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仮設水処理技術でコスト圧縮、工期短縮 地球環境保護にも貢献「セイスイ工業株式会社」

2023年 2月 20日

セイスイ工業が世界に誇る技術である仮設水処理プラント
セイスイ工業が世界に誇る技術である仮設水処理プラント

地球上でもっとも使われている資源といえる水。“水を清める”との意味を社名に込めたセイスイ工業株式会社は仮設の水処理プラントのレンタルを手掛ける。土木工事などで発生する泥水の処理コスト圧縮や工期短縮、環境保全につながる「土木泥水再利用システム」をはじめとした同社の技術は、SDGsの目標達成にも貢献しうるとして国内外で注目を集めている。

大量の泥水を高速処理 現場で何度も再利用

ちばリサーチパーク内に所在の本社
ちばリサーチパーク内に所在の本社

同社は1974年、現在の井本謙一社長の父、良三氏がサンハイ興産株式会社として東京都内で創業。それまで商社で環境関連機器を手掛けていた良三氏は、高度成長が続くなか、いち早く環境問題に着目し、独立して水処理関連機械の仲介やレンタルを手掛けた。1990年には現社名に変更し、本社も千葉県習志野市に移転した。

バブル景気で土木工事が活況を呈し、同社は東京湾アクアラインなど多くの工事現場に水処理機械をレンタルしていたが、バブル崩壊後の景気低迷で苦境に。良三氏から協力を求められた井本社長は当時勤めていた土木関係の設計コンサルタント会社を辞め、1998年に父親の会社に入社した。

その後、経営の立て直しを進めた同社は2000年3月、土木工事で発生する大量の泥水を高速・連続的に処理する土木泥水再利用システムを開発し、提供を始めた。これは、工事現場に遠心分離機を設置し、泥水を水と汚泥に分けるシステムで、その水を工事用に何度も繰り返し利用できるものだ。

土木工事では、ウォータージェット工法(超高圧水でコンクリートなどを洗浄・切断・剥離する工法)を用いるなどして大量の泥水が発生する。その泥水については、現場内に設置した濁水処理設備で汚泥を沈澱させ、上澄みを再利用するという方法がよく行われていた。しかし、沈殿待ち時間で工期が長くなったり、再利用できない高濃度の泥水を産業廃棄物として処理することで費用がかさんだりといった課題があった。

被災した水力発電所でも仮設水処理プラントは活躍
被災した水力発電所でも仮設水処理プラントは活躍

同社のシステムは、泥水から短時間で工事用高圧水を生み出すことができ、処理コストを30%以上削減し、工期を12%以上短縮する効果が見込めるという。また、従来は産廃として処分していた泥水を再利用することで、地球環境の保護にもつながっている。「顧客(ゼネコンなど)が現場で困っていること、こうなったらうれしいことを調べ、それらを解決・実現するにはどうしたらいいかを常に考えている」(井本社長)としており、その積み重ねから土木泥水再利用システムは誕生したという。

2020年4月には新技術情報提供システム「NETIS(ネティス)」に登録された。NETISは国土交通省が運営するデータベースで、民間企業などが開発した土木工事関連の新技術に関する情報を共有・提供。公共事業を含め工事を行うゼネコンなどはNETISを通して求める技術を検索できる。NETISへの登録はその10年ほど前から検討していたが、「登録だけしても実績がないとゼネコンには選んでもらえない」と井本社長。その後、数多くの現場で実績を残したうえで満を持しての登録となった。この戦略が奏功し、NETIS経由の売上高が現在2億~3億円にのぼるという。

東日本大震災、台風など大規模災害で下水処理

今年1月にUAEで開催された「ザーイド・サステナビリティ賞」授賞式
今年1月にUAEで開催された「ザーイド・サステナビリティ賞」授賞式

父親の跡を継いで2代目社長に就任した2009年に2億8000万円だった売上高は2020年には10億円に増加。事業拡大に伴い、より広い敷地を求めて2016年には本社を千葉市内に移転した。こうした成長の原動力となったのが、工場内の排水処理や下水処理場でのトラブル発生時などにレンタルする仮設の水処理プラントだった。「公共事業をはじめ土木工事が縮小する一方で、土木工事以外での水処理ビジネスの市場規模は伸びている」と井本社長。現在の売上高の8割は土木工事以外だという。

同社の技術は大規模災害の復旧事業でも注目されている。2011年の東日本大震災で被災地のインフラ施設が軒並み被害を受けたなか、仮設水処理プラントを短期間で設置し、施設が復旧するまでの間、被災地の下水処理に対応した。こうした実績で同社の認知度は上がり、東日本を中心に甚大な被害をもたらした2019年10月の台風19号では、復旧工事が必要となった下水処理場10カ所のうち長野県内や福島県内など5カ所で仮設の下水処理を担うこととなった。

また、アラブ首長国連邦(UAE)が主催し、持続可能な課題解決に取り組む世界各国の中小企業などを表彰する今年度の「ザーイド・サステナビリティ賞」で水資源部門のファイナリストに選出された。SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」の達成に貢献できうる同社の技術は海外でも高く評価されているのだ。井本社長は今年1月に同国で開催された授賞式に出席。受賞は逃したものの、授賞式に参加した各国の投資家らに自社の技術をアピールできたという。

従業員の高い志で目指すは「日本一」

仮設水処理技術で社会課題解決への貢献を目指す井本社長
仮設水処理技術で社会課題解決への貢献を目指す井本社長

国内外で話題を集める同社は「日本一の仮設水処理技術で世界に存在する社会課題解決に貢献する」との目標を掲げている。その実現に向け、とくに力を注いでいるのが従業員の意識変革だ。中小機構のハンズオン支援を活用するなどして各種の研修を活発に実施している。

「従業員は力をつけ自信も深めているが、『日本一の~』という目標に対しては引き気味になるなど反応は微妙だ」と井本社長。そしてビジネス関連書籍でも紹介されている「3人のレンガ職人」の話を引き合いに出した。

教会の建設地で働く3人の職人に通りがかりの旅人が「何をしているのか」と尋ねたところ、1人目は「親方の命令でレンガを積んでいる」と、2人目は「大変だが、賃金がいいからやっている」と答えたのに対し、3人目は目を輝かせながら「歴史に残る偉大な教会の大聖堂を造っている」と答えた—というものだ。

「同じ仕事をしていても志が違う。当社のビジネスモデルは世のため人のために大いに役立つものだ。従業員には高い志を持ってほしい」と井本社長は話している。

企業データ

企業名
セイスイ工業株式会社
Webサイト
設立
1974年4月
資本金
2000万円
従業員数
15人
代表者
井本謙一 氏
所在地
千葉県千葉市若葉区上泉町424-18 ちばリサーチパーク内
Tel
043-312-0895
事業内容
水処理機材・プラントのレンタルなど