SDGs達成に向けて

「TOKYO WOOD(東京の木)」で地産地消の家づくり、循環型林業を復活へ【株式会社小嶋工務店(東京都小金井市)】

2023年 6月 26日

「東京の木を日本一のブランドにしたい」と語る小嶋工務店の小嶋智明社長
「東京の木を日本一のブランドにしたい」と語る小嶋工務店の小嶋智明社長

かつて首都・東京の住宅需要を支えてきた多摩地域の森林。その「東京の木」を「TOKYO WOOD」のブランド名で復活させる取り組みを続けているのが株式会社小嶋工務店だ。「いい家づくり」を目指して始まった同社の活動は、やがて多摩地域の林業者や製材所など関係者とのチームづくりに成功。地域一体となった地産地消の家づくりで循環型林業を取り戻し、東京の森を永続的に維持していこうという取り組みに発展している。

「いい家」の根拠は国などによる第三者の評価

東京都小金井市内に本社を構える
東京都小金井市内に本社を構える

同社は、小嶋智明社長の父で現会長の小嶋算(かずえ)氏が1965年に東京都府中市で創業。木造注文住宅の施工を手掛けてきた。1968年に法人化し、1974年には本社所在地である小金井市内に社屋を建設した。大手住宅メーカー勤務を経て父親の会社に入った小嶋氏は2009年に社長就任。当時の経営状況は、前年のリーマンショックの影響もあり、「いつ倒産してもおかしくない状況になっていた」と振り返る。

どん底の状態で経営を引き継いだ小嶋氏は果敢に改革を断行した。その際に目指したものは「いい家づくり」。と同時に「いい家」の根拠を求めた。「ウチはいい家をつくっている、といっても、たいていの場合、その会社、その経営者の尺度で言っているだけ」(小嶋氏)。そこで着目したのが第三者の評価だった。とくに国や自治体など公的機関による評価を重視した。「国や東京都、それと金融機関から高い評価を得られれば、いい家だという説明がつくし、お客さんも納得する」。こうした考えから住宅関係の補助事業や賞へのエントリーを積極的に行うこととした。

国交省の事業に採択、多摩地域の製材会社と協力

地産地消の「TOKYO WOOD」の家
地産地消の「TOKYO WOOD」の家

第三者の評価を得ようという取り組みの結果は早速あらわれた。2010年に同社のプロジェクト「多摩の木でつくる家~いえともプロジェクト2010~」が住宅の長寿命化に向けた先導的なモデルとして国土交通省の長期優良住宅先導事業に採択された。プロジェクトはその名のとおり、東京・多摩地域の木を使用した家づくりだった。

実は東京都には森林が多い。森林面積は多摩地域を中心に都全体の約4割を占めている。これらの木材は、とくに戦後の復興期に東京の住宅建設に活用されてきた。やがて安価な輸入材に取って代わられたが、多摩の自然環境と気候風土の中で育ったヒノキやスギを地元・東京の住宅に利用することは理にかなっている。また、地産地消を進めることで、伐採、植林という循環型林業を復活させ、東京の森の維持にもつながる。

多摩産材の使用は社員からの提案だった。それまで静岡の天竜材など国内の"ブランド木材"ばかり考えていた小嶋氏にとっては意外なアイデアだったが、その提案を採用した。多摩地域の製材会社である中嶋材木店(東京都あきる野市)に協力を得てプロジェクトを進行。国交省からの"お墨付き"という、このうえない第三者の評価を得たことが大きな転機となり、東京の木を使った地産地消の家づくりに本格的に取り組むこととなった。

日本一のブランド目指し厳しい品質基準

「TOKYO WOOD」の品質基準は厳しい
「TOKYO WOOD」の品質基準は厳しい

小嶋氏がとくに力を入れたのが東京の木のブランド化。それに向け厳しい品質基準を設定した。木材の強度・耐久性を高めるため、人工乾燥ではなく、半年間ほど天日干しを行う天然乾燥にこだわった。ヤング係数(変形しにくさを示す指数)や含水率によるグレーディングを行い、測定した木材の2、3割は弾かれるほどのハードルの高さだった。

