あの人気商品はこうして開発された「飲料編」

「ウィルキンソンジンジャエール辛口」100年ブランドの再認知

「ウィルキンソンジンジャエール辛口」-100年ブランドの認知をさらに拡大する いまから108年前に日本で生まれた清涼飲料ブランドの「ウィルキンソン」。そのシリーズとして今夏、ジンジャーの辛みが効いた「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」が発売された。玄人好みのブランドの認知度を拡張させる。それを目的に開発された辛口のジンジャエールだった。

アサヒ飲料の新商品「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」(500ml PETボトル入り)が、首都圏のコンビニを中心として好調に売上げを伸ばしている。ジンジャエールが好評なのはなぜか。社会に対する先行きの不透明感が広がる中、そのモヤモヤを吹き飛ばすような爽快感とジンジャ独特の辛味が消費者の嗜好をとらえたようだ。

ウィルキンソン ジンジャエール 辛口の発売は2011年6月。発売時はメインターゲットとして20代後半~40代の男性に照準を合わせていたが、フタを開けてみるとその年齢層ばかりでなく、少し年下の20代前半もとらえていた。その顕著な表れとして、大学生協の売店ではしばしば品切れを起こしている。開発元のアサヒ飲料としては予想外の展開だった。

108年の歴史を刻む「ウィルキンソン」ブランド

今夏に発売したウィルキンソン ジンジャエール 辛口は、アサヒ飲料のロングセラー商品「ウィルキンソン ジンジャエール」シリーズの最新商品だ。知る人ぞ知る「ウィルキンソン」ブランドには長い伝統と歴史が刻み込まれている。今年でなんと108年の甲羅を経ており、初めてウィルキンソンの飲料を手にした大学生にそれを告げると一様に目を丸くする。

ウィルキンソンブランドの歴史、それは——。

1889(明治22)年ごろ、神戸に駐在していた英国人のクリフォード・ウィルキンソン氏が兵庫県有馬郡塩村生瀬(現、西宮市)に狩りに出かけ、偶然に炭酸鉱泉を発見する。そしてこの鉱泉水をロンドンに送って分析させたところ、上質な鉱泉であることがわかった。

さっそくウィルキンソン氏は、飲料として商品化するための諸設備を英国から取り寄せ、翌1890年にこの鉱泉水(炭酸水)を瓶詰めして「仁王印ウォーター」として売り出した。ここからウィルキンソンブランドが始まった。

「ウィルキンソン」ブランドの生みの親であるクリフォード・ウィルキンソン氏

当時から炭酸水には胃腸を強くする作用があるといわれ、仁王のごとく胃腸を丈夫にする健康水という意味から「仁王印… 」のネーミングで市場に出したところ、最初は苦労したものの1902年頃からは軌道に乗って販売を伸ばしていった。

すっかり気をよくしたウィルキンソン氏は1904年に西宮に新工場を新設し、仁王印ウォーターを「ウヰルキンソンタンサン」に改称してリニューアル発売した。いまでもボトルに明示される「since 1904」はこの年に由来する。

仁王印ウォーターは爆発的ヒット商品となり、その販路は国内のみならず欧米、中国、東南アジア諸国など27カ国に及んだとされる。

また、炭酸水ばかりでなくジンジャエール、レモネードなど商品アイテムも拡張した。が、それがいつのことだったのかについては記録が現存しないため、正確な時期は詳らかにされていない。

ラベルなど周辺の資料から推し量り、おそらく大正期のことと思われるが、仮に大正半ばとすれば「ウィルキンソン ジンジャエール」は90余年の歳月を重ねてきたことになる。

第2次大戦中にはいったん生産中断を余儀なくされたが、終戦とともに販売は再開し、戦後の経済復興が軌道に乗り始める頃には本格的にウィルキンソンブランドが復活、現在に至っている。

1914年ころの工場
大正4年から昭和初期にかけて販売されたウィルキンソンタンサン

ロングセラーブランドの拡張を図る

スタイリッシュでスリムな瓶が特徴のウィルキンソン ジンジャエール

ウィルキンソン ジンジャエールといえば、スタイリッシュでスリムな瓶(容量190ml)が1つの特徴だ。この小粋な瓶は、コンコルド機やタバコの「ピース」などのデザインで世界的に著名なインダストリアルデザイナー、レイモンド・ローウィ氏の作品。

しかし、これら長年にわたる華やかな歴史に彩られながらも、ウィルキンソン ブランドはいまではそう多くの人に知られた存在ではない。その人気は、酒場のバーテンダーや一部の愛好家にとどまっていた。アサヒ飲料が一般消費者を対象に調査したブランド認知度でもウィルキンソンは20%であり、「三ツ矢サイダー」の9割超とは比べるべくもなかった。

