BreakThrough 企業インタビュー
長寿命の超音波モータと段差を乗り越えられるロボットを開発【株式会社Piezo Sonic】<連載第1回(全2回)>
2020年 12月 10日
「株式会社Piezo Sonic」は、医療機器や半導体製造装置などのメーカから注目を集める超音波モータと、その超音波モータを組み込んだ搬送用自律走行ロボットという二つの軸で事業を展開するファブレスメーカ※です。創業は2017年ですが、同社の多田興平社長が20年以上研究を続ける超音波モータの独自製品「ピエゾソニック モータ」で、2019年度「グッドデザイン賞」をはじめ数々の賞を受賞。産学官連携でのものづくりも得意とする同社がどのように新価値を生み出しているのか。2回の連載でその秘訣に迫ります。
※自社工場を持たないメーカのこと
従来の超音波モータの倍という長寿命化を実現
超音波モータは、圧電セラミックに電圧を加えて超音波領域の振動を発生させ、その振動を回転力に変換、金属製ステータとローターとの間に生じる摩擦力を利用して回転します。DCモータやステッピングモータと違って磁石やコイルを使わないため、医療現場に欠かせないMRI内などの高磁場環境でも正常に動作することが最大の特徴。その上非通電でも姿勢を保つ高保持力や高トルクなどさまざまな強みを持ちます。
「ただ、摩擦力で動いているために素材の摩耗が早く、寿命が短いという弱点がありました。この課題を改善したのが当社の『ピエゾソニック モータ』です」
同製品は、従来の超音波モータに比べ2倍以上の長寿命化を実現しました。その上、従来品よりサイズは約25%も小さく、重量はわずか約250g。それでいて最大トルクは1.2Nm(ニュートンメートル)、1分間の最大回転数は180rpmと、いずれも20%程度従来品を上回ります。静音性にも優れているほか、「ゆっくりとした動き」を実現する能力も群を抜いています。
「実は高速回転よりゆっくり動かす方が難しい。そのため10rpm以下の回転数は保証されない製品が多いなか、『ピエゾソニック モータ』は1rpm以下でも制御可能です」
こうした特徴をもつ同製品は、先に挙げたMRIなどの医療用機器、半導体製造装置の位置制御機構、EVの駆動部用モータなどでの試作・実装が進んでいます。なかでも多田氏が最も期待を寄せているのが、同社のもう一つの軸であるロボットへの実装です。
段差を乗り越えられる搬送用自律移動ロボットを開発
実は、同社の長期的な目標は介助ロボットの開発です。多田氏がロボットに最適なモータの研究を進めた結果、「ピエゾソニック モータ」に辿り着いたという経緯があります。その目標に向けた第一段階として開発されたのが、搬送用自律移動ロボット「Mighty」です。30kgまでの荷物の短距離輸送ができるコンパクトなロボットで、GPSよりも精密なRTK※による測位と、Lidar※2、画像センサによって正確な自律走行を実現します。
「顕著な特長は約20cmまでの段差なら乗り越えられることです。実は世の中の大半のロボットはフラットな場所でしか動けません。『Mighty』は、道路上の縁石なども乗り越えられるため、屋外から屋内などへの搬送も十分可能。この仕組みで特許も取得しています」
また、ユニットごとに組み換えられるカスタマイズの自由度が高い設計と、多様なサービスロボットと組み合わせられることも強みの一つ。例えばロボットアームを搭載すれば、移動と作業を両立することもできるといいます。
ともに今後の幅広い活躍が期待される「ピエゾソニック モータ」と「Mighty」がどのように生み出されたのか。次回は両製品の開発の裏側や、同社が得意とする連携のポイントなどについて探っていきます。
※「Real Time Kinematic」の略。地上に設置した基準局から送られてくる位置情報データを基に、誤差数cmという高精度の測位を実現できる。
※2 レーザー光を使って対象物の位置や形状を正確に検知できるセンシング技術
連載「自社技術と他社技術を組み合わせて介助ロボットの実現を目指す」
- 第一回 長寿命の超音波モータと段差を乗り越えられるロボットを開発
- 第二回 自社技術と他社技術を組み合わせて介助ロボットの実現を目指す
企業データ
- 企業名
- 株式会社 Piezo Sonic(ピエゾ ソニック)
- 代表者
- 代表取締役・多田興平(ただ・こうへい)
多田社長が超音波モータのメーカ勤務を経て2017年に創業。「ピエゾソニック モータ」、自律移動ロボット、IoT デバイスを開発・製造・販売するファブレスメーカ。これら製品の知見をもとに、新サービス開発のコンサルティングにも対応する。
取材日:2020年10月30日