備えあれば憂いなし、BCPのススメ
会社の永続を第一義に「沢根スプリング株式会社」
2020年 1月29日
浜松市で、ばねやワイヤー加工品を設計・製造・販売している沢根スプリング株式会社は、東日本大震災を機に事業継続に向けた対策を大きく見直した。防災マニュアルを作成し、防災訓練を定期化するなど災害への備えには高い意識で臨んでいたが、顧客の利益を守る視点が必ずしも十分ではなかった。
同社の小口・スポット品を扱うカタログ通販事業には、国内に3万社を超える顧客が散在している。沢根社長は「当社の被災時でも、普段どおり営業している顧客のオーダーに対応するには、日頃から最悪を想定した準備が必要」と考えている。
「会社の永続」を第一義とする経営理念は1980年に先代社長が定め、現社長が引き継いでいる。同社にとってBCP(事業継続計画)策定は自然の成り行きだった。毎年必ず1回見直しを行っており、現行計画は第7版。全従業員が共有する経営計画書にも必ず組み込まれている。
従業員と地域住民の安全に配慮
遠州灘から約2kmの距離、海抜3mの高さに位置している同社の対象脅威は地震と津波だ。BCPは「従業員や地域住民の安全安心に向けた対策」を最重要事項に位置付け、災害時に従業員の安否を確認するシステムを導入し、従業員の家族も確認対象にしている。
災害時の安全性を高めるため、設備や機材を工場建物に固定する工事を完了。事務所の書棚類も16年の本社屋建替え時に壁への埋込式にした。さらに津波を想定し、工場の屋上スペースに外階段を設置し、地域住民の避難場所として常時開放している。
太陽光発電システムも導入し、通常は会社で使う電力の一部を供給している。停電対策では、事務所レベルの一時的な使用を目的に小型自家発電機も備えている。
早期復旧を期して、静岡県信用保証協会のBCP特別保証(激甚災害時に再建資金を迅速に確保できる制度)も予約している。業務で使用する情報はすべてクラウドで管理。3万社超の顧客データや受発注記録などのデータが災害で喪失するリスクを軽減している。
併せて、県外(兵庫県豊岡市、大阪市、滋賀県草津市、長野県松本市、中華人民共和国)の同業5社と災害時相互応援協定を締結。メンバーの被災時に、他のメンバーが代替生産することなどを取り決めている。震度6以上の地震では、要員や物資を無条件で派遣・供給することも申し合わせている。
日頃の訓練や習慣化が大事
18年9月には台風24号の影響で、同社のある地域一帯も3日間の停電を強いられた。中部電力管内では119万戸が停電し過去最大の被災規模となったが、日頃の訓練の成果で自家発電機から配線を繋いでパソコン機器を動かすことに成功。ホームページで工場の操業停止から復旧までの情報を顧客に向けて更新し続けた。
台風24号では新たな課題も見つかった。1つ目は非常用発電機増設の必要性である。通常生産の持続には、1カ月程度の停電に耐えうる発電能力の確保が理想だが、大規模投資が必要となることが判明した。2つ目は仕入先に対するBCP対策の啓発。自社が稼働できる状態でも材料を調達できなければ生産できない。
3つ目は従業員の多能工化。災害時に限られた人員で作業する際、1人で何でもできる従業員が多ければ心強い。4つ目は余裕資金の確保。沢根社長は、「被災しても揺るがない基盤を築くには現金の貯えが重要」という。
同社は、「整理・整頓・清掃・清潔・躾」の5S活動に「習慣」を加えて6S活動とし、何事も継続しなければ効果は出ないという考えを体現している。BCPも委員会で定期的な見直しを習慣化している。
企業データ
- 企業名
- 沢根スプリング株式会社
- Webサイト
- 資本金
- 3000万円
- 従業員数
- 52人(2019/8/31現在)
- 代表者
- 沢根 孝佳 氏
- 所在地
- 浜松市南区小沢渡町1356
- 創業
- 1966年
- 業種
- ばね類製造販売業