生産性を考える-IoTとものづくり企業-

IoT活用型遠隔地塗装工場運営「ヒバラコーポレーション」

重電機器や車両制御システムなど金属に対する塗装を主事業とする企業。熟練技術者の高齢化、若手人材の確保難などの課題に対応するとともに、品質と生産性の向上を目指して、生産状況や工程進捗状況を可視化できる生産管理システムを自社で独自に開発・導入した。さらに、IoTを利用した遠隔地塗装工場監視システムも開発。自社工場の生産管理システムで得られたデータをもとに遠隔地にある顧客の塗装工場に対し、最適に運用するためのノウハウ、技術などを提供したり、工場運営を請け負ったりするニュービジネスを立ち上げた。

多品種少量生産型工業塗装業界のリーディングカンパニーめざす

「業界のリーディングカンパニーをめざす」と語る小田倉社長

「工業塗装業界においてイノベーションを興し、リーディングカンパニーになる」——。

日立製作所グループが周辺地域に集積する茨城県東海村に本社工場を置き、原子力・火力・水力発電関連機器や鉄道車両関連機器などの塗装を請け負うヒバラコーポレーション。小田倉久視(おだくら・ひさみ)代表取締役社長(52)は、5年後の将来像を明確に描いている。

工業塗装業界は、熟練技能者の高齢化と若手人材の確保難、それに伴う品質の不安定化に加え、環境対応に伴うコスト圧迫といった構造的な課題を共通して抱えている。そこで、小田倉社長は、同社がITやIoTを活用するソリューションを業界に提供し、「工業塗装業界の今までのイメージを変え、より優秀な人材が集まる業界にしていきたい」と考えているのだ。

そのコアとなる技術が独自開発の生産管理システム「HIPAX(ハイパックス)」と、「IoTを活用した遠隔地塗装工場監視システム」。ヒバラの本社工場をマザー工場にして、遠隔地にある顧客の塗装工場をIoTで監視。顧客の工場に設置したセンサーやカメラで異常データを検知できるようにするとともに、HIPAXで蓄積した同社の塗装プロセスデータをもとに、顧客の塗装工場を最適に運営するためのコンサルティングや技術、資材の提供、さらには運営そのものを請け負うというビジネスだ。

全国の工業塗装の工場や海外日系企業が発注している現地塗装工場が対象になる。同社が扱う重電機器のような金属製品のメーカーは、社内に塗装ラインを持つケースも多いので、そうしたメーカー内の塗装部門も対象。そうしたメーカーが海外進出すれば、マーケットはさらに海外へと広がる。工業塗装ビジネスは、塗装する対象を運搬する必要があるので、大手企業の近郊に下請けとして立地し、その経済圏域内だけで活動するという制約があった。IoT活用型遠隔地塗装工場運営ビジネスは、そうした従来の常識を大きく覆す発想であり、工業塗装業界を一変する可能性を秘める。

社内にシステム開発部隊

マスターアームを通じて熟練工の技術を再現

小田倉社長がIT、つまりはコンピューターの活用ということを意識したのは学生時代に遡る。大学3年のときにヒバラの創業者である父親が急逝。長男として、「残された家族のために地元の日立地区に戻るためにはどうしたらいいかと考えた」(小田倉社長)とき、思いついたのが、将来不足すると言われていたシステムエンジニア(SE)になることだった。在籍していたのは商学部だったが、夜学の専門学校に通ってプログラミング設計を勉強。希望通りに日立エンジニアリングに就職した。SEの腕を磨いたあと、1991年にヒバラに入社。2年後の93年に26歳の若さで社長に就任した。

ヒバラで最初に取り組んだIT活用は、スキャナーとドットプリンターを組み合わせたシステムの導入による事務処理作業の効率化だ。当時、受注した製品の形状を伝票に手描きで書いていた。伝票は、受注から納品までの各工程ごとのものをカーボン用紙で複写するタイプのものだった。それをスキャナーとドットプリンターを使うことで、最後まで鮮明な図や文字で書かれた伝票を簡単に作成できるようにした。小田倉社長はこのときの経験から、「データ処理のような仕事は男性よりも女性に任せたほうが良い」と悟ったという。女性のほうが新しい仕事に素直に取り組むし、きめ細やかだからだ。

