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「ピエゾ・スタジオ」大学シーズの圧電材で事業化

この記事の内容

  • IT機器の消費電力低減とエネルギー利用の効率向上が情報技術革新社会の課題
  • 課題解消に向け東北大学が開発した圧電材を実用化するベンチャーとして2014年設立
  • 電力消費を抑え耐高温性もある特徴を活用し、新たなデバイスへの展開を目指す
新規圧電単結晶材料を手にする井上社長

中小企業の成長をサポートする場として中小機構は「新価値創造展」を毎年開催し、出展者の中から新価値創造への寄与が期待される企業に「新価値創造賞」を贈っている。昨年の同展で栄誉に輝いた、3社の優れた技術・製品と新分野開拓への意気込みなどを紹介する。

ITが社会構造を変えた。ITは生産性を大幅に向上させ、ビジネス、生活の利便性が飛躍的に向上した。まさに現代は、ITの活用なしには成り立たない情報技術革新社会ともいえるだろう。

しかし、必需品となったコンピューターなどIT関連機器による電力消費が増加し、電池交換や充電にともなう手間、さらには廃棄電池などの増加への対応など、利便性の裏にある解決すべき課題も顕在化している。便利で安心・安全な社会を実現するためには、IT機器の消費電力低減とエネルギー利用の効率向上などへの取り組みが喫緊の課題だ。

これらの課題解消をイノベーションで取り組んでいるのが、東北大学発のベンチャー企業であるPiezo Studio(ピエゾ・スタジオ)だ。同社は東北大学金属材料研究所の吉川彰教授が開発した圧電材料を活用し、IoT時代に欠かせないデバイスの開発・製造を行うため東北大のBIP(ビジネス・インキュベーション・プログラム)の採択を受けて2014年12月に設立された。

代表取締役社長の井上憲司氏は、水晶振動子メーカーを経て吉川教授が立ち上げた企業に転職。その後、新会社へ移った。「大学で生まれた材料から革新的製品を創出する。この事業にやりがいを感じる。東北で生産することで地域の産業発展にも寄与できることも大きな喜び」と語る。

圧電デバイス開発と商品化を経験した井上社長、結晶研究の世界的第一人者である吉川教授がタックを組む企業。これに加えて東北を中心とする企業との協業体制を築き量産体制が確立する。まだ設立5年に満たないベンチャー企業だが、強力な産学連携によるビジネススキームなどピエゾ・スタジオには潜在力の強さがある。

事業化への展望

大学発の強み発揮

社名は圧電の英語名「ピエゾエレクトリック」から採ったという。その圧電材料とは、叩くと電圧を発生させ、電圧を加えると伸縮する物質。高周波の電圧を加えると一定の周波数で共振するのでマイコンの振動子として使われている。

吉川教授が開発した圧電材料は「新規ランガサイト型単結晶」と呼ばれ、現状で使われている水晶などの結晶よりも振動が安定するまでの時間が短い。これにより電力の消費を大幅に削減できるなどの特性を持つ。

また、耐高温性があり、水晶の限界である300℃をはるかに超える。これまでは難しかった高温での圧力センサーなどへの利用が可能になる。高温耐性センサーが実現すれば、高温機器の見える化で故障予想などの効果が期待できるという。

現在は、大半の家電、スマートフォン、自動車などには電子機器が使われており、その中心となるデバイスには振動子が組み込まれている。現在は水晶振動子が大半だが、優れた特性を持つ「新規ランガサイト型単結晶振動子」に置き換わる可能性もあるだろう。

「活用できる分野がまだ他にもあるはず。創造できていないことや、気が付かないことも多いのではないだろうか。そのためにも、多くの研究機関や他大学と連携していきたい。その取り組みが、多くの社会的課題の解決につながるのだと思う。これができるのは大学発ベンチャーの良さ」と強調する。

海外展開も視野に

社会性とともに将来性のある事業は、新価値創造賞だけでなく、東北復興ビジネスコンテストで日本総研未来アワードを、日本結晶学会では第25回技術賞を獲得している。

課題は、今後どのようにして事業を発展させていくかだ。「現在は、デバイスの受託試作が売り上げの大半を占める状況だが、IoT関連機器で採用され量産化への道を切り開いていく。市場規模の大きい海外も視野に入れている。当面は企業としての体力づくりに取り組む」と話す。

東北大とのオープンイノベーションを技術基盤としながら、地元企業との生産体制を整えながら、世界と東北地域をつなぐコネクターハブ企業になることがピエゾ・スタジオのミッション。地域と共栄するビジネスモデルは、全国の手本と言っても過言ではない。

企業データ

企業名
PiezoStudio(ピエゾ・スタジオ)
Webサイト
設立
2014年12月5日
従業員数
3人
代表者
井上憲司氏
所在地
宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-40 T-Biz(東北大学連携ビジネスインキュベータ)
Tel
022-393-8131