中小企業応援士に聞く
地域協働で福井の食を発信【合資会社開花亭(福井県福井市)代表社員・開発毅氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する 全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2022年 6月 1日
1.事業内容をおしえてください
熟練の職人が豊かな福井の素材を日本料理に仕上げて提供する料亭「開花亭」を運営している。1890年(明治23年)に初代が、足羽山と足羽川を眺められる場所に開花亭を構えた。当時は2000坪の店構えで、建設されたばかりの福井市役所の隣、物流や人流の要となる場所で営業を始めた。
福井は震災や水害が多く発生し、戦火にも見舞われた。200畳の大広間を構えて福井の料理・娯楽を牽引する存在だった屋敷も、1945年の福井空襲と1948年の福井地震で二度焼失した。しかし先代は災厄のたびに不屈の精神で立ち上がり、店舗を再建。2007年に国指定登録有形文化財となり、2010年にはAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首席代表歓迎晩餐会場となった。
2008年に料亭の本格懐石をよりカジュアルに楽しむことができる割烹店「開花亭sou-an」をオープン。店舗とインテリアの設計は世界的な建築家・隈研吾氏にお願いした。料理長は2017年に県内の日本料理人としては最初で唯一の「現代の名工」に選出され、店舗はフランス外務省後援の「La Liste」で全世界のベストレストラン1000店にも選ばれた。
そして2016年には調理施設「開花亭 kuri-ya」を開業。さまざまな弁当や鯛・海老・蟹の生ふりかけなどのギフト商品を提供している。こうした小売商品を購入したいというお客様やバイヤーが2010年ごろから増え始め、飲食店の厨房とは切り離して、より衛生対策が万全な専用施設を作ろうと判断したためである。
この2年間はコロナ禍により、厳しい状況に置かれている。営業の自粛や営業時間の短縮、社員の出社調整など臨機応変に対応してきた。感染が落ち着いて県が自粛要請を緩和すれば営業を戻し、厳しくなれば自粛するということを繰り返してきた。もちろん雇用調整助成金や資本性ローンの適用、コロナ支援融資などをフル活用している。
2.強みは何でしょう
自社の業態を「飲食業」ではなく、「コミュニケーション成就業」ととらえ、お客様のために全力で取り組むという意識が全社員に浸透していることが当社の強みだ。
私が事業を引き継いだ時、経営理念について考えた。それまでは存在自体が経営理念になるような強いリーダーシップを持った先代、先々代が経営していたが、自分の代になって社員に示す行動指針となる経営理念の必要性を感じたからだ。
理念を考える中で、当社の名前の由来に行きついた。開花亭の由来は李白の詩「両人対酌して山花開く」から来ている。人が集まって酌をすると会話が進み、あたかも周りの山々で花が開いたように華やかな雰囲気になるという意味だ。このことから、我々の真の生業とは、お客様のコミュニケーション成就に貢献することだと考えた。料理が美味しいのは当たり前で、接遇が良いこと、もう一度来たいと思ってもらうことも当たり前。お客様のコミュニケーションを成就させるために、できることすべてに取り組んでいくことを理念として掲げた。
当社は長い歴史と、それを支えてくれた顧客とのたくさんのご縁がある。ただ飲食業という枠組みにとらわれてしまうと、これからの時代に顧客から選ばれず、生き永らえないと考えた。この理念が定まったことで、今後開花亭がどうあるべきか、道筋が明確になったように思う。浸透には時間がかかったが、現在は社員全員が理解し履行している。
3.課題はありますか
高付加価値化と効率性の両立がテーマだ。これまでは職人や従業員が手間暇を惜しまず、仕事に没頭していくことで高い付加価値を生み出すことを強みとしてきた。だが時代は大きく変わり、今後は働きながら社員が幸せを追求できる組織になっていく必要がある。
もちろんお客様に選び続けていただくために、サービスの質を落とすことはできない。いかに作業効率を高めて、付加価値の高いサービスを提供できるかが当社のテーマになっている。例えばこれまでも、コロナの影響が緩和されるタイミングがあったが、人手の確保が難しいため、予約が見込めるのにお客様を受け入れることができないといった事態が頻繁に発生した。
これを解決するために、社内の潜在的なノウハウをマニュアル化して「顕在化」し、共有する取り組みを検討している。スタッフのスキルやノウハウに左右されることなく、熟練社員が持つ知見を見える化し、さまざまなスタッフで共有できるようにしたい。多能工化を通じて職人のスキルへの依存度を減らし、また他の業務経験を通じて新しい価値を生み出すことが出来るようになると考えている。
