経営課題別に見る 中小企業グッドカンパニー事例集
「株式会社スワロースポーツ」越境ECで海外まで販路を広げる野球用品店
スワロースポーツは、スポーツ用品を取扱う小売店である。主に「野球用品」を取扱い、インターネット通販に特化した事業を展開している。近年、越境ECサイトをオープンさせ、台湾・中国・韓国・英語圏に販路を拡大した。矢野正弘社長は債務超過の状態から経営を復活させた2代目経営者。どのようにして債務超過を脱却し、越境EC事業まで展開していったのか。その経緯とスワロースポーツの強みを紐解いていく。
この記事のポイント
- 数値管理の徹底とインターネット通販による販路拡大で、債務超過を脱却
- 野球用品に特化した品揃え戦略で、他社と差別化
- 現地の商習慣やニーズの把握により、海外事業展開を推進
- 社員の主体性を重視することで、強い組織体制を構築
どん底から回復させるために実行した3つのこと
スワロースポーツの創業は1974年。矢野正弘社長の父親である先代社長が、個人事業として練馬区春日町に路面店をオープンさせた。体育用品を中心に取扱うスポーツ用品店として、学校や役所を中心に購入してもらっていた。しかし、Jリーグ発足、FIFAワールドカップ出場によるサッカーブームにも関わらず販売不振が続き、経営が傾いていく。
矢野さんが2代目社長として就任したのは1996年。承継当時は、債務超過状態で資金繰りも厳しい状態だったという。帳簿管理もまったくできていなかったため、会社の経営がどのような状況に置かれているのかさえ、まったく把握できない状態だった。そこで矢野さんは、スワロースポーツの経営状態を回復させるために3つの施策を打つ。
(1)スワロースポーツを法人化し、個人と法人の資産を分離
矢野さんが社長に就任するまでは、スワロースポーツは個人事業として経営されていたため、個人の資産と事業の資産が混沌としていた。個人と事業の資産を明確にするために法人化した。これにより、企業の状態を客観的に把握でき、収益性や安全性の評価をできるようにした。
(2)他社に先駆けてインターネット通販をスタート
矢野さんの社長就任と同じ年に、インターネット通販をスタートさせた。現在と比べると、まだインターネットの普及は進んでいなかった。しかし矢野さんは「今後、インターネットは世界中に普及する」と睨み、他社に先駆けて野球用品を取扱うインターネット通販をオープンさせた。2011年には路面店をたたみ、インターネット通販一本に絞った。
インターネット通販では、より多くの人に検索されるようSEO対策を行うことによって、商圏は地元から一気に全国に広がり、売上規模は右肩上がりに拡大していった。
これらの活動を積み重ねたことにより、債務超過状態で資金繰りも厳しい状態から脱し、高収益企業へと変わっていった。
(3)SKU単位での在庫管理を実施
在庫は在庫台帳で管理はしていたが、同じ商品名で色・サイズごとまでは管理ができておらず、受注時に在庫がないなどのトラブルが生じていた。トラブルを解消する為、数年かけて在庫管理システムを導入し、データベース上でSKU(Stock Keeping Unit)単位での在庫管理を実施した。これにより、在庫の状態をリアルタイムで把握し、在庫トラブル防止につながった。さらには、商品別アイテムごとに採算性の管理ができるようにし、売筋商品や死筋商品をアイテムごとに把握できるようになった。
ネットショップで差別化するために
スワロースポーツで販売している商品は、野球用品のみに特化している。現状、野球用品の市場は年々縮小傾向ではある。しかし、矢野経済研究所の発表によると、スポーツ用品分野別国内市場規模でみると、野球・ソフトボールのメーカー出荷額は715億円以上あり、小売市場規模では、約1,000億円の市場規模がある。現在、スワロースポーツの売上高は約15億円。シェアは約1.5%でしかなく、9割8分以上の市場が残っている。矢野さんは野球用品に特化してマーケットシェアを伸ばすことに経営資源を集中させることで、売上を拡大する余地は十分にあると考えている。
また、消費者が手軽にスワロースポーツを使って貰えるよう、販売サイト上のレイアウトの改善や、楽天、Amazon、Wowmaなどのネット通販でも購入ができるよう、利便性の向上を追求している。
越境ECサイトでの販路開拓
スワロースポーツは現在、台湾・韓国・中国・英語圏向けに越境EC事業を展開している。元々、海外では日本製野球用品の評価が高く、わざわざ台湾や韓国から直接出向いて日本まで買いにくる顧客もいるという。矢野さんは、野球用品でも越境EC事業を展開したら成功するのではないかと睨み、2011年に海外向け事業をスタートさせた。
台湾・韓国出身の従業員を雇っており、直接現地の方とのコンタクトや日本とは異なる消費者の志向や商習慣を把握できる強みがスワロースポーツにはある。例をあげると、台湾現地の消費者が使い慣れている通貨は「台湾ドル」。現地の商習慣に合わせて、スワロースポーツの商品を現地通貨で買えるようにするなど、ECサイトの利便性を高めている。
こうして、現地消費者とのコンタクトを通して現地の声を反映し、その国に合ったECサイトの構築や販売戦略を展開している。現在の売上規模は、年間3,600万円までに成長している。
継続的に成長するために
このような展開をしている同社は、従業員教育にも力を入れている。従業員に経営の知識やノウハウを身に付けさせるために、社外の研修に派遣している。研修を通じて、従業員全員が経営者意識で仕事に取り組んでもらうためである。会社の経営計画及び運営を社員主導で行うことで意思決定のスピードなど、他社には真似できない競争力を醸成している。
他方では、スワロースポーツの経営計画書には、今後実施する予定の販売戦略・広告戦略・オペレーション改善など、具体的なアクションプランが記されており、まさにスワロースポーツを発展させる「未来のコンパス」である。矢野さんは「まだまだやり尽くしたレベルまで達していない。今はやれることを一つひとつやっていきたい」という。
企業データ
- 企業名
- 株式会社スワロースポーツ
- Webサイト
- 設立
- 1996年9月19日
- 従業員数
- 32名(うち契約社員1名、パート11名)
- 代表者
- 矢野 正弘
- 所在地
- 東京都練馬区春日町5-7-9
中小企業診断士からのコメント
スワロースポーツは野球用品にアイテムを絞り、専門性の高い独自の品揃えを行っている。専門性の高い品揃え戦略により、消費者の間では「ネットで野球用品を買うならスワロースポーツ」といったブランドイメージが年々定着しつつある。また、社員主体で事業展開を行う体制が、海外展開を成功させた要因の一つだと考える。経営計画書に記されたアクションプランも、成長を持続させるために大きな役割を担っている。従業員教育、新たなことに挑戦するアクションプランの実行を確実に続ける「継続力」こそが、同社の強みに繋がっている。
内田 喬也