人手不足を乗り越える

“パフォーマー警備員”が広告塔、業界イメージ払拭して人材確保・定着を目指す【SHOWYA株式会社(兵庫県宝塚市)】

2024年 6月 3日

警備員の仕事を魅力ある職業に変えようと取り組むSHOWYAの梶屋都社長
警備員の仕事を魅力ある職業に変えようと取り組むSHOWYAの梶屋都社長

赤い制服を身にまとった警備員が誘導灯をクルクルと回して軽やかにステップを踏みながら来場者や車を誘導する。イベント会場でひときわ目を引くパフォーマンス付き警備を行っているのがSHOWYA(ショウヤ)株式会社だ。3K(きつい・汚い・危険)のイメージが強い警備員の仕事を魅力ある職業に変えようと梶屋都社長が設立した。月一回のミーティングを通じて家族的な雰囲気を生み出すなど、人手不足に悩む警備業界で人材の確保と定着に向けた取り組みを続けている。

切れのいい動きで交通誘導、イライラ解消されて自然と笑顔

パフォーマンス付き警備を行う阪口さん(右)と柏木さん
パフォーマンス付き警備を行う阪口さん(右)と柏木さん

大阪芸術大学で造園と設計を学んだ梶屋氏は大阪府内の造園会社に就職。現場監督として職人らの指揮にあたる一方で、周辺の交通整理などを行う警備員の仕事ぶりを間近で見てきた。「なかには動作がいい加減だったり身だしなみがだらしなかったりといった人がいて、ひどいときには決められた時間に現れず、私たちの作業ができなかったこともあった」。梶屋氏自身、警備員に対して悪いイメージを抱く一方で、現場では警備の仕事が不可欠であることも認識していたという。

結婚後、夫が営む造園業を手伝うなどしていた梶屋氏は、警備員のイメージを大きく変える場面に遭遇した。自宅近くで車を運転していると切れのいい動きで交通誘導をしている警備員がいて、見ているうちに自然と笑顔になり、渋滞でのイライラが解消されたという。「こんなパフォーマンスを見せる警備会社を作ったら面白いのでは。警備員のイメージも変えられる」と考え、2019年に起業した。社名にある「SHOW」は、パフォーマンスを行うショーと笑(しょう)をかけている。

舞台と両立できる劇団員を採用、コロナ禍で基本を学ぶ

警備員と舞台を両立。ダンススタジオでのレッスンも
警備員と舞台を両立。ダンススタジオでのレッスンも

肝心の“パフォーマー警備員”として採用したのが劇団員だった。阪神地区を中心に活動する劇団の座長、阪口亮さんは、実家が梶屋氏宅の隣だった縁で声をかけられたという。舞台で演じる劇団員は人前でのパフォーマンスに慣れている。さらに、稽古や本番でまとまった休みが必要な劇団員にとって単発の仕事が多い警備員の仕事は相性が良く舞台と両立できる。阪口さんは同じ劇団の柏木滉介さんらとともに採用された。

パフォーマンス付きの警備は主に各種イベントでの需要を見込んでいた。「イベントの来場者が最初に目にするのは誘導に当たる警備員。そこでパフォーマンスを見せればイベント自体の印象も良くなる」と梶屋氏は考えていた。そして、通常の警備用の制服とは別に、パフォーマンス用として目にも鮮やかな赤い制服をオーダーメイドで用意した。

これで準備万端と思った矢先、コロナ禍に見舞われてイベントは軒並み中止。仕方なく、近くの警備会社にお願いして阪口さんらは工事現場などで通常の警備に従事することに。ところが、その際の経験が警備員としての基本を学ぶ修業となり、災い転じて福となったという。「パフォーマンス要員として採用したのに実際には普通の警備の仕事となり、当時は心苦しかったが、結果的には良かった」と梶屋氏は振り返る。身に着けた警備の基本動作をもとに、近くのダンススタジオでパフォーマンスを監修してもらったことで、「単に目立つだけではなく、警備の動作としても文句のつけようのない動きに仕上がった」という。

パフォーマンス付き警備でイベントPR、求人にも効果

広告塔の役割も果たす“パフォーマー警備員”
広告塔の役割も果たす“パフォーマー警備員”

やがてコロナ禍が明けると、兵庫県内のイベントを中心に警備の依頼が増え、“パフォーマー警備員”は満を持しての登場となった。「立っているだけで目につくので、通行人から『これ、何のイベント?』と尋ねられるなど、イベントのPRにもなっている」(梶屋氏)と思わぬ効果も。実際にはパフォーマンス付き警備よりも工事現場などでの警備の方が需要は大きい。そこで通常警備のための人材を確保することも必要だったが、パフォーマンス付き警備がメディアで取り上げられるなど話題となったおかげで応募者が徐々に増えてきたという。