ロボットの活用も可能な粉体塗装ブース

その後も、新しい塗装設備やITシステムの導入を進めたかったが、バブル崩壊後の厳しい状況が続いていたので、資金調達もままならなかった。そこで、小田倉社長は、2000年に自費を投じてシステム開発会社を設立。日立グループからプログラム設計を請け負う仕事を始め、新たな収益源にしようと考えた。これが狙い通りに収益を上げられるようになり、2年後にヒバラに統合。以来、ヒバラは塗装部門と並んでシステム開発部門を抱える会社となった。

生産管理システム導入で生産能力30%アップ

「IoTを活用した遠隔地塗装工場監視システムの概念図」

自社のシステム開発部隊が中心になって開発した生産管理システム「HIPAX」は、多品種少量生産に対応して「非常に細かなデータを蓄積できる」(小田倉社長)システムだ。入荷時に1品ごとの塗装仕様やサイズ、写真などの情報をスマートフォンでパソコンに入力して、作業工程を一元管理。塗装現場の作業者は、作業指示書で仕様や納期などを確認しながら、表面処理から塗装、検査の各工程ごとに開始・終了時間を入力していくので、リアルタイムの進捗状況を確認できる。この塗装プロセスの可視化は、自社の生産管理に役立てるだけでなく、顧客に見せる仕組みも搭載。顧客からの問い合わせに対応する負担を大幅に軽減するとともに、顧客の信頼性向上につなげている。

塗料作業の内容についても詳細にデータベース化。塗料メーカーや種類別に特性の違いや温度・湿度など作業環境の違いに応じて、最適な溶剤の希釈率や使用する塗装機の条件などを弾き出せるようになっている。HIPAXの稼働に伴い、2012年からこれら生産管理、工程管理に伴う各種データが蓄積されてきており、そのデータを分析することで、より最適な生産、工程管理が可能になるという好循環を生んでいる。

ちなみに、同社では、このHIPAXの開発・導入により、「同じ人員態勢で生産能力を25%から30%伸ばせられるようになった」(小田倉社長)という。外部への販売にも力を入れており、すでに複数の企業に納入実績がある。

自動塗装ロボットも実用化

「HIPAXによるデータ解析の一部(適正塗料希釈値の演算結果)」

生産管理システムに続いて、現在、取り組んでいるのが「熟練工の技術をどう経験知として残していくか」(小田倉社長)ということだ。同社の熟練工がマスターアームを利用して、これまで培ってきた自らの塗装技術をデータ化し、ロボットに覚えさせる作業を進めており、いずれ約2万パターンもの動作を習得することになる予定。ディープラーニング技術も活用して、多品種少量生産に対応するロボットによる自動塗装に向けた実用化を進めていく計画だ。

これら技術の活用を前提にした「IoTを活用した遠隔地塗装工場監視システム」は、経済産業省の平成28年度戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)などを活用して開発。今後、生産管理システムの名称として商標登録した「HIPAX」を同システムによるIoT活用遠隔地工場運営ビジネス全体を総称する商標へと適用範囲を広げ、商社とも連携して積極的に売り込んでいく計画だ。このため、2016年に同システムの販売を担当する新会社を設立している。

IT、IoTの活用以外でも、経産省のものづくり補助金を活用して、塗装設備の高度化を順次、推進。作業員の多能工化、産業廃棄物の大幅削減といった成果を挙げている。2018年3月には、こうした数々の先進的な取り組みが評価され、中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定された。小田倉社長は「これからも、製造加工業として、どう展開したらいいかを絶えず考えていきたい」と意欲を見せる。

企業データ

企業名
株式会社ヒバラコーポレーション
Webサイト
法人番号
6050001004898
所在地
茨城県那珂郡東海村村松平原3135-85
事業内容
工業塗装