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「人機一体(草津市)」人型重機の社会実装目指す

この記事の内容

  • 人間が自在に操るロボットを開発中
  • 生身の人間にはできない緻密な重作業が可能に
  • 人命に危険のない災害復旧や建設工事などで社会貢献
「マスタスレーブシステム」を操縦する金岡博士

ロボットベンチャーの人機一体を率いる金岡克弥代表取締役(以下、金岡博士)は、マンマシンシナジーエフェクタ(人間機械相乗効果器)の社会実装による、人が力学を自在に操るプラットフォームの確立を目指している。

マンマシンシナジーエフェクタとは「人間あるいは機械だけでは実現できない機能を、人と機械の相乗効果で実現する効果器」という、金岡博士が提唱するデバイスの概念とカテゴリーの総称だ。

現在、人の操作をロボットに、ロボットの動作を人に伝える独自技術「力順送型バイラテラル制御」を搭載した体高4メートルの人型重機を開発している。複数の機器の協調動作を人が操作する「操作機」(マスタ)と、操作機の指令で動く「作業機」(スレーブ)から成る「マスタスレーブシステム」だ。制御性能は高く、アームやハンドは人間同様デリケートに動かせるし、人間の数万倍という巨大な力も発揮する。

金岡博士は人型重機を「人が生身では行えない巧緻な重作業をこなす大型デバイス」と説明する。災害復旧では、パワーショベルで瓦礫を撤去する際、生き埋めになっている被災者を傷つけないとも限らない。建設工事で大型クレーンが吊り上げた部材の安定化は難しく、作業に時間がかかる。

マスタスレーブシステムとしての人型重機なら人命に危険を及ぼさずに巧緻な重作業を短時間で遂行できる。往年のロボット作品で例示するなら、円谷プロダクションの「ジャンボーグエース」が近い。

他方、「人型重機を社会に送り出すには、法制度整備など技術以外に越えなければならない障壁が多数ある」と課題も認識しており、壁を取り除く一助としてテーマパークのアトラクションなどエンターテインメント業界との連携も検討している。より多くの人にマスタスレーブシステムの可能性、社会貢献性を理解してほしいと願う。

金岡博士は、2007年に同社の前身であるマンマシンシナジーエフェクタズを立ち上げた。社名には、人や機械だけでは発揮できない機能を、人と機械の相乗効果で実現するとの思いを込めた。

02年から立命館大学理工学部ロボティクス学科で教鞭を執りながら技術開発を進める過程でリーマンショックや東日本大震災を経験し、成果を社会実装しようと思い立った。

投資ファンドや金融機関の支援を受けて会社の基盤を強固にし、15年に社名を人機一体に改め再スタート。現状を「リソースを集めながら、実験室レベルで進めた研究開発を社会実装レベルに高めてゆく段階」と説明する。

再スタート時、「もう大学教員ではなく経営者が本業。後戻りはできない。大学発ベンチャー企業として本気で社会実装する」ために、立命館大学BKCインキュベータへ入居した。「インキュベーションマネジャーの助言や関連企業の支援を得られるだけでなく、大学が支援するベンチャー企業として社会に認知してもらえる環境は好ましい」と入居のメリットを語る。

金岡博士は、自身を突き動かす心情も語った。

子供は、自分と同じ弱い存在が大きな力を手に入れて悪とたたかう姿に共感と憧れを覚える。成長して社会的な力を身につけると幼少時の想いは薄らぐが、東日本大震災のような圧倒的な力に翻弄されると自らの非力を再認識する。大惨事を前に、大きな力を手に入れて社会に貢献したいという心が蘇る。

心のさざめきを少年時代の儚い夢として置き去りにするのか、解決すべき社会問題と受け止め、大人として求められる技術を開発するのか。

「夢に走ってはいけないが夢を忘れてはいけない。本質的な課題を現実の技術の力で、ビジネスとして成り立つ形で解決する、技術者と経営者を兼ね備えた思考が求められる」と毅然と言った。

企業データ

企業名
人機一体
Webサイト
設立
2007年10月
資本金
5680万円(2017年4月1日現在)
従業員数
5人
代表者
金岡克弥氏
所在地
滋賀県草津市野路東1-1-1 立命館大学BKCインキュベータ105号室
事業内容
人間の身体能力拡張マシンの開発・販売