起業のススメ

「(有)FIELD AND NETWORK」科学・社会・教育を問い続ける

知的好奇心の喪失は、現代社会が抱えている問題そのものではないか-。大草芳江は自身の経験を元に、「科学」「社会」「教育」とは何なのかを探求する媒体「宮城の新聞」を発行する。さらに、NPO法人を主催し科学イベント「サイエンス・デイ」も主催する。大草が「宮城の新聞」発行元のFIELD AND NETWORK(仙台市青葉区)を立ち上げたのは、東北大学大学院生命科学研究科在籍中の2005年11月だ。

宮城の新聞(ウェブ版)

あきらめない性格

2015年7月19日、東北大学川内北キャンパス講義棟をメーン会場に、イベント「学都『仙台・宮城』サイエンス・デイ」が開かれた。コンセプトは“子どもから大人まで科学の「プロセス」を五感で体験できる日”。メーカーや大学の研究室から中学校や高校の物理部まで、延べ113団体が講座プログラムや体験ブースを出展した。家族連れなど約8600人が参加する盛況ぶりだった。

主催のNPO法人natural science理事でもある大草芳江は、この様子を感慨深く見つめていた。2007年に第1回を開催した時は出展団体数はわずかに1つ、来場者数は40人だった。続けていくうちに大きな波になった。大草は「思っていたより時間がかかった。私、諦めない性格なんです」と笑む。

大草の活動は約10年前に始まる。仲間とともにFIELD AND NETWORKを設立すると、塾情報提供サイトの運営のほか、紙媒体とウェブ上で展開する「宮城の新聞」の発行を始めた。科学、社会、教育とはそもそも何なのかを探求する媒体だ。紙媒体は仙台市立中学校の生徒全員分にあたる約3万部を発行し、学校を通じて配布する。大草は編集長、発行人、記者を1人で務め、これまで全約350本の記事を掲載。約120人に単独インタビューした。対象は村井嘉浩宮城県知事らも含まれる。

インタビューでは共通の質問をぶつける。「科学とは、社会とは、教育とは何か」。相手によってバラバラの答えが返ってくる点に狙いがある。「科学も社会も教育も、全て人間が作っていて動きがあり、不確実性があり柔らかいものであると、中高生にも分かるように伝えたい」。きっかけは自身の原体験だ。

「なぜ」を突き詰める

小学校から大学入学までずっと、いわゆる優等生だった。「周りが『いいね』と言う価値観にしがみついていた」。ある日、知的好奇心を失いつつある自分に気付き危機感を覚えた。「内発的なモチベーションがなく、あらゆる出来事に実感が湧かない」。このままでは自分の足で立てなくなる、とまで思い詰めた。進学先に東北大理学部を選んだのは“なぜ”を突き詰められる学部だと感じたからだ。

大学での学びや学生、起業家らとの議論を通じて大草は1つの答えに行き着く。「“なぜ”と考える知的好奇心なくして新しいモノや価値は生まれない。“なぜ”の喪失は自分だけでなく、あらゆる技術がブラックボックス化した現代社会が抱えている問題そのものではないか」。問題意識が新聞発行に駆り立てた。

仙台市周辺は東北大など総合大学に加え、教育、福祉、薬学、工学など個別の専門分野に特化した多様な教育機関が集積している。地域連携による科学教育を行いたいと、NPO法人を立ち上げ、冒頭の「サイエンス・デイ」や、塾形式の「ものづくり講座」の運営も始めた。大草の科学ジャーナリストとしての仕事も増え、課題だったマネタイズの問題に光が差してきた。

「主体性を発揮するために大事なのが知的好奇心であり、知的好奇心こそが人間らしさ。誰もが主体性を発揮できる社会にしたい」と、大草は瞳を輝かせる。次の「サイエンス・デイ」の準備に忙しい毎日だ。

(敬称略)

起業を目指す後輩に送るメッセージ

起業家に必要なことは、まず自分が「こうだったらおもしろい」というものを思い描き、それを現実に形にして、社会に根付かせて、最後はそれが次の土台となることまでを具現化する力だと思う。素朴に思えることであっても、自分が価値だと思うことが見つかれば、ビジネスコンテストなどにチャレンジすると、社会がどのような評価をするかを可視化できると思います。きっと何かが還ってくるでしょう。

掲載日:2016年3月28日

企業データ

企業名
有限会社FIELD AND NETWORK
Webサイト
設立
2005年11月
代表者
遠藤理平
所在地
宮城県仙台市青葉区北目町4-7