未来航路

畑に眠る資源だったパイナップル葉を繊維へ“REBORN”【株式会社フードリボン(沖縄県大宜味村)】

2025年 9月 16日

沖縄本島北部の大宜味村でフードリボンを創業した宇田悦子氏
沖縄本島北部の大宜味村でフードリボンを創業した宇田悦子氏

「捨てるものがない明日へ」とのスローガンを掲げる株式会社フードリボンは、シークヮーサーやパイナップルといった沖縄県の特産品を活用した商品開発を進めている。これまで活用されず畑に眠っていたパイナップルの葉から繊維を抽出する事業は海外でも展開しており、創業者の宇田悦子社長は、世界の天然繊維の5%を未利用資源でつくることを目指している。

シークヮーサーをきっかけに“長寿の里”で起業

2024年5月にオープンした本社工場
2024年5月にオープンした本社工場

沖縄本島北部に広がる世界自然遺産・やんばるの森。その中央部に位置する大宜味村(おおぎみそん)は、世界でも有数の「ブルーゾーン(健康長寿地域)」だ。“長寿の里”で暮らすおじぃ、おばぁたちの元気の源と言われるのが柑橘類のシークヮーサー。この特産品をきっかけにして宇田氏は起業した。2024年5月には、やんばるの玄関口にあたる国道331号線沿いに本社工場がオープンした。

宇田氏は神奈川県出身。美容関係の企業に勤務していたが、3人目の出産を機に退職。その後、個人事業として様々な業務委託を受けるなかで、国内各地の農水産物の未利用資源の活用に関わることになった。そこでたどり着いたのが大宜味村のシークヮーサーだった。同村は県内最大かつ国内最大の生産量を誇るが、9割が果汁として使われ、その搾りかすが利用されずに多くが処分されていた。2017年に同村を訪れた宇田氏は果皮を含めてシークヮーサーを丸ごと製品化する企画を立ち上げ、同年9月にフードリボンを創業。社名の「リボン」には、生産者から消費者までを結ぶ“リボン”、未利用資源を生まれ変わらせる“Reborn(リボーン)”の二つの意味を込めている。

おばぁから教わった島言葉を創業の原点に

地元のおじぃ、おばぁが出演したシークヮーサー100%ジュース「OH, GIVE ME LOVE」のCM
地元のおじぃ、おばぁが出演したシークヮーサー100%ジュース「OH, GIVE ME LOVE」のCM

「かふうあらしみそーれ、とぅくとぅみそーれ」。

これは「あなたに幸せが訪れますように、善い行いをしましょうね」という意味の島言葉で、同社の理念の核となっている。自分たちのことだけでなく、子や孫の世代の幸せを願い行動すれば、やがて自分に幸せが返ってくる-。そんな世界をつくっていこうという思いが込められている。

この言葉は、宇田氏が事業を始めて間もない頃に出会った地元のおばぁから教わった。「あなたたちがやっていることは素晴らしいわ」と声を掛けられたことが始まりで、それ以降、何度となくおばぁの自宅に招かれるようになった。シークヮーサーの果皮から作った粉末を使った食べ物をふるまってもらい、村の歴史や暮らし方を教わり、対話を重ねるなかで、忙しない毎日に大切なものを忘れていた自分に気がついたという。このやりとりをきっかけに、おばぁをはじめ、応援をしてくれている地域の人たちへの感謝の気持ちと、支援に対してきちんと結果を返そうという決意を込め、おばぁから教わった島言葉を創業の原点としたのである。

同社はその後、沖縄県内外の企業とのコラボで、無添加ジュースや果皮サプリメント、化粧品、飴、アロマオイルなどの開発をスタート。このうち大宜味村のシークヮーサーを使った100%ジュースは現在、村名をかけた「OH, GIVE ME LOVE(オーギミラブ)」として販売されている。

独自開発の機械で微細な繊維を抽出、残渣も活用

独自の繊維抽出機でパイナップルの葉(一番奥)から繊維(手前)がつくられる
独自の繊維抽出機でパイナップルの葉(一番奥)から繊維(手前)がつくられる

パイナップルの商品開発は2019年に始まった。同村の隣で国内最大のパイナップル生産地である東村(ひがしそん)から「シークヮーサーの次はパイナップルでもなにかやってほしい」と持ち掛けられたのが始まりだった。宇田氏はパイナップルの果実を収穫したあと畑に残る葉に着目し、葉から繊維を取り出して衣料に使うことにした。

「最初は従来の海外製機械を使って繊維を抽出しようとしたけれど、作業効率や品質面で問題があった。ならば自分たちでつくろうと決め、専門家に話を聞くなどして試作に取りかかった」と宇田氏。その際、重視した点の一つが環境への負荷だった。繊維を抽出する際に使用するものとして、物理的なアプローチのほか、苛性ソーダや酵素なども試したが、最終的に水を使うことになった。加圧された水で木材などを切断する「ウォーターカッター」をヒントにしたもので、環境への負荷は少なく、使用した水の循環利用も可能。3年ほどかけて開発を進め、独自の繊維抽出機を完成させた(特許申請中)。微細な繊維を抽出すると同時に残渣を回収できる構造で、残渣はバイオプラスチックとして活用され、ストローなどに生まれ変わっている。

