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全社でTQMに挑戦 生産性向上と賃上げを実現「関工業株式会社」

2026年 2月 24日

関浩一社長
関浩一社長

北海道や東北、北陸などの雪国では、道路や建物周辺に積もった雪を取り除く除雪車の活躍が住民の生活を支えている。建設車両に装着して雪を掻きだす役割を果たすのが、除雪ブレードだ。北海道石狩市の関工業株式会社は、この除雪ブレードの専業メーカー。同社は高品質を基盤とした経営手法TQM(トータル・クオリティ・マネジメント)に取り組み、生産性の向上や社員の意識改革をはかり、業績を改善させた。その成果は従業員の賃上げにも反映されている。自主的に改革に取り組む姿勢は、パートナーシップを結ぶ大企業からも高く評価されている。雪国でのモノづくりをハンディとせず、37人の従業員ながら、北海道初の日本品質奨励賞・TQM奨励賞を受賞した同社の活動は、モノづくりに取り組む中小企業にとって注目に値するものだ。

北海道ならではの事業

さまざまなアタッチメントを製造
さまざまなアタッチメントを製造

同社は現社長の関浩一氏の父が1971年に札幌市西区で創業した。板金加工や溶接の設備を整え、当初は建設機械のスチールキャビン(運転台)の受託製造からスタートした。その後、ホイルローダーの前に付けて使うアタッチメントも手掛けるようになった。牧草を運んだり、牛などの家畜に給餌するもの、牧草のロールをつかんだりするものなど、北海道ならではのさまざまな用途のアタッチメントを製造した。また、除雪用ブレードの製造にも着手した。

成長をけん引したマルチブレード
成長をけん引したマルチブレード

転機となったのは、除雪用ブレードとしてマルチブレードの開発に成功したことだった。それまで除雪用ブレードは一枚ものだったが、同社は複数枚のブレードを組み合わせ、シリンダーで動かすことで、ブレードの形状が変化するようにした。これにより、V字型にして固まってしまった雪を割ったり、U字型にしてさらさらの粉雪をすくい上げたりするなど、さまざまな雪質に対応できるようになった。これが、除雪作業をする作業員から好評で、需要が大きく伸びた。同時に大手建機メーカーの部品を受託製造する取引も決まった。仕事量が急増したことから2014年に、現在の石狩市新港西工業団地に本社と工場を移管した。

本社移転も課題に直面

石狩市に本社・本社工場を移管
石狩市に本社・本社工場を移管

新工場を稼働させ、堅実な経営を続けていたが、関社長は「現状のままでは今後の成長は見込めない。どうしていくべきか」と思案していた。マルチブレードは主力製品に育ち、受注量は順調に増えていたものの、生産現場の意識は町工場にいた時のままだった。部品や工具は床に乱雑に置かれており、ロボットを導入しても稼働率は20%以下にとどまり、うまく活用できなかった。不良品比率はじわじわと上昇していった。一方で、新本社への移転で借入金も増えるなど先々に不安もあった。また、マルチブレードのようないわゆる雪寒商品は、冬に備えて9月から11月が出荷のピークになる。その時期は残業が極端に増加するため、従業員の働き方に大きな負荷を与えていた。「生産や出荷を平準化させ、新しい技術開発にリソースを振り向けたい。人材育成にも時間を使いたい。そのために何らかの手を打ちたい」と考えるようになっていた。

そんな時、最大の取引先企業から、「今後の取引継続のために、ISO9001(品質マネジメントシステムに関する国際規格)の認証取得もしくはTQM奨励賞の受賞を考えてほしい」と告げられた。どちらも品質マネジメントに関するフレームワーク。関社長はその時、「どうせとるならTQM奨励賞に挑戦してみよう」と考えた。当時、ISO9001は中小企業でも取得する例が見られたが、TQMは大企業が取り組むものと見られていた。そこにあえて挑戦することで、会社としても一段飛躍させたいとの思いがあった。

TQMは「総合的品質管理」とも呼ばれるもので、日本では日本科学技術連盟が普及の役割を担っている。顧客の要求に合った商品(製品・サービス)を経済的に提供するための活動の体系で、顧客指向、継続的改善、全員参加により展開されるものとされている。具体的な活動として、小集団によるQCサークル活動、PDCAサイクルによる業務プロセスの見直し、データ分析などを行う。部門の垣根を越えて全社で品質の改善に取り組むとともに、組織のあらゆる業務の質を向上させることで、従業員満足度の向上と、顧客価値の創造を実現させる。ISO9001が品質を継続的に管理し、顧客の要求を満たすための仕組みを整える文書化やプロセスを重視した最低限の品質管理レベルであるのに対し、TQMは、企業文化を作り上げ、そこから品質を高めていくという、より高いレベルの取り組みと言える。TQMの基本的な考え方は米国発祥だが、日本流の活動にアレンジして実践し成果を上げたのは日本だと言われている。

エコステージ活動をスタート

工場の床を緑、青、赤で塗り分けている
工場の床を緑、青、赤で塗り分けている

同社は2016年にTQM活動の開始を宣言した。まず、段階的導入として、環境経営と企業体質向上の認証である「エコステージ活動」に取り組んだ。エコステージの認証は5段階からなり、中小企業が段階を踏んで環境マネジメントシステムを学べるようになっている。同社は2016年6月のキックオフからわずか3年後の2019年6月にエコステージ3の認証を取得することになるが、その道のりは決して平たんなものではなかった。

