売上アップ取り組み事例集

パート社員の能力を開発する。中小・零細店舗の大型店対策(事例9回目)

文:若林敏郎(中小企業診断士)

パート社員がお店の「顔」

食品スーパーの苦情で意外と多いのがレジ精算関連の苦情です。

つり銭の間違い、精算時での商品の取り扱いや顧客に対する言葉づかい、社員間の私語、などが常に苦情の対象になります。これら苦情は口コミで他の顧客に伝わり感じの悪い店という評価になり、嫌いな店となっていきます。

ですから、ホスピタリティーに溢れたフレンドリーなサービスにより顧客のご愛顧を得ることができるのです。品揃えの豊富なことや、駐車場などのサービスでは零細店舗では大手の競合点に勝ち目が有りませんがこのフレンドリーサービスでは大型スーパーと勝負が出来るのです。

当社では社員のおよそ7割はパート社員です。その多くはレジ精算に就いており、お店の「顔」にもなっているのです。

さらに、第7回でお話した"鮮度アップ作戦"、第8回の"旬のエンド陳列作戦"などにより、社員の負担も大きくなっていき、パート社員の担当する分野が拡がって行きました。

こうしたことから、競合店対策を実行に移す為にはパート社員の意識改革や能力向上は避けては通れないと判断しその実現のためには以下の三つの仕組みが必要と考えました。

  1. パート社員職務内容と難易度の具体的な明示
  2. 職務と連動した賃金制度
  3. 適切な評価制度

1.パート社員職務内容と難易度の具体的な明示

パート社員の意識改革や能力アップを図るためには、その土台となる仕組みが必要です。 当社ではパート社員の評価制度は無く、どのような仕事をパート社員にやっていただくかを明示したものも、ほとんどありませんでした。そして、賃金についても、入店時のまま定期的な昇給はありませんでした。

つまり、パート社員の報酬制度や処遇は仕事の質や能力により決まるものではなかったのです。極端に言えば、だらだら働いていても、一生懸命声をからしながら働いていても時給はかわらないのです。

これでは公平とはいえません。会社が求める理想的なパート社員とはどのような社員なのか、パート社員に求められる能力とはどのようなものなのか、そして能力や働き方に応じた賃金や社員登用制度はどのようなものか、を明確にした制度が無ければ、パート社員のモチベーションは上がりません。

仕組み作りの第一歩は、職務(役割)と職務のグレード(難易度)を明らかにすることでした。 一般には「職務等級基準書」とか「職務表」と呼ばれるものです。

当社のパート社員職務等級基準書における職務(役割)は部門長と店長、経験の長いパート社員へのヒアリングや担当者へのアンケート調査により職務の洗い出しを行い、職務内容を出来る限り具体的に表すようにしました。

鮮魚部門であれば、"マグロ、カツオタタキ、タコ、などの単品スライスを作成し、単品盛用の刺身を作る"。

惣菜部門であれば、"作業手順書に従って、寿司ネタ用に魚貝類等の加工を行い、炊飯器・寿司ロボット等の器具を操作し、各種の寿司(巻き寿司、にぎり寿司、押し寿司等)に仕上げる。"

レジ精算部門であれば"金券(商品券など)の処理を手順に従って実施する。"

これらの職務内容に加え、全ての部門に"積極的な声だしによりにぎわいを演出し、販売促進につなげる""にこやかで明るい態度で、かつ接客用語を正しく用いて、接客・販売をする"ことも盛り込みました。

職務を具体的にする課程で、部門長や店長から職務によっては「パート社員では難しいのではないか」という意見もありましたが、少し背伸びすることにより、パート社員の報酬(時給)を上げることが出来るので実施することにしました。

特に、鮮魚や精肉部門は商品づくりに経験や熟練が必要な為、担当者や部門長の中には職人気質が強く残る人がいましたが、彼らによるOJT(職場内訓練)に期待することで納得していただきました。

2.職務と連動した賃金制度

当店では、職務は難易度に応じてA、B、Cの3段階に分類し、その達成度(評価)は以下のようなI、II、III3段階とし、年功的要素は極力排除しました。経験により達成度が高まる人もいますが、そうでない人もいることは過去の経験からもわかっていたからです。

売上の構成要素

当店ではC-1等級を従来のパート社員の時給を基準としこの職務等級基準と賃金を連動することにしA-Iを入社3年目の社員(25歳)の月収と同額に設定しました。 また社員への登用制度としてB-III以上の能力を保持し、部門長の推薦で社長面接を受け社員になることも出来る旨盛り込みました。(現状A等級のパート社員は在籍していません)

この結果パート社員の給与総額は若干増加しましたが、社員の時間外手当が減少し、人件費の増額は僅かな金額に留まりました。

3.適切な評価制度

困難を伴ったのは評価制度です。

出来るだけ客観的かつ公平に評価しようとしても、当初はなかなか理想通りには行きませんでした。

パート社員には、売上や利益予算を評価基準にはしていませんので、達成度を測るわかりやすい基準が無く、定性的な基準が多かったためです。

評価する店長や部門長も評価研修をきっちり受けたわけではありませんでしたので、当初は正しく評価できたかは疑問でした。そこで、期待通りとはどの程度の達成度かを出来る限り明確にするように、改良を加えていきました。

レジ部門では正確な精算が最も重要です。つり銭の間違いは一番信用を失いますので、レジ金額の誤差を正確性の基準とし評価するようにしました。

その他、商品作りでは売れる商品をきれいに作ることも重要ですが、高い鮮度を維持するためには、お客さまが来店する時間帯のピークに合わせることも重要となります。そこで所定の時間内に指示された数量を作ることが出来ているか、商品化の速度も基準に加えました。

声だしなどの"にぎわいの演出"や"にこやかで明るい態度"などの定性的な項目は、数値化することはが難しいのですが、パート社員、社員による投票を参考にしました。

毎月、レジ部門は、レジの金額誤差ゼロ(月間80時間以上をレジ担当)を達成者全員に買い物券を進呈していましたが、新たに「○○○○賞」を設け、最も元気に挨拶し、声だしをしていたパート社員を投票で毎月2~3名選出し表彰する制度を作りました。

最終的な評価は店長が行いますが、この投票結果を参考にすることで基準に具体性を持たせることが出来ました。

こうした仕組みづくりの結果を短い期間では評価することは困難ですが、以下の効果が現れました。

  1. パート社員の定着率が高まり、採用コストが削減できた。
  2. パート社員の欠勤率が減少した。
  3. パート社員の発言や提案が多くなった。
  4. POPづくりなどの研修に積極的なパート社員がふえた。
  5. パート社員の応募数が多くなった。
  6. 社員の意識改革にもつながった。

パート社員能力開発の仕組みは"教育"がもう一つの柱となります。 詳しくは今回は割愛しますが、「やってみせて、言って聞かせて、やらせてみて、 ほめてやらねば人は動かじ」これは山本五十六の名言ですが、職場内での座右の銘として心に留め職場内研修(OJT)を実施しています。

掲載日:2012年3月29日