その一方でこんなことも。梶屋氏は、ある社員が「警備員の仕事をしていると人に言うのは恥ずかしい」と話しているのを耳にしてショックを受けたという。また、親から「警備員の仕事なんて辞めなさい」と強く言われ、不本意ながら退職した社員もいた。世間に定着した警備員に対するイメージを払拭するのは容易ではないようだ。

月一開催のミーティングで家族的な雰囲気に

全員参加で月一回開催されるミーティング
全員参加で月一回開催されるミーティング

「社員の離職を防ぐには警備員としてのプライドを持って仕事ができるようにすることが大事」と考えた梶屋氏はいくつかの対策を講じてきている。そのひとつが月一回のミーティングだ。現場での直行直帰が多い警備業界では珍しく同社では設立以来、全員参加のミーティングを実施している。

これは、人間学に関する書籍を発行する致知出版社(東京都渋谷区)が提唱する社内勉強会「木鶏会」を導入したものだ。梶屋氏が選んだ同社発行雑誌の記事を事前に配布して社員に感想文を書いてもらい、ミーティング当日に発表するという段取りになっている。発表を聞くことで社員間の理解が深まるし、発表に対して褒め合うことをルールとしているので社員の自己肯定感も高まる。その結果、「社員全員が仲良くなり、家族的な雰囲気を築くことができている」(梶屋氏)という。また、警備の現場では「立っているだけでカネがもらえていいな」などといった心無い言葉を浴びせられ、気が滅入ることもあるが、こうしたミーティングが社員にとって心の支えにもなっている。

「コロナ禍でミーティングの開催を控えていたら、若手の社員から『再開してほしい』という声があがった。今どきの若者はミーティングなんて面倒くさがるのかな、と思っていただけに意外だったし、うれしかった」。今年1月からはミーティングを「SHOWYA ALL POWER PROJECT(SAPP)」と命名し、警備員としての動作の確認などスキル向上を図る内容を追加している。

高めの料金設定、依頼してみて納得

通常警備では青い制服を着用
通常警備では青い制服を着用

社員をつなぎとめるために待遇面でも取り組みを進めている。同社では「初任給は業界平均並み」(梶屋氏)だが、スキル向上によって昇給しやすい仕組みにしている。警備員としての腕を磨くことで待遇も改善されれば仕事に誇りを持てる、というのが狙いだ。

社員の待遇改善を実現するため、同社では同業他社より高い料金を設定して顧客から依頼を受けている。顧客も最初は難色を示すが、実際に依頼してみるとキビキビとした仕事ぶりに感心し、次からは高めの料金にも納得したうえで依頼をリピートしてくるという。「まずは使ってみてください、SHOWYAの良さを感じてもらえるはずです、とお願いしている」と梶屋氏。現在は40社ほどがお得意さんのリピーターとなっている。もちろん、なにがなんでも安さ重視という場合もあるが、そういった仕事はあえて引き受けないことにしているという。

警備員を魅力ある憧れの職業に

「将来的には100人規模に」と話す梶屋氏
「将来的には100人規模に」と話す梶屋氏

社員数は現在20人。定年はなく、最高齢の現役社員は80代だ。また“パフォーマー警備員”は阪口さんと柏木さんの2人。今年3月には関西の民放番組で“パフォーマー警備員”が紹介された。すると早速6人の応募があり、うち2人を採用した。広告塔としての効果は引き続き絶大である。また、ミーティングの様子や社内の家族的な雰囲気をホームページやSNSなどで発信しており、「こういう社風なら働きたい」として応募してくる人も多い。

「まずは30人。将来的には100人規模の社員を集めたい。パフォーマンスを行う警備員も早いうちに1人か2人は増やしたい」(梶屋氏)というのが採用目標だ。一方で、警備の質を維持するために採用基準は厳しいという。梶屋氏は、求める人材について「まずは性格が明るく、いい笑顔を見せられる人。次に向上心がある人。こうした人材が社風に合っている。そして当然のことながら警備の仕事を行うのに必要な体力も必要」と話す。「警備員のイメージを変え、ゆくゆくは警備員を魅力ある職業、憧れの職業にしたい」として、今後も同社が求める人材の確保を続けていく考えだ。

企業データ

企業名
SHOWYA株式会社
Webサイト
設立
2019年4月
資本金
180万円
従業員数
20人
代表者
梶屋都 氏
所在地
兵庫県宝塚市山本丸橋1丁目5-3
Tel
0797-52-7538
事業内容
施設警備・イベント雑踏警備・交通誘導警備・駐車場管理警備