BreakThrough 企業インタビュー

ナノテクノロジーの技術と知見で開発を支援。“名脇役”として企業の頼れるパートナーに!【株式会社マイクロフェーズ】

2018年 9月 13日

代表取締役の太田慶新氏
代表取締役の太田慶新氏。マイクロフェーズの技術開発力は太田氏の長きにわたる研究、経験の賜物といえる

summary

揺るぎない経験と知見で、企業の研究開発を支援
挑戦心を持ちアグレッシブな姿勢で臨むことの重要さ
大手企業への開発支援で大手と同様のスケールの業務に従事

マイクロフェーズ株式会社は、ナノテクノロジーの研究開発を基幹事業とする筑波大学発のベンチャー企業だ。 "役に立つ研究開発"をモットーに1999年に設立され、企業の研究開発や実用化事業を技術面で支援。カーボンナノチューブ・ナノ材料・ナノテクノロジー分野において、市場ニーズの変化に柔軟に対応し、 常に技術の最先端の位置を目指して日々研究開発を進めている。

同社は、これまでもカーボンナノチューブ合成装置をはじめ、様々な装置やサービスを開発することで技術支援の領域を広げてきた。最も新しい装置としては、粉末試料の表面にカーボン膜をCVD(化学気相成長)コートするための「回転炉」がある。ナノテクノロジーの技術と知見から生み出されたこの「回転炉」の開発経緯に触れながら、同社の取組を代表取締役である太田慶新氏に伺った。

粉末試料の表面にカーボン膜をCVD(化学気相成長)コートするための「回転炉」
粉末試料の表面にカーボン膜をCVD(化学気相成長)コートするための「回転炉」。同社が開発した最新の装置

リチウム電池の蓄電量アップのために開発

太田氏曰く、これからは電気自動車の普及に伴い、大容量の電池が不可欠の時代になるという。そのために今、脚光を浴びているのがリチウム電池だ。
このリチウム電池の蓄電量を上げるには、電池の負極材をグラファイトから、グラファイトよりも蓄電量が最大10倍のシリコンに置き変える必要がある。そしてシリコン実用化のためには、シリコンの粒子の表面にカーボンを成膜することも欠かせない。なぜならカーボンにはシリコンにはない導電性があり、成膜することでシリコンの耐久性も大幅に向上できるからだ。

さらにカーボンを成膜するうえで問題となるのが、シリコンが粉末のためムラになりやすい点だ。この課題を解消するために開発されたのが、シリコンを撹拌しながらCVD(化学気相成長)を行う“回転炉”だ。撹拌しなければ、カーボンは表面には成膜されるが奥まで行き渡ることができない。そこで反応管を回転させて撹拌効果を促し、ムラのない成膜を実現可能にしたのがこの装置だ。電池開発のワンステップにすぎないが、蓄電量をアップするための外せない重要なステップであると太田氏は語る。

透過型電子顕微鏡での様子。
透過型電子顕微鏡での様子。回転炉を使うことで、このようにシリコンにカーボンを6nm成膜することができる

揺るぎない技術研究の経験をフル活用する

同社はリチウム電池そのものを開発することはないが、ナノテクノロジーをはじめとする、技術研究と知見の蓄積をフルに活用し、企業の製品やサービスの研究開発の支援を行っている。大手企業が研究開発するうえで、企業内部では足りない“何か”を補えるのが同社の強みだ。

大手企業ができないこと、同業他社がひるむことに挑戦

製品やサービスの技術開発に関するサポート業務が多い同社に持ち込まれる案件は、クライアント側である大手企業にとっても具体的にどのように対処すればよいのかがわからないものが多いという。以前は企業側も技術開発の研究機関の育成などに力を注いでいたが、現在はそのような土壌がなくなっている企業も多いようだ。そこで同社に、駆け込み寺のような形で案件の相談を持ち掛けられるのが今や定例となっている。

また、持ち込まれる案件の多くは、研究開発を行っている同業他社が断ったり、経験がないゆえにひるんでしまう事例だという。一般的に自社に実績がない分野の案件は断念してしまう企業が多いが、同社にはそのような消極的な姿勢は微塵もない。解決の糸口が見えていない案件に対しても親身に向き合いながら、「ああしてみるのはどうか。こうしてみるのはどうだろう。」と、共に解決策を考えながら提案していく。そうした姿勢がクライアントから高く評価を受け、信頼関係を築くことにつながっているようだ。

このように大手企業ができないこと、同業他社がひるんでしまうことを果敢にやり遂げ、サポートしていける背景には、前述の通り、同社に技術開発の経験と知見があるからだ。そうした蓄積があれば、実績が薄い分野に関しても応用が効くという。さらにどんな案件でもトライしてみようという、挑戦心とアグレッシブな姿勢ももちろん重要となる。

主役を引き立てる、名脇役として欠かせない存在

世の中のニーズを読み取るためにマーケティングを行い、市場に合わせた製品の開発や製造・販売を行うような通常の事業形態を同社は取っていない。
クライアントは大手企業が多く、あくまで主役の大手企業を引き立て、脇役に徹するというスタンスだ。ナノテクノロジーを軸にした技術研究で大手企業の技術開発を支える、まさに縁の下の力持ちともいえる。

そして同社のように大手企業の技術開発支援が主な事業であれば、単なる一部品の開発・製造に留まらず、大手と同様のスケールの事業に携わりながら、技術開発支援のみにフォーカスして業務に力を注ぐことができる。さらに製造や販売を行わない分、製造工場や倉庫を所有したり、そのための人員を雇用する必要もない。身軽で自由度が高いため、コア事業に集中した経営ができる。

今後の展開として、同社は中国をはじめとする海外への進出も視野に入れている。それにはコネクションをつくる必要があると太田社長は言う。
海外という新しい舞台へ。名脇役として益々の発展が期待できるだろう。

企業データ

企業名
株式会社マイクロフェーズ

ナノテクノロジーの研究開発を事業の柱とする筑波大学発ベンチャーです。皆様の研究開発や実用化事業を技術面で支援します。お客様の目的や要望を十分に理解し、目標達成のための最短距離を能動的に提案します。また、蓄えてきた力を尽くすだけでなく、チャレンジすることによって新たな知見と能力を獲得していく所存です。

取材日:2018年8月21日