4.将来をどう展望しますか
まずは売り上げを含めて、コロナ禍前に戻すことを目指している。飲食事業がコロナ禍で惨憺たる状況の中、小売事業が2倍程度伸びたのは明るい話題だ。感染が収まる頃には、北陸新幹線の福井延伸(2024年春予定)という好機が訪れるため、 否が応でも売り上げは数割程度上昇すると判断している。
小売りに関しては現在、首都圏のバイヤーや取次店と大規模な商談を重ねており、今秋にも 明るいお知らせを報告できると思う。自社で製造できるレベルのボリュームではない引き合いもいただいており、大幅な売り上げ&利益増に繋がればと期待している。
さらにノウハウのマニュアル化と業務効率化を達成したその先で、福井県外への発信をより一層強めていきたいと考えている。コロナ禍が収束しようとするタイミングで、新幹線でつながる首都圏への出店を検討している。
5. 経営者として大切にしていることは何ですか
地域の飲食店と協力し、自社だけでなく福井全体の魅力やブランド価値を高めていくことを大切にしている。福井のブランド価値の向上には自社だけで取り組むのではなく、連携が必要だと強く感じている。多くの方々に福井の食を味わっていただけるようになるには、地域や業界一体となって進めていく必要があり、これまでも様々な取り組みを実施してきた。
例えば新型コロナウイルス感染症対策のための「福井ルール」順守の呼びかけや、低い手数料で利用できる独自のフードデリバリーシステム「スマートレストラン福井」の立ち上げなど。また北陸新幹線の福井延伸に向けた福井の新しい目玉料理の開発や、人材開発のための福井のプロ料理人向け講座などだ。
いかにして福井全体のパイを大きくしていくかを念頭に地元の飲食店と協働しており、開花亭sou-anのデザインを隈研吾氏に依頼したのも、この考えに共鳴してくれたからだ。横のお店と比較して選んでもらうのではなく、地元のランドマークになって、福井に足を運んでいただける方を増やすことを目的にデザインした。
6.中小企業応援士としての抱負を教えてください
中小機構の活動はフェイスブックなどを通じて知っており、知り合いの経営者からも支援の成果を聞いている。自分もあらゆる場でその良さを広めていきたいと思う。
また引き続き、地域の飲食店と協働して福井の食の価値を高めていきたい。福井の食の付加価値を高めることは、私のライフワークだと考えている。
企業データ
- 企業名
- 合資会社開花亭
- Webサイト
- 設立
- 1890年
- 代表者
- 開発毅 氏
- 所在地
- 福井県福井市中央3丁目9-21
- Tel
- 0776-23-1009
同じテーマの記事
- コロナ禍は社会貢献のチャンス、社員と信頼関係醸成で【株式会社生活の木(東京都渋谷区)代表取締役社長CEO・重永忠氏】
- 強み活かした提案力向上【株式会社奥谷金網製作所(神戸市中央区)代表取締役・奥谷智彦氏】
- SDGsの理念で社会貢献【株式会社ダイワホーサン(奈良県宇陀市)取締役会長・辻本勝次氏】
- エンジンオイルの訪問「量り売り」に商機【株式会社FUKUDA(京都市山科区)代表取締役・福田喜之氏】
- 西陣織金襴の美しさを世界へ広めたい【岡本織物株式会社(京都市上京区)専務取締役・岡本絵麻氏】
- チャレンジ恐れない金型研究開発で他社と差別化【株式会社岐阜多田精機(岐阜市)代表取締役社長・多田憲生氏】
- 航空機産業支えるQCD向上力【ミツ精機株式会社(兵庫県淡路市)代表取締役社長・三津千久磨氏】
- 「高品質」「安心・安全」「安価」な建築金物を提供【大和建工材株式会社(兵庫県尼崎市)代表取締役社長・武田敏治氏】
- 失敗を恐れず挑戦し続ける人材を育成【大裕鋼業株式会社(大阪府堺市)代表取締役社長・井上浩行氏】
- モノづくりだけではない付加価値提供【株式会社サトウ精機(岩手県花巻市)代表取締役社長・佐藤智栄氏】
- 「魅せる工場づくり」をめざして【タカハ機工株式会社(福岡県飯塚市)代表取締役・大久保泰輔氏】
- 「仁方ヤスリ」の伝統を新商品に【株式会社ワタオカ(広島県呉市)代表取締役社長・綿岡美幸氏】
- 植物の成分研究を医薬品・食品などに応用【OHTA合同会社(石川県野々市市)研究所所長・太田富久氏】
- 日本の木材産業を支える国内シェアNo1企業【エノ産業株式会社(北海道東川町)代表取締役社長・小関政敏氏】
- 「うちなーんちゅ」だから沖縄の商品を世界に届けたい【株式会社新垣通商(沖縄県那覇市)代表取締役・新垣旬子氏】
- DXやデザイン経営について地域の中小企業に伝えていきたい【株式会社リーピー(岐阜県岐阜市)代表取締役・川口聡氏】