高品質を担保するための基準に対し、林業者や製材所など関係者は猛反発。「時間のかかる天然乾燥を行うと在庫が増え経営が厳しくなる」「東京の木はただでさえ価格が高いのに、さらに高くなって買う人がいなくなる」など。とくにグレーディングで不合格となる割合の高さには関係者が強い懸念を示した。そこで小嶋氏は「弾かれた木材は自分が責任もって使い道を見つけ出す」と宣言。「本当は気が短い」と自認する小嶋氏も目的を達するため、何度もぐっとこらえて関係者に粘り強く説得を続けた。こうした覚悟と我慢によって、ようやく関係者の納得を得ることができた。

2012年には一般社団法人「TOKYO WOOD普及協会」を設立。多摩地域の林業家、製材所、プレカット工場、工務店、建築士など家づくりに関わる全ての関係者がワンチームとなった。「TOKYO WOOD」との名称は小嶋氏が打ち出した。「多摩産材」との呼び方が一般的だが、「東京の木を日本一のブランドにしたい。そのためには世界に発信できるネーミングが必要だった」と小嶋氏。当初は異論があったが、今ではブランド名としても定着し、基準に合格した木材には「TOKYO WOOD」と印字されている。

無料のバスツアー開催、普及協会メンバーが魅力をPR

バスツアーでは伐採現場や製材所などを見学
バスツアーでは伐採現場や製材所などを見学

「TOKYO WOOD」を使用した住宅の評判はよかった。小嶋氏の知人の新築住宅を小金井市内に建築した際にはこんなことがあった。建築して間もなく近隣住民から臭いのことで同社に問い合わせがあった。てっきり悪臭に対するクレームかと思ったら、「とてもいい香りがする」という内容だった。天然乾燥を施したヒノキの香りが周囲にも広がっていたのだ。また2017年には東京都の「木の香る多摩産材事業」に採択され、翌年、香り高い「TOKYO WOOD」を使ったモデルハウスが三鷹市内の住宅展示場にお目見えした。

もちろん香りだけではない。厳しい品質基準に合格した木材を使用し、耐久性や断熱性、気密性にもすぐれている。そうした「TOKYO WOOD」の良さをよりいっそう理解してもらおうとバスツアー(参加無料)を年3回の頻度で実施。マイホーム建築を検討している人たちに多摩地域の伐採現場や原木(げんぼく)市場、貯木場、製材所を日帰りで見学してもらうもので、小嶋氏をはじめ普及協会のメンバーが「TOKYO WOOD」の魅力をアピールしている。「参加者のほとんどはその後『TOKYO WOOD』の家を建てている」(小嶋氏)という。

2015年にSDGsが国連総会で採択されると、同社の地産地消の家づくりへの注目度がさらに高まった。「TOKYO WOOD」の家は多摩地域を中心に建築されており、累計で800棟近くに達している。

小嶋氏の今後の希望は「社名も『TOKYO WOOD』に変えること」だという。「東京の木を使った家づくりを進めることで東京の森を守り続けることは私一代のことではなく、このさき永続的に行われていく必要がある。そのためには個人の名前を冠した社名より『TOKYO WOOD』の方がふさわしい」と言い切る。

グッドデザイン&ウッドデザインに続きグッドライフアワード受賞

第9回グッドライフアワードで環境大臣賞優秀賞を受賞
第9回グッドライフアワードで環境大臣賞優秀賞を受賞

一方、第三者の評価も相次いでいる。「年に2、3件の受賞・採択を目指している」(小嶋氏)との目標どおり、2020年にはグッドデザイン賞とウッドデザイン賞をダブル受賞。そして2021年11月、「TOKYO WOOD」が地域の循環型社会を形成し、環境に配慮した地産地消の家づくりを展開しているとして環境省主催の第9回グッドライフアワードで環境大臣賞優秀賞に輝いた。

賞や官公庁の事業への応募は、「いい家」の根拠を得るためであり、SDGsを意識していたわけではない。とはいえSDGsに関連したグッドライフアワードの受賞は、東京の森の持続可能性に資する取り組みを10年余り続けてきた同社にとって節目となる出来事だった。「自分たちにできることを真摯に続けていくこと」。小嶋氏は、社員や普及協会のメンバーら関係者とともに、循環型林業を復活させようという「TOKYO WOOD」の取り組みを今後も着実に続けていく考えだ。

企業データ

企業名
株式会社小嶋工務店
Webサイト
設立
1965年7月
資本金
9900万円
従業員数
54人
代表者
小嶋智明 氏
所在地
東京都小金井市前原町5-8-15
事業内容
戸建て住宅の建設