中小企業応援士に聞く

“日本一低い運営コスト”で高速出店、買い物難民をなくす【株式会社ダイゼン(北海道鷹栖町)社長・柴田貢氏】

中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。

2023年 10月 10日

年間10店舗の出店を目標に掲げるダイゼンの柴田貢社長
年間10店舗の出店を目標に掲げるダイゼンの柴田貢社長

1.事業内容をおしえてください

2010年4月にオープンしたDZマート1号店
2010年4月にオープンしたDZマート1号店

小型ディスカウントストア「DZマート」を展開している。1974年に父(惠治氏)が株式会社大善を旭川市内に設立したのが始まりで、当初は食品卸だったが、1984年に小売業に転換した。その後、酒のディスカウント店など何度か業態を変え、2010年4月に旭川市内の店舗を「DZマート」に切り替え、それ以降、既存店を順次改装していった。現在、旭川市を中心に道東の斜里町から日本海側の留萌市まで29店舗を展開している。年間10店舗のペースで出店するという目標を掲げており、今年6月以降は6店舗を開店した。売上高も順調に伸び、22年9月期は76億円、23年9月期は86億円程度の見込みで、設立から50周年となる24年9月期には100億円を突破するとみている。

なお社名は、2000年に私が社長に就任したのを機にカタカナの「ダイゼン」に変更した。父は「善が大きいという意味で、知り合いの住職からも『いい名前だ』と言われた」と話していたが、会社を継承するにあたり、父と同じことはしたくないという気持ちから社名を変更した。

2.強みは何でしょう

DZマートは
DZマートは"エブリデイ・セイム・ロー・プライス"

日中の営業時間帯は従業員2人で店舗を運営しており、「オペレーションコストが日本一低い」と自称している。従業員の守備範囲が広く、スーパー業界の平均では従業員一人当たり10.5坪(約35m²)を受け持っているが、当社では40坪(約132m²)となっている。

2人体制実現のため、2018年頃から社内でプロジェクトに取り掛かり、すべての作業項目や所要時間をチェックしたうえで、900ほどあった作業項目を半分に減らした。たとえば、小売業界の常識である「先入れ先出し」(賞味期限の早い商品が先に売れるよう陳列棚の前方に出すこと)については、賞味期限を1カ月単位でとらえ、同じ月ならば問題ないとして撤廃した。後から入ってきた商品を陳列棚の奥に入れるのは結構時間がかかる作業だったが、撤廃により作業がスムーズになった。このほか、AIによる自動発注システムやセルフレジの導入など運営コストの削減を図っている。

こうした経費削減により、少ない売上でも利益が出るようになった。大手スーパーが出店を躊躇するような人口1万人程度の商圏でも店舗を出せるようになり、年間10店舗という"高速出店"を進めている。また店舗数が増えるにつれ、仕入れ量が増加してきたことで、価格交渉力が高まり、仕入れ値を下げられるようになった。商品を安く提供するというディスカウントを貫いていきたい。

3.課題はありますか

今年6月に出版した柴田社長の著書
今年6月に出版した柴田社長の著書

主な課題は人材確保と自社商品開発の二つだ。まず人材確保については、大卒者の採用が難しい。高卒者と30代の中途採用は進めているが、年代のギャップが生じている。"高速出店"を続けていくうえでも人材確保は喫緊の課題だ。

この対策として外資系企業で秘書として働いてきた女性を求人の顧問として迎えた。顧問からのアドバイスを受け、「バカ息子、空振りオヤジ、還暦起業家。スーパーの二代目社長のもがきと本気」という本を今年6月に出版した。社長の考え方や会社の方向性などを学生に知ってもらうのが狙いだ。また私が広告塔となり、メディアに露出することで会社の知名度を高めていきたい。

このほか従業員満足度を上げるため、昨年10月から年次有給休暇の100%取得を進めている。手取り賃金も上げたいが、低価格販売との兼ね合いもあり、難しい経営の舵取りをこれからも続けていかねばならない。

一方、自社商品開発は、大手スーパーを含め他社との差別化を図るため、ぜひとも実現したい。元気のある小売業はたいていPB(プライベートブランド)を持っている。当社も製造小売業を目指し、他社のPBをサンプルとして集めて研究を進めている。また前段階として、一部の商品に共通のロゴを貼って販売することも行っている。

4.将来をどう展望しますか

今年6月オープンの留萌沖見店
今年6月オープンの留萌沖見店

昨年宣言した年間10店舗出店を進めていく。小売業は攻め続けないと守れない。PBを手掛けるにしても、生産ロットがあるので、相当数の販売量が見込めないと製造できない。そのためにも一定数の店舗が必要となる。ただ、土地を取得して店舗を建て設備もすべてそろえるとなると1店につき3億円はかかる。大手スーパーが撤退した空き店舗の取得や既存の小売業者のM&Aなど様々な手法を検討していく。

現在、大手となっている小売企業も初めはどこも小さかったが、努力の結果、いずれかのタイミングで大きく成長していく方向に舵を切った。そういった企業の事例を学ぶとともに、専門家にもいろいろと話を聞いていく。

当社は今や商圏人口が少なくても利益を出せる企業体質になっている。大手が出店できない、あるいは撤退した地域にも店舗を展開し、「買い物難民」が出ないようにしたい。そして道内一円、さらには、私の代では無理かもしれないが、いずれは津軽海峡を越えていきたい。長男が後継者として入社してきたこともあり、夢を実現したい。

5.経営者として大切にしていることは何ですか

士別店は災害時、被災住民に食料品などを提供する
士別店は災害時、被災住民に食料品などを提供する

当社は創業以来、「商品を1円でも安く売る」という理念を貫いてきた。この考えをこれからも守っていきたい。そのため客層に対する見方を大きく変えることを検討している。これまでは小さな子どもから高齢者まですべての顧客に喜んでもらえることを前提に小売業を進めてきた。ところが、流通セミナーの講師より「客層を絞り込んだらどうか」との考え方を示された。具体的には、4人家族で仕事に家事に忙しい働く女性客を取り込もうという作戦だ。客層を絞り込むことによって、商品レベルの統一など商品政策戦略を立てやすくなる。

また、大規模災害時のライフラインとしてのスーパーの役割も重視している。当社は、自然災害による影響を軽減し事業活動を継続していくための事業継続力強化計画について2021年11月に経済産業省より認定を受け、BCP認定企業となっている。さらに、昨年12月に士別店がオープンしたが、地元の士別市とは今年3月、災害時における物資供給等に関する協定を締結し、被災住民に対して食料品や日用品などを提供することとしている。士別店に限らず、災害時に少しでも早く店を開けられるよう、防災グッズなどを配備しているほか、タブレットの発注端末を災害時にレジとして使用できるよう準備を進めている。

6.応援士としての抱負は

これまで中小機構の支援を受け、大変助かった。3年前に中小企業応援士を委嘱されてからは、様々な機会を活かし、多くの方々に「中小企業応援士」の名刺を渡し、機構の支援策をPRしている。中小企業の経営者には、日々の仕事で手一杯だという人が多く、なかなか新たな一歩を踏み出せないでいる。そういった経営者がより積極的になれるよう私としてできる範囲で応援していきたい。

ダイゼンは来年50周年を迎える
ダイゼンは来年50周年を迎える

企業データ

企業名
株式会社ダイゼン
Webサイト
設立
1974年5月
代表者
柴田貢 氏
所在地
北海道上川郡鷹栖町2962-136
Tel
0166-59-3900

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