中小企業とDX
ICT施工に積極チャレンジ “自前主義”で公共工事の効率化に貢献【金杉建設株式会社(埼玉県春日部市)】
2023年 8月 14日
土木建設の分野では、デジタル技術を活用して建設工事を行う「インフラDX」が推進されている。3Dデータを活用した設計や測量、工事作業を効率化するICT建機などが開発され、生産性の高い工事が可能になった。埼玉県春日部市の総合建設会社、金杉建設株式会社はインフラDXに積極的に取り組み、令和4年度に高度で効率的なインフラ工事を行った事業者を表彰する「インフラDX大賞」(工事・業務部門)で最も評価の高い国土交通大臣賞を受賞した。
3Dモデルを作成、設計の手違いを事前に発見
インフラDX大賞で金杉建設が高い評価を受けたのは、埼玉県が発注した橋の架け替えに伴う迂回路の整備工事での取り組みだ。現場は民家や大規模工場に隣接し、交通量も多く、周辺は慢性的な交通渋滞区間となっているところだった。沿道の住民の負荷を最小限に抑えることが求められていた。
金杉建設は、ICTで工事をサポートするシステムを搭載した中型のバックホーを活用した。3Dデータを重機システムに入力すると、システムがオペレーターの操作補助として機能する。掘削や盛り土をする際に地面などに設置する目印を設置する必要がなく、オペレーターの操作だけで作業が進められるシステムで、効率的でスピーディーな工事を実現した。ICTを活用したインフラ工事は、比較的、規模の大きなものが多く、小規模工事へのICT活用の道を広げた。
「今回の工事では、同時並行で別の工事をする施工業者と図面を共有し、現場にある埋設物なども調べ、工事の全体像の描いた3Dのモデリング画像を作成した。その結果、施工上の問題点を事前に見つけ出すことができ、トラブルを未然に防ぐことができた」と吉川祐介社長は胸を張った。
「年商の2倍も投資」製造業経営者の話に衝撃
1950年に吉川氏の祖父が創業した金杉建設は河川、道路、橋梁、上下水道、耐震補強など土木工事全般を手がける。埼玉県東部を中心に工事を受注。千葉や茨城など埼玉県外の国の発注工事にも参加している。吉川氏は2020年10月に社長に就任した。
吉川氏が積極的にICT導入を進めるようになったのは、東京中小企業投資育成が2012年に発足させた後継者を集めた経営者交流会に参加したことがきっかけだった。交流会には、さまざまな業種の経営者が参加。その集まりで製造業の経営者が「海外に工場をつくるため、年商の2倍の設備投資した」と平然と話すのを聞き、衝撃を受けたという。
「われわれの業界で投資するといっても1000万~2000万円の建機を買うくらい。1回の受注で2~3億円の仕事をしているのに、この程度の投資にしり込みしていいのか。そう強く感じた」
ちょうど国土交通省がICTの積極活用を促す「i-Construction(アイ・コンストラクション)」の取り組みを呼びかけていた時期だった。国交省や自治体がICT施工を行う業者を優先した入札を行うようになっていた。
吉川氏はICT施工にチャレンジ。だが、「まだどうやってICT施工をやるのか分からない状況」(吉川氏)の中で、まずは、ICTに詳しいメーカー系リース会社の協力を受け、工事を完成させた。「発注者から表彰を受けるなど工事はうまくいった。リース会社がICTのところをすべてやってくれて楽は楽。だが、このままでは技術が残らない。これからICTが標準になるのに人任せでいいのか」と強く感じたという。そこから金杉建設のDXが本格的に動き出した。
測量のデジタル化からスタート
まず手始めに測量のデジタル化に取り組んだ。建設工事で測量はなくてはならない重要な作業だ。業界に先駆けて、構造物の位置情報を立体的に計測できるデジタル測量機「3Dレーザースキャナー」を導入した。
三脚にスキャナーを設置すると、スキャナーが1回転して、周辺360度の地形や構造物の位置情報を正確に計測する。データをコンピューターで処理すると、まるで写真で撮影したかのような3D画像で現場を再現する。
インフラDX推進室室長の小俣陽平氏によると、「一度計測すると、地面から橋やビルのような高い構造物の高さなどを調べることができる。アナログの測量では、後で『あの場所を測っておけばよかった』ということがあるが、計測漏れも起きない」という。
