BreakThrough 発想を学ぶ
連携で成功した社会起業家たちにビジネスのヒントを見出す【株式会社横田アソシエイツ代表取締役/ 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授・横田浩一氏】<連載第3回>(全4回)
2020年 3月19日
SDGs最大の特徴が「バックキャスティング」であることは第1回で説明しました。それに加えて、「異なる社会のつながりから生まれるイノベーション」を求めるというのもSDGsの大きなポイントです。本連載第3回は、異なる社会のつながりからイノベーションを生み出す方法を、社会起業家たちの成功例から探っていきます。
◆SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかに記載されている、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するため、「貧困」「飢餓」「気候変動」「エネルギー」「教育」など17分野の目標=「ゴール」と、17の各分野での詳細な目標を定めた169のターゲットから構成されており、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択された。2017年7月の国連総会では、各ターゲットの進捗を測定するため232の指標も採択された。
ITの活用でソーシャルビジネスが変化
「SDGsは、各国政府や行政、企業、NGO、NPO、市民に至るまで、あらゆるセクターが共同で取り組んでいかなければいけません。当然中小企業も重要な主役の一人。ほんの数年前まではいくら汗をかいても儲からないイメージだったソーシャルビジネスが、いまやITの活用で様変わりしています」
では実際、どのような連携・共同によるビジネスが生まれているのでしょうか。
2018年に横田氏がアドバイザリーを務める日経ソーシャルビジネスコンテストで大賞を受賞した「株式会社miup(ミュープ)」は、バングラデシュの僻地医療をサポートするアプリを開発しました。ユーザーがスマホで撮影した患部の写真をもとにAIが診断。異常があればアラートが鳴り、病院に行くことを勧めるといったサービスです。
「同社の酒匂真理代表は農学部の出身で、元々は専門である食糧問題の観点から途上国支援を考えていたそうです。ただ共同創業者がAIを専門とし、周囲に医療関係者もいたことから、ソーシャルビジネス×AI×医療というこのサービスが生まれました」
研究は一人でできても事業化には連携が必要
分身ロボット「Orihime(オリヒメ)」を開発した「株式会社オリィ研究所」も、連携によりソーシャルビジネスを成功させた好例と言えるでしょう。
「Orihimeは、例えば仕事の都合や、病気やケガ、身体の障がいなどによって自分が移動できない場合、自分に代わってその場所にOrihimeを置くことで、周囲を見回したりリアクションを取ったりしながら、そこにいる人々とコミュニケーションを取れるようにするロボットです」
不登校の経験をもとにこのロボットを開発したという同社の吉藤健太朗代表は、高校時代から一人でAIについて勉強し、早稲田大学在学中にはAIロボットの研究を開始。ただ事業化に際しては、同大の福祉ロボット研究会に参加して生まれた、教授やものづくり企業とのつながりや、さまざまな得意分野をもつメンバーの知見が必要だったと言います。
このように、既存の中小企業がSDGsを目指し、今のビジネスを進化させたり、新規事業を起こしたりするときにも、他者との連携や協力は非常に有望な選択肢となり得ます。
スムーズな連携に欠かせない条件とは?
では、SDGs達成に向けて共創するパートナーを見つけるためのポイントはあるのでしょうか。
「まずは参画者全員が互いに共通利益を求め、社会的にどのようなインパクトが与えられるかという点についての理解を共有すること。当然自分の会社だけ儲かろうという考えでは連携は望めません」
その上で必要なのが、リーダーシップやコミュニケーション能力の高い人材などです。
「強引に引っ張る強いタイプと言うより、『この目標に向かって一緒に頑張りませんか?』ということを情でも理でも説けるサーバントリーダーシップが求められます」
また文化の壁を越え、スピーディに共同作業を進め、きちんと最後までやり切るという力も欠かせません。
「そして最後はやはり目利きの存在。互いの強みをきちんと理解している共通の知り合いの紹介が最も成功する確率が高いでしょうから、信頼できる人や組織に連携をサポートしてもらえるといいですね」
連載「ミドル層を動かし、2030年以降も持続可能な企業へ」
- 第一回 中小企業がSDGsに取り組むべき2つの理由
- 第二回 SDGsへの取り組みにより優秀な人材の獲得競走で有利になる
- 第三回 連携で成功した社会起業家たちにビジネスのヒントを見出す
- 第四回 ミドル層を動かし、2030年以降も持続可能な企業へ
横田浩一(よこた・こういち)
株式会社横田アソシエイツ 代表取締役/慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授
1988年日本経済新聞社に入社。2011年同社を退職後、株式会社横田アソシエイツを設立。15年より慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授を務める。多くの企業のブランディング、マーケティング、CSR、CSV、HRM、イノベーション分野や働き方などの改革に携わると共に、さまざまな地域で地方創生に関わる。また、日本ユネスコ国内委員会や中小企業基盤整備機構、大手企業研修などでSDGsをテーマにした講演も多数行う。
◇主な編著書
・『デジタル・ワークシフトマーケティングを変えるキーワード30』(共著/産学社)2018年刊
・『明日は、ビジョンで拓かれる』(共著/碩学舎)2015年刊
・『ソーシャル・インパクト~価値共創(CSV)が企業・ビジネス・働き方を変える』(共著/産学社)2014年刊
・『愛される会社のつくり方』(共著/碩学舎)2014年刊
取材日:2020年1月9日
同じテーマの記事
- 中小企業がSDGsに取り組むべき2つの理由【株式会社横田アソシエイツ代表取締役/ 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授・横田浩一氏】<連載第1回>(全4回)
- SDGsへの取り組みにより優秀な人材の獲得競走で有利になる【株式会社横田アソシエイツ代表取締役/ 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授・横田浩一氏】<連載第2回>(全4回)
- 連携で成功した社会起業家たちにビジネスのヒントを見出す【株式会社横田アソシエイツ代表取締役/ 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授・横田浩一氏】<連載第3回>(全4回)
- ミドル層を動かし、2030年以降も持続可能な企業へ【株式会社横田アソシエイツ代表取締役/ 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授・横田浩一氏】<連載第4回>(全4回)