沖縄の特産品を“リボーン”させようという同社の取り組みは注目され、2021年には県内で革新的なスタートアップの育成・創出を目指す「オキナワ・スタートアップ・プログラム」に採択されたのに続き、2022年7月に那覇市内で開催されたピッチイベント「IVS NAHA 2022」で2位に選ばれた。事業への支援者も増え、2023年には国内アパレル大手のTSIホールディングスと豊島から出資を受け、事業拡大へとつながった。

台湾、インドネシアで事業展開 貧困問題の解消に一役

インドネシア・東ジャワ州に研修センター(のちに生産工場)を設立
インドネシア・東ジャワ州に研修センター(のちに生産工場)を設立

沖縄での事業と同時並行の形で海外展開も進めている。「沖縄のパイナップルの生産量は年間7000t。これに対して沖縄から近い隣の台湾では50万tもある。台湾は紡績も盛んなので、繊維から糸や生地を製造するのには日本国内だけでなく隣の台湾との連携を考えた」(宇田氏)として台湾への展開を推進。2020年7月に台湾紡績協会、フードリボン、大宜味村の3者でパイナップル葉繊維を利用したアパレル製品の開発・製造・販売などに関するMOU(基本合意書)を締結した。

さらに、2022年10月に中原大学(台湾・桃園市)と産学連携を始めたところ、同大学の伝手(つて)で世界一のパイナップル生産国・インドネシアでも事業を展開することに。翌年4月、同国の全国農村協同組合連合会と共同で東ジャワ州に研修センターを設立し、繊維抽出機を設置した。のちに生産工場へと発展し、50人以上を現地で雇用。パイナップルの葉を収集して繊維生産がスタートしている。できた繊維を糸や生地にする製造過程では、インドネシア国内の日系メーカーが中心となって協力している。

インドネシアでは、正装であるバティックの生産が主要産業に位置付けられているが、この繊維素材のほとんどを輸入に頼っているのが現状だ。これに対し、フードリボンなどの事業では、インドネシア国内の未利用資源(パイナップル葉)を活用することで国内の繊維産業、さらにはパイナップル農家にも地産地消の形で寄与している。実際に、事業に関わる現地農家の収入は増加しており、貧困問題の解消にも一役買う形になっている。この取り組みに同国の王族が賛同。2024年7月のイスラム教の新年の祭りで王族が着用する衣装にパイナップル繊維が採用された。

目標は「世界の天然繊維の5%を未利用資源でつくる」

パイナップル繊維の浴衣を着てプレゼンを行う宇田氏
パイナップル繊維の浴衣を着てプレゼンを行う宇田氏

インドネシアに続き、フィリピンでの事業展開に向け、同国政府との間で協議が進んでいる。国連食糧農業機関(FAO)によると、同国のパイナップル生産量(2023年)は294万tで、インドネシアの315万tに次ぐ。事業展開が実現すれば世界1位と2位の巨大生産地でパイナップル繊維が資源に活用されることになる。同社の取り組みは、大宜味村から世界へと広がりを見せている。

そして今、「2030年までに世界の天然繊維の5%を、パイナップルのようにこれまで未利用だった資源でつくられたものに変えていきたい」との目標を掲げている。フードリボンだけでなく、同じ志を持つ世界各地の事業者などと一緒に実現したいとしている。「生産農家を含めて関わる人たちすべてが利益を享受できるシステムでなければ、本当の意味で社会はよくならない」と宇田氏は強調する。

未来へ希望が持てるスローガン「捨てるものがない明日へ」

フードリボンのスローガンは「捨てるものがない明日へ」
フードリボンのスローガンは「捨てるものがない明日へ」

「捨てるものがない明日へ」-。未利用資源を様々な形で活用している同社のスローガンだ。「つくって売っておしまい、ではない。生産の原点から、使われた後の行方まで考えることが、これからのビジネスには必要だ。海に漂うごみや、インドネシアで目の当たりにした埋め立て地の山…。現実の問題を直視すれば、なおさらそう感じる。そこまで思いを至らせようというメッセージを、よりよい未来に変えられるかもしれないというワクワクする気持ちを表し、希望が持てるような明るい表現で示したのがこのスローガンだ」と宇田氏は話す。

10月3日から大阪・関西万博で開催される「未来航路」では、「自然の恵みを活かす発想」とのカテゴリーで、パイナップル繊維を活用した製品が展示される。「万博での出展は当社の取り組みを知ってもらえる大きな機会。これまで目を向けられることがなかったパイナップルの繊維をこんな形で活用できるんだ、ということを来場者に見てもらい、未利用資源について考えるきっかけになれば」と期待を寄せている。

企業データ

企業名
株式会社フードリボン
Webサイト
設立
2017年9月
資本金
3億4000万円
従業員数
13人(役員含め17人)
代表者
宇田悦子 氏
所在地
沖縄県大宜味村字田港1032番地1
事業内容
農産資源活用の研究開発及び企画・製造

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