中小企業NEWS特集記事

「ノーベルファーマ」患者の利益を判断基準に

この記事の内容

  • 化学業界大手で新規部門の医薬品事業に携わり、事業戦略と資本政策を担う。
  • 希少疾患の治療薬を患者に届けたい、との思いが募り独立。
  • ニーズ中心に新薬を迅速投入。5年で繰越損失を一掃、今年から海外進出を開始する。

優れた技術力で業界に旋風を巻き起こす中小企業、社会貢献に資する卓越した経営力を発揮する創業者、独自の思考を持つ起業家など、話題を集める企業は多い。この中から高い評価を受ける注目企業トップを訪ね、経営理念、成功の秘訣、事業の現状と将来像を探る。第1回は志の高い経営者を称える「Japan Venture Awards(JVA)2017」(主催・中小機構)で経済産業大臣賞に輝いたノーベルファーマの塩村仁代表取締役社長に聞いた。

——大手企業での地位を捨ててまで、リスクが伴う起業の道を選択しました。その理由を教えてください

「入社して配属されたのは、新事業として立ち上がったばかりの医薬品部門。小規模で社員が少ないこともあり、ここで医薬品事業のイロハから企画、開発、薬価交渉、販売まで製造以外を幅広く携わり、最後は本社でグループ全体の医薬関連の事業戦略と資本政策を担いました。仕事はやりがいのある充実した日々でしたが、その一方で自ら直に手を動かせないことへのむなしさも感じました。需要が少なく採算面で不安視されて開発が遅れている希少疾患の治療薬をこの手で患者さんに届けたい、との思いが募り、出資者の力強い支援もあり創業を決意しました」

——患者数は少ないが治療薬の必要性が高い疾患、いわゆるアンメット・メディカル・ニーズで事業を軌道に乗せることができました。その要因はどこにあったのですか

「医薬品製造は許認可が必要な事業で、エントリーも退出も容易な自由市場とは異なります。逆の見方をすれば市場参加者が限られている分、許認可がとれれば一定の利潤は生み出せるはず。製造部門はアウトソーシングするので、設備などに関わるコストは不要。大学の医師や研究者と連携し、新薬を求める患者さんのニーズを掴み、商品を企画していけば黒字化できると考えました。創業5年を経た2012年に繰越損失を一掃でき、その後は順調に売上高を伸ばしています。これまでに製造販売承認を取得し市場投入した医薬品は11品目で、このうち7品目が希少疾病用医薬品の指定を受けています」

——シーズを持たないことが強みですね

「そうです。生かされていないシーズを世界中の大学、研究機関、製薬会社などから探し出し、開発から承認までスピーディーな計画を立てることで新薬を世に送り出すことができます。ベンチャー企業の多くはシーズ先行ですが、私はニーズから行こうと考えました。何よりも必要とされる薬が充足できていないからです」

——起業にあたり、どのような経営方針を立てられましたか

「必要なのに顧みられない医薬品・医療機器の提供を通して、社会に貢献することを使命としています。経営方針、行動基準も定めており、すべての関係者が共有することを重視しています。そのためには繰り返し唱えることが必要です。判断に迷ったら患者の利益を優先することが行動基準の原点。3カ月ごとに社員に対し会社の現状を説明した後、患者さんに話をしてもらい、ここで聞く話を糧に社会的価値の創造に向かいます。社内対応では、ワーク・ライフ・バランスに気を配り、11日間の連続休暇制度を設け社員に取得義務を課しています」

——今後の事業展開について

「経営方針に五大州に雄飛すると明記しており、いよいよ今年から海外進出する計画です。欧米、東アジア各国で認可取得に向けた取り組みを始めます。新薬は3年以内に9品目を上市します」

企業データ

企業名
ノーベルファーマ
Webサイト
設立
2003(平成15)年6月
従業員数
254人
所在地
東京都中央区日本橋小舟町12—10
Tel
03・5651・1160
事業内容
難病・希少疾病などに対する満たされない医療ニーズに向けた医薬品・医療機器の開発、製造、販売  

プロフィール

塩村仁

1977年4月三菱化成工業(現三菱ケミカル)入社。三菱ウェルファーマ営業本部PLCM室長、三菱化学ヘルスケア企画室長を経て、2003年6月ノーベルファーマ設立、代表取締役社長に就任。62歳。神戸市出身