「社長がなんだか面倒なことを言い出した」。従業員らの最初の受け止めはこんなものだった。関社長は、エコステージの基本である、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底やあいさつの励行から始めた。しかし、従業員の中から反発の声が上がった。今までのやり方で何がだめなのかが理解されなかったのだ。関社長は「今の働き方では取引先に迷惑がかかることになる。このまま会社が立ち行かなくなれば、みなさんの生活も危うい。だから、全員参加で取り組まなければならないのです」と、従業員一人ひとりに訴えていった。

従業員から選抜したエコステージ推進メンバーが、企業の現状を分析する手法であるSWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析に基づいて、経営戦略を策定し、課題や取り組むべきテーマを決め、それを各部署に落とし込んでいった。

活動内容を示したTQM活動管理版
活動内容を示したTQM活動管理版

5S活動の一環で、工場の床は3色に色分けして塗り替えた。通路は緑、作業場は青、赤は材料置き場といった具合。工具や廃棄物の置き場にはテープを貼って分かりやすく示すようにした。ただ整頓といってもなかなかできなかったことも、色やテープで示すことで、理解が進むようになる。作業環境がきれいになれば、そこで働く従業員にとっても気持ちがいいし、安全面にも寄与する。こうして、取り組みが従業員に徐々に浸透していった。

同時に多能工化にも取り組んだ。それまでは、仕事が属人的に行われており、その人でなければできない業務が多々あった。以前、ロボットを導入してもほとんど使われることがなかったのは、ロボットに動作を教えるティーチングができる人材が一人しかいなかったことが要因だった。そこで、人材育成と資格取得を奨励し、掲示板に従業員それぞれが何の資格があり、今後いつまでにどういう資格を取得する必要があるかを掲示した。これが、従業員それぞれの資格取得への意欲につながった。

全員参加のTQMへ

TQM奨励賞の受賞式
TQM奨励賞の受賞式

QC活動も展開し、良い提案は表彰するようにした。最初は乗り気でなかった従業員も、取り組むことで自分のスキルが上がり、会社の業績が向上することが実感できるようになると、「次はこんなことをやりましょう」と自分で考えて行動できるようになっていった。まさに、全員参加による活動の成果が表れてきた。その結果として不良率が低下し、顧客満足度も向上した。雪寒商品の生産量の極端な偏りも、受注生産体制から、需要予測をして年間生産計画を立てて生産することで平準化させた。これにより、稼働率の向上や残業時間の低減が実現し、利益率が大幅に改善した。

同社はエコステージ3の認証を取得した後に、2022年に日本科学技術連盟が行うTQM奨励賞に応募し、見事受賞の栄誉を受けた。北海道の中小企業として初の快挙だった。TQM奨励賞の受賞後に同社が一番に実施したのは、従業員の賃金の引き上げだった。「最もがんばってくれた社員たちの労をねぎらいたい」との思いだった。同社は現在も数%前後の賃上げや、賞与の引き上げを継続して行っている。2025年からは全従業員に米30キログラムを配ることも実施している。「顧客満足度の向上と従業員満足度の向上を両輪で回す」。関社長が思い描いてきた経営のあるべき姿が実践されるようになってきた。

「関管理システム」で経営を見える化

TQMへの取り組みで同社が保管するデータは膨大なものとなった。これらを整理し、必要な時にすぐに取り出せるものとして、経営管理システムも刷新した。当初は市販の汎用システムの採用を考えたが、合うものがなく、自社の専用システム「関管理システム」を開発した。システムの導入で、必要な帳票が迅速に出力できるようになり、事務作業の時間短縮がはかられた。また、製品ごとの図面をシステム上で選択できるようになり、設計・製造工程のミス防止につながった。在庫管理の精度が向上し、棚卸業務の時間短縮も実現した。関社長は「コストはかかったが、業務の見える化と標準化が進み、社内の作業効率が大幅に改善した」と言う。

除雪の苦労軽減と環境問題に貢献

TQM奨励賞を受賞したことで、取引先や外部企業から同社を見る目も変わった。もちろん受賞で終わりではなく、今後も活動は継続していく。今後挑戦しようと考えているのが、除雪作業の負担軽減につながる取り組みだ。マルチブレードは夜間稼働していない間に降ってきた雪が付着することがある。翌朝は付着して固まった雪を取り除かなければならないが、これが大きな作業負担になっていた。同社はマルチブレードに樹脂を貼ることで、雪が付着しないようにする仕組みを試作した。除雪作業に携わる人の負担を減らすことができれば、人手不足に悩む地方にとって大きな手助けになる。樹脂は数年ごとに貼り換えが必要だが、使い終わった樹脂も再利用させていくことを考えている。関社長は「ブレードに樹脂を貼ることは、他社も検討しているが、リサイクルまで考えているところはなく、差別化できる」とみている。

北海道はモノづくりを行ううえで、さまざまな制約がある地域と言われている。それでも同社はこれからも北海道に拠点を置き、北海道から製品を供給することにこだわっていく。ただ、「これから考える事業や扱う素材を考えれば、自社だけではできない。同じ考えを持つ他社ともマッチングをしながら、連携して新しいことをやっていければ」という思いも抱いている。TQMで経営力を付けた同社が次にどんなことを手がけていくのか、見守っていきたい。

企業データ

企業名
関工業株式会社
Webサイト
設立
1971年
資本金
2000万円
従業員数
37人
代表者
関浩一 氏
所在地
北海道石狩市新港西3丁目702-6
Tel
0133-73-1547
事業内容
建設機器アタッチメントの製造(主力製品として除雪マルチブレード、スノーバケット製造、など)