BreakThrough 企業インタビュー
金属3Dプリンタとデジタル倉庫サービスで、金型レスのものづくりを目指す【伊福精密株式会社】(兵庫県神戸市)
2020年 4月 28日
「伊福精密株式会社」は、半世紀にわたり磨き上げてきた高度な切削加工技術と、金型などのデジタルデータ、金属3Dプリンタを組み合わせることで、製造業における“金型レスのものづくり”の実現に取り組んでいます。また自社工場のデジタルファクトリー化による生産性向上も進める同社の代表取締役社長の伊福元彦氏に話を聞きました。
金属3Dプリンタの造形技術と切削加工技術を融合
数年に1回しか使うことのない極小ロットの金型や、万一を考えて保有している古い金型の保管・メンテナンスのコストが、中小ものづくり企業の負担になっています。同社は、このような金型や製品を3Dデータ化しておき、必要な時に切削技術と3Dプリンタなどを使って製造できるように準備する「デジタル倉庫サービス」(特許出願中)で、“金型レスのものづくり”を推進します。
金属3Dプリンタは金型を必要とせず、切削加工では実現困難な形状の造形物や、多くの手順が必要な造形物をワンストップで製造できるメリットがあります。しかし現時点では、造形技術や精度の面で、切削加工技術に及びません。そこで同社の金属加工の技術が活きてきます。
「3Dプリンタで生産した製品の仕上げはお客様に任せるという3Dプリンタサービス系の企業は少なくありませんが、当社ではすぐに使える完成形の状態に加工して提供します。ピンの穴あけや表面加工など細かいご要望に応じるのはもちろん、各業界で必要な認定や承認をとるための資料提供や設計手順の開示も行うなどとことんお付き合いします」
金型などの3Dデータ保管・再現が可能に
「デジタル倉庫サービス」では、造形したい物や金型をスキャンするか、図面からデータを起こす形で3Dデータ化。そのまま保管するだけでなく、同社では「リバースエンジニアリング」も提供しています。
「取得した3Dデータを当社で調整した上で、3Dプリンタを使って造形物の試作品をつくり、実用テストを実施。そこでお客様のOKが出たデータを保管します。このデータを用いた製造には1個から対応できますし、例えば海外などで製造したい場合にも低コストで素早く対応できるよう、データはお客様にも共有します」
同社では現在、50年後も100年後も「デジタル倉庫サービス」を活用できるような仕組みを検討しているほか、「株式会社山本金属製作所」との連携で金属3Dプリンタ製の造形物の評価方法の簡易化の検討を共同で進めています。
新しいものを取り入れてものづくり王国の復権を
同社のデジタルデータの有効活用は、自社工場の運営にも及びます。
「工場内の工作機械などはすべてネットワーク化し、リアルタイムで稼働状況を把握できるようにしました。また全従業員にiPadを支給。工程管理や進捗状況の確認、社員の予定把握なども簡単に行えます。次に考えているのはRFID※タグを用いた製品の管理です。このように、大規模なインフラ投資なしで取れるデータの活用に注力しています」
自社が培ってきた高度な技術を核としながら、新ツールも積極的に取り入れ、次世代のものづくりの方法を次々に提案し続ける同社。工場見学の受け入れなど情報開示も積極的に行うことで目指すのは、ものづくり王国・日本の復権です。
「ドイツやアメリカなど3Dプリンタ活用の先進国によく学びに行きますが、現地では熟練工による今の日本の高い加工技術を10年後に提供することは難しいと考えられています。ただ、海外の最新情報やツールを組み合わせていけば、この見立てを覆すことは可能です。外国勢との本格的な競争が始まる前に、国内企業と情報を共有しながら連携を強化しておきたいですね」
※Radio Frequency Identifierの略。名称・製造年月日などの電子情報が入力された「RFタグ」を商品に貼り付け、「リーダライタ」などでその情報を読み込むシステム。
企業データ
- 企業名
- 伊福精密株式会社 IFUKUSEIMITSU Co.,Ltd
- Webサイト
- 設立
- 1970年創業
- 法人番号
- 6140001015738
- 所在地
- 〒651-2124 兵庫県神戸市西区伊川谷町潤和西ノ口750番地6
- Tel
- 0789786760
1970年に創業した前身の「伊福工作所」時代より、多種多様な加工・検査設備を用いて、試作品・量産品の製作、治工具・金型の設計製作、難加工材の工法開発、製品測定事業などを手掛ける。2007年に「第4回切削加工ドリームコンテスト」金賞受賞。17年に兵庫県知事より「経営革新」事業所、18年に兵庫県より「ひょうご成長期待企業」にそれぞれ認定。
取材日:2020年 2月18日