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「農業総合研究所」農業を儲かるビジネスに

この記事の内容

  • 日本の農業を何とかしたい、との想いで会社勤務から農家に弟子入りする
  • そこで知ったのは「農業はつまらない」ことだった
  • 「直売所」を設置し新鮮な農産物を生活者に提供、農家の収入アップの仕組みを構築
「農業への情熱を燃やし尽くす」と語る及川社長(東京営業所で)

農業はビジネスであるはずだ。生産し出荷する一連の過程は製造業と同じだが、個々の事業規模、利益率の差はあまりにも大きい。その要因は自然に左右されるリスクや法制度、個人経営など多くの面から指摘することができる。「ビジネスとして農業を捉えるようにすれば、おのずと道は拓ける。そのツールを提供していきたい」と農業総合研究所代表取締役社長の及川智正氏(42)は強調する。

大学で農業経済を学んだ及川氏は、一般事業会社に就職したが「日本の農業を何とかしたい」との考えを捨て切れず、農業を営む妻の実家に〝弟子入り〟して野菜作りを修行した。ここで「農業は面白くない」ことを知ったという。

苦労して作った野菜を農協に収め、その際に手にするのは出荷票だけ。いくらで売れたのか、どこで売るのか、誰が買ったのかは分からない。「ありがとうの一言すらもらえない農業でいいのだろうか」という疑問が、起業への引き金になった。

農業修行の次に青果店を経営し、そこで「生産」と「販売」現場のギャップを埋める必要性があると実感。そして、わずか50万円の資金で農業総合研究所を設立した。設立から9年目となる昨年6月、東証マザースへの上場も果たした。中小機構が主催する、志の高いベンチャー企業経営者を顕彰する「Japan Venture Awards2016」では大賞にあたる経済産業大臣賞を受賞するなど、社会的貢献度の高い事業が評価された。

農業総研の事業内容は、都会のスーパーに置かれた産直コーナー「農家の直売所」の運営。農家は採れたての野菜を袋詰めし、自ら値段を決め全国71カ所ある集荷場を選んで出荷できる仕組み。市場を通さない分、翌日には直売所に野菜、果物が並ぶので新鮮さは抜群。直売所があるスーパーは1000店を超え、契約農家も約7000人に達する。拡大への勢いは、加速度を上げている。

「農業とは、作るところから食べるまでをいう。だから、買ってもらうハードルを下げる取り組みを農家と一緒に行う事業だ。農家の収入増になり生活者は新鮮な農産物を手にすることができる」シンプルな取り組みを事業化しただけ。それは既存の農業流通を全面否定することではなく、新たな選択肢を加えただけだともいう。また、現在はこの取り組みを海外でも展開中。日本の新鮮な農産物を香港へ輸出している。

その運営に不可欠となるのがIT(情報技術)の活用だ。これは「最初に描いたアナログの仕組みを効率化した程度で〝泥臭いIT〟だと思っている。誰もが思いつくことをしているに過ぎない」と話す。

課題は営業利益の低さ。農家の収入が増え、流通コストを除くと2%程度にしかならない。これは農産物の取扱高を増やすことで乗り切る方針で「当面は1000億円を目指し18年後までには最低でも1兆円の大台に乗せていく」ことを目標にする。

まだ、現実は「任重くして道遠し」の状態だが、農業を産業化し、他業界と同じレベルにまで引き上げる取り組みへの挑戦は続く。

企業データ

企業名
農業総合研究所
Webサイト
設立
2007(平成19)年10月
資本金
1億9900万円
従業員数
130人
代表者
及川智正氏
所在地
和歌山県和歌山市黒田17‐4
事業内容
農家の直売所運営、農産物流通販売、農業コンサルタント
上場
東証マザース(2016年6月)

プロフィール

及川智正 (おいかわ ともまさ)

1975年生まれ。東京農業大学農学部農業経済学科卒業後、サラリーマンを経て2003年、和歌山県にて新規就農。06年、野菜ソムリエの店エフ千里中央店開設スタッフへ譲渡。07年農業総合研究所設立、代表取締役に就任。