- 出雲の地で旨い手打ちうどん・そばを提供【有限会社玉木製麺(島根県出雲市)代表取締役社長・玉木暢氏】
- 従業員の結束力で成長【株式会社三義(さんよし)漆器店(福島県会津若松市)代表取締役・曽根佳弘氏】
- 企業規模よりもキラリと光る技術で地域の「未来エンジン」に【西光エンジニアリング株式会社(静岡県藤枝市)代表取締役・岡村邦康氏】
- 地域連携で佐賀の「食」を全国・海外に【佐賀冷凍食品株式会社(佐賀県小城市)代表取締役社長・古賀正弘氏】
- 眼鏡産地「鯖江」の隆盛に取り組む【株式会社ボストンクラブ(福井県鯖江市)代表取締役・小松原一身氏】
- 1000年の歴史を誇る土佐和紙の伝統を継承していく【株式会社三彩(高知県土佐市)代表取締役・鈴木佐知代氏】
- 耐圧防水樹脂「ジェラフィン」で地元貢献めざす【エスイーシー・シープレックス株式会社(北海道函館市)営業顧問・小野雅晴氏】
- 信頼される人材・製品・会社を創る【オカウレ株式会社(愛知県岡崎市)代表取締役社長・髙井恵氏】
- 創業の原点である母親目線で「安心・安全」の商品開発【沖縄子育て良品株式会社(沖縄県南風原町)代表取締役・舩谷香氏】
- 海外展開ノウハウを提供する京和傘の老舗【株式会社日吉屋 CRAFT-LAB(京都市上京区)代表取締役・西堀耕太郎氏】
- 食品加工分野でユニークな商品開発【株式会社ニッコー(北海道釧路市)代表取締役社長・佐藤一雄氏】
- 高品質な電子機器を支える提案型企業【特殊精機株式会社(福島県喜多方市)代表取締役・慶德孝幸氏】
- 華やかな貴婦人キャラクターと植物由来のピンク商品群で地域ブランド創生【ブリリアントアソシエイツ株式会社(鳥取県鳥取市)代表取締役・福嶋登美子氏】
- 「素人」の自由な発想を「玄人」の技術で形に【株式会社ナダヨシ(福岡県古賀市)代表取締役・植木剛彦氏】
- おしぼり業界の変革に挑戦【FSX株式会社(東京都国立市)代表取締役・藤波克之氏】
- 地域協働で福井の食を発信【合資会社開花亭(福井県福井市)代表社員・開発毅氏】
- 助け合いの精神で生産者とともに「琉球の自立」を目指す【ゆいまーる沖縄株式会社(沖縄県南風原町)代表取締役社長・鈴木修司氏】
- 魚を食べる日本の文化を多くの人に【株式会社安岐水産(香川県さぬき市)代表取締役社長・安岐麗子氏】
- 「人と地域と環境のために」との企業理念で「地材地消」を推進【株式会社ハルキ(北海道森町)代表取締役・春木真一氏】
- 「社員の幸せ」が最大のミッション【三重化学工業株式会社(三重県松阪市)代表取締役社長・山川大輔氏】
- 「会社はお客様のために」の理念が成長の原動力【新産住拓株式会社(熊本市南区) 代表取締役社長・小山英文氏】
- 「三方よし」の精神で地域、取引先、従業員と共に成長を目指す【アクト中食株式会社(広島市西区)代表取締役社長・平岩由紀雄氏】
- 社員が強み、農業を通じて環境守る【山本製作所(本社=山形県天童市、事業所=山形県東根市)代表取締役社長・山本丈実氏】
- 社員の成長こそが会社成長の原動力【株式会社トーコン(横浜市戸塚区)代表取締役・櫻井誠健氏】
- 地域の魅力を広げ、会社の成長につなげる【有限会社菊井鋏製作所(和歌山市)代表取締役・菊井健一氏】
- 花や漆器を通じ、暮らしに安らぎ・潤いを提供【株式会社アプラス(石川県加賀市)代表取締役社長・坂本博胤氏】
- 3兄妹の若い経営陣に世代交代 イノベーションを追求【株式会社中原製作所(岡山市中区)会長・中原健一氏】
- 正直に王道を行く経営で業容拡大【株式会社はなおか(徳島県北島町)代表取締役会長CEO・花岡秀芳氏】
- 自社ブランド製品で顧客の要望に対応【株式会社コメットカトウ(愛知県稲沢市)取締役社長・野々部正幸氏】
- 「よそ者」の視点を大切に 地域の観光ビジネスを牽引【株式会社オズリンクス(富山県富山市)代表取締役女将・原井紗友里氏】
- 社員のバックグラウンドを尊重して活躍の場を提供【ジャスティン株式会社(愛媛県四国中央市)社長・種田宗司(おいだ・しゅうじ)氏】
- “日本一低い運営コスト”で高速出店、買い物難民をなくす【株式会社ダイゼン(北海道鷹栖町)社長・柴田貢氏】
- 「社員ファースト」の経営が酒造りの強みに【株式会社一ノ蔵(宮城県大崎市)鈴木整代表取締役社長】
- 形状記憶加工技術で自社製品を開発、地元との連携をさらに強化へ【中島プレス工業有限会社(埼玉県越谷市)代表取締役・小松崎いずみ氏】
- 社員を大切にする経営で実質離職率0%【株式会社ブンシジャパン(山口県周南市)代表取締役・藤村周介氏】
- 若手人材の力でステップアップ【株式会社稲沢鐵工(長崎県松浦市)代表取締役・稲沢文員(いなざわ・ふみかず)氏】
- 「利他」の精神で社会に貢献できる会社に【株式会社ミヤジマ(滋賀県多賀町)代表取締役会長・宮嶋誠一郎氏】