋肉質な企業体質へと変わるための強力な後押しとなった。その結果、人員削減をすることなく黒字化を達成することができた。

昨今のコロナ禍での課題としては、世界的に半導体やモールドコネクタの生産量が低下し、必要量が供給されないという異常事態となり、受注した製品の部材の納品に遅れが生じていることが挙げられる。部材の納品が遅れると、受注案件のスケジュールが予定どおり進行せず、ラインの稼働計画に大きな影響を及ぼすこととなる。

このような外部環境にも耐えうる企業体質を目指し、中小機構が提供するITを活用して課題を解決する「戦略的CIO育成支援事業」を2020年7月から受けている。事前にシステムの導入効果をシミュレーションし、月200万円程度のコスト削減を見込んでいる。現在、計画したスケジュール管理と部材管理システムを導入し、昨今の部材要因による生産計画の急激な変更に耐えうる運用を開始した。

4.将来をどう展望しますか

リーン生産方式の活動メンバー
リーン生産方式の活動メンバー

当社はまもなく60周年を迎える、いわゆる〝還暦〟企業。これを機に、自社の更なる躍進を図るべく新たなスローガンとして「チャレンジ&イノベーション」を掲げた。

また活動方針を明確に打ち出すべく、理念の一つとして「T・S・K」を意識。これはそれぞれ「TRUST=信頼」「SPEED=速さ」「KIND=思いやり」を結び付けた標語であり、企業活動すべての根底にあるべき理念であると考える。

また、これらの理念を社内に浸透させるためのツールとして、2018年6月に新たに取得した2015年度版の品質マネジメントシステムの国際規格「ISO9001」と、環境マネジメントシステムの国際規格「ISO14001」を日々の業務の中に組み込み、実践している。これにより全社員にわが社の理念を〝腹落ち〟させ、お客様のお役に立てるよう全社一丸となって取り組んでいきたい。

5年後には売上高5億円を目指している。高付加価値で高い成長を期待できる医療や通信(5G)分野の新規顧客を開拓し、これまでに2社と取引を開始した。また生産設備の自動化やIT化による生産の効率化をさらに進め、目標を達成したい。

5. 経営者として大切にしていることは何ですか

60年近くの間、我が社は地域に支えていただき、地域とともに成長してきた。そして、地域にはお世話になった方々や我が社のOB・OGも大勢いる。その皆様との繋がりに感謝するとともに、地域の清掃活動を通じた環境保全や課外授業、講演活動、インターンシップの受け入れ、工場見学会などを行うことを通じて、地域に還元し、共に成長貢献することのできる企業を目指していきたい。

6.応援士としての抱負は

いわゆる「団塊の世代」が後期高齢者(75歳)に達し、医療・介護といった社会保障面で課題が噴出する「2025年問題」に象徴されるように、企業の生産性や後継者不足の問題は益々顕在化してくる。今こそ、より強い企業体質が求められる。

当社が中小機構から受けた支援内容は非常に役に立つものであり、経営体質強化が必要な企業にとっては有益な手段となり得る。より多くの企業に中小機構の支援メニューを活用してもらえるように積極的にPRしていくほか、経営に悩んでいる企業に対して遠慮なく中小機構に相談するよう背中を押したい。

企業データ

企業名
特殊精機株式会社
Webサイト
設立
1963年8月
代表者
代表取締役 慶德孝幸氏
所在地
福島県喜多方市岩月町宮津字堰東5466-2
Tel
0241-22-4331

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