金型業界のエジソン

竹内宏(新興セルビック) 第3回「異能集団「アイデア工房」は次世代の産学連携」

町屋の中にある本社工場 町屋の中にある本社工場
町屋の中にある本社工場

メンバーの縁取り持った月刊誌「型技術」

モノづくり中小企業のオーナー経営者には、創造力、実行力、決断力、チャレンジ精神などを備えた人が目立つ。むしろ、これらの特性のある人が中小企業経営者には求められている。

ただ、いくら独創性に優れていても、大企業の研究開発力には遠く及ばないのも事実だ。だから、モノづくり中小企業が手薄となりがちな研究開発力を補うには、どこにでもある仲良しクラブではなく、より実践的な知的ネットワークがあれば、強力な知的経営資産となり得るのである。

竹内は産学の異能集団「アイデア工房」の主宰者である。メンバーの縁結びをしたのは日刊工業新聞社が1985年に創刊した月刊誌「型技術」だった。

「今から15年ほど前の当時の私はPRするお金も無かったので、論文を書いては型技術の編集長にお願いして年3回ほど掲載していただいていました。型技術を通じて何度も情報発信するものですから、それは大変目立ちましたね。そうしているうちに情報発信が返信を呼び込み、次第に交流へと発展していったんです。型技術の読者の中には同業者は勿論のこと、理工系の大学教授もいれば学生もいました。

そういう読者の中から、『竹内、お前はこういうふうに技術解説しているけれど、俺はこう思う』とか、『こんなものを開発したいんだけれど、どう思うか』とか、そういう技術交流がどんどん深まっていくうちに自然発生的に人が集まって、共同組合組織のアイデア工房ができたんです。会員も今では60人ほどに増えました」

アイデア工房には、会員がアイデアを製品化する際のルールが定められている。

誰かのアイデアに対し製品化の意志を表明すると、製品売価の7%を支払う。7%の内訳は4%が工房の運営費に、3%が発案者に提供される。同時に製品名に発案者の名前と関連名が命名される。

例えば、新興セルビックが製品化した半導体検査装置には「Mr.Kaneko」といった具合に、発案者の名前が採用されている。

さらに、製品化する会社には発案者との共同出願権が与えられる仕組みになっている。

アイデア工房で提案されたアイデアの3分の1は竹内の会社で製品化されているとされ、射出シリンダー洗浄具の「色換え具・翔太」、金型・機器・設備搭載用マイコンの「Euro Count」など、販売好調な商品も多い。

製品開発に当たってのアイデア工房の存在意義について、竹内はこう述べている。

「アイデア工房は同じモノづくりのオーナー経営者や大学の先生と話をすると、テンションが高まってきます。お互いに創造力を刺激しあうことによって、自分の能力以上の発想が生まれてくるんです」

自由で束縛されない集団というのが最大の特徴で、メンバーの中にはアイデア工房が縁で超小型電動射出成型機の開発で技術提携している樹研工業の松浦元男社長、岡野工業の岡野雅行社長、超精密部品用金型メーカーのサイベックコーポレーションの平林健吾社長ら、モノづくり中小企業のオピニオンリーダー的な存在として知られる錚錚たる人物が名を連ねる。

そのアイデア工房も、早ければ2007年春をめどに現在の共同組合からNPO法人へ抜本的に衣替えする予定だ。組織替えの理由について竹内は、「共同組合だと会費の徴収という縛りが必要になり、未収金の徴収など煩わしさが伴います」と答えている。

新技術の事業化は「技術立国」日本の優先課題の1つである。これを実現する手法として、産学官連携や大学発ベンチャーなど、官民上げて様々な取り組みが行われている。その意味でアイデア工房は本来、企業秘密にしておきたいアイデアをオープンにしてしまう、まさに独創的な発想だ。

だが、これについても竹内は、「製品化する段階になれば別ですが、アイデアというのは幾らもあります。しかし、アイデアを形にする実行力のある人は少ないものです。仮にアイデアを出す人が1万人いても、それを実行する人は数人しかいないんじゃないですか」と分析する。まさにビジネスに直結した次世代型の産学連携の姿を垣間見るアイデア工房である。

そして、竹内のモノづくりは、知的財産経営さらには事業承継にも及ぶ。(敬称略)

掲載日:2006年10月30日