さらに、重機のICT化にも着手。社内で保有する通常のバックホーなどの建機に設置できる後付け式の「マシンガイダンス」というシステムからスタートした。3D設計データの情報をオペレーターにカーナビのように伝えるシステムだ。
ICT重機には、さらに進化した「マシンコントロール」というシステムもある。「マシンコントロール」はデータをもとにシステムが重機を制御する機能を持っている。オペレーターが設計データよりも深く溝を掘ろうとすると、重機が操作を止めて掘りすぎるのを防ぐ優れモノだ。まだ経験が浅いオペレーターでも「マシンコントロール」搭載の建機を使うことで、作業を早く進めることができるようになった。ただ、小俣氏によると、「ベテランのオペレーターは、『マシンガイダンスのほうが操作しやすい』と話している」そうだ。
金杉建設では、後付け式のICTシステムを整備する一方、建機の更新に合わせて「マシンコントロール」を搭載した建機の導入も進めている。
こうしたインフラDXの推進したことで、現場にかける人手がこれまでよりもかからなくなった。土木工事には「丁張」という作業が欠かせなかったが、ICT建機の登場でその作業の必要がなくなった。
「丁張」は地面に杭を打ったり、木枠を設置したりして工事する場所に目印をつける作業。「大規模な工事になると、午前中、半日かがりで若手が2、3人でずっと作業をしていた。建機が作業中に丁張と接触してやり直しすることもよくあった」(吉川氏)そうだ。インフラDX大賞を受賞した工事では「丁張なし」で作業が進められた。
「恐れず積極投資を」
すそ野が広い建設土木業界では、インフラDXに対する取り組みに温度差がある。
測量を専門業者に外注したり、リースやレンタルなどを活用したりしているケースが少なくないそうだ。これに対して、吉川氏は「3D測量やドローン、ICT建機などはできるだけ自前で賄えるようにしたほうがいい」と強調する。「外注はお金がかかる。そうなると、仕事も差しさわりのない最低限で納めてしまいがちになる。自前で持っていると、自分たちが納得のいく仕事ができる」。
測量機やドローン、建設機械のリース料やオペレーターへの委託料、3Dモデルの作成費用…。「もっと細かい図面が必要になった」となれば、外部に追加で発注しなくてはならない。持ち出しが増え、実入りがどんどん少なくなる。工期のスピードアップにも大きな効果を発揮する。堤防などの河川の工事などは渇水期に工事が集中しやすい。完成後の出来形測量などは、測量会社への発注が集中しやすく、引き渡しが遅れることも少なくないという。自前で対応できれば、こうした不便もなくなる。
金杉建設は3Dスキャナーで測量したデータを解析し、3次元モデルに落とし込む技術を備えているが、小俣氏が「これだけのデータがあるならモデリングをやってみよう」とチャレンジしたのがきっかけだったそうだ。「工事の関係者だけでなく、周辺住民との調整も建設会社の大切な仕事。図面を何枚もみせてもなかなか理解はできないが、3Dでモデリングしたものをみせると、誰もが同じ考えになり、合意形成が取りやすい」と小俣氏は話すが、インフラDX大賞を受賞した工事は、“自前主義”の真価を発揮することができた。
吉川氏は、高い評価を受けた中小型建機のICT化を積極的に進めていく考えだ。ICT施工を武器に他社が敬遠しがちな小規模な土工などが含まれる工事を受注し、収益を獲得していく戦略を立てている。
建設業界は人手不足が深刻化している業種の一つだ。ICTの活用は省力化だけでなく、工事の安全性を高める効果も大きい。自前で取り組み、内製化することでメリットを最大限享受できる。吉川氏は、「恐れずに積極的に投資をしていいと思っている。建設機械は大きな資産。買ってうまくいかなかったら売ることもできる。積極的にチャレンジすることが大事だ」と訴えている。
企業データ
- 企業名
- 金杉建設株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1950年9月
- 資本金
- 9800万円
- 従業員数
- 80人(グループも含む)
- 代表者
- 吉川祐介 氏
- 所在地
- 埼玉県春日部市南1-6-9
- Tel
- 048-737-6211
- 事業内容
- 総合建設業、開発企画、一般土木