とはいえウィルキンソンは確たるロングセラーブランド。100年を超えて愛され続けてきた。なにゆえに長い期間、市場で認められてきたのか——アサヒ飲料では2011年に入り、改めてブランドの見直しを始めた。その意図についてマーケティング本部商品戦略部副課長の小林芳之さんは説明する。

「数多くの商品が世に出ては消えていく消費社会にあって、清涼飲料はその最たるもので、ほとんどの新商品が市場に残らず入れ替わり立ち替わり消えていきます。そうした中でロングセラー商品とはいったい何なのか。ウィルキンソンブランドは一般消費者の認知度は低くても、業務用分野ならほとんどのバーテンダーさんが知っています。それはなぜなのか。やはりウィルキンソン商品の品質の良さがあるからではないのか。それなら業務用だけでなく一般消費者にも幅広く品質の良さを提示できないか。そう考えた結果、炭酸とジンジャエール 辛口を開発、発売したわけです」

酒場のバーテンダーや一部の愛好家から絶大な支持を得るウィルキンソンブランド。バーのハイボールでは“ ウィルキンソン” が定番だ
「一般の消費者にも幅広くウィルキンソンブランドの品質の良さを知ってほしいと思い、ジンジャエール 辛口を発売しました」とマーケティング本部商品戦略部副課長の小林芳之さん

試作開発ではしょうがの辛さで舌が麻痺

いままでは主に業務用のユーザーに支持されてきたウィルキンソンブランド。一般の消費市場では一部の愛好家だけに認知されていたブランドをもっと多くの消費者にも知ってもらいたい。ウィルキンソンの品質を広く訴求したい。ブランド拡張のポイントはそこにある。そう結論づけた同社は、ウィルキンソン ジンジャエールの最新シリーズとして500ml PETボトル入りの「辛口」を開発した。その特徴は「辛味の効いた力強い味わい」にあるが、もともとウィルキンソン ジンジャエールはジンジャ(しょうが)の辛味が強く、他社のジンジャエールと飲み比べるとその辛さがひと際引き立つ。そのさらに上をいくかのよう、「辛口」を謳うほどにしょうがの風味を濃厚に表現してある。一般市場に打って出るうえで欠かせない他商品とのはっきりした差別化だ。

ただ、この辛さを清涼飲料商品として落とし込むには苦労があった。単にしょうがの辛みだけでは当然商品にはできない。甘みを加えることでしょうがの辛みをうまくマスキングし、清涼飲料としての口あたりの良さや飲みやすさ、後味の良さをつくれるわけだ。

人工甘味料によるマスキングには苦労した。小林さんはいう。

 「酸味とジンジャの辛さだけでは当然おいしくありません。清涼飲料とするためには最小限の甘さが必要で、甘さがないと辛さがうまく伝わらないのです。そこで人工甘味料を用いるわけですが、消費者の中には口中で感じる人工甘味料の味を嫌う人もいます。そのため甘さと辛さ、そして酸味をどううまく調整するか。人工甘味料のマスキングにはいささか苦労しました」

開発では30種を超える試作品をつくった。それらをつぎつぎと口に入れて味をチェックするのだが、しょうがのあまりの辛さに舌がたちまち麻痺してしまう。

「試作品をチェックするにも、しょうがの辛さが治まるよう一定の時間をおかないとつぎの試作品を口に含めませんでした」

しょうがの辛味と悪戦苦闘しながら、ウィルキンソン ジンジャエール 辛口を完成させた。

しょうがの辛味を力強く効かせ、強めの炭酸でキレを演出したウィルキンソン ジンジャエール 辛口

ウィルキンソン ジンジャエール 辛口の原材料は、食物繊維(難消化性デキストリン)、酸味料、香料、カラメル色素、甘味料(アセスルファルムK、スクラロース、ステビア)。強めの炭酸でキレのよいすっきりとした爽快感を表現している。そして当然、カロリーはゼロだ。

同社の直近の調査によれば、消費者のほとんどはウィルキンソン ジンジャエール 辛口をそのままストレートに飲んでいるが、15~20%の人は割り材としても利用している。ビールとジンジャエールをほぼ半々で割るシャンディーガフのほか、モスコミュール、ワインクーラー、ジンバックなどのカクテルとして楽しむ人も増えつつあるという。

ジンジャエールと炭酸水を合わせたウィルキンソン ブランドの2011年1~6月期の売上げは、金額ベースで前年同期比42%の伸長をみせている。その売上の半分を首都圏が占めるという典型的な都市型商品であり、売上の70%が東京、大阪、名古屋で占められる。

また、販売チャネルの主体はコンビニだが、今後は食品スーパーなどへ販路を拡大していく。

さらに、ジンジャの辛さを効かせた「ウィルキンソンドライコーラ」も今夏に発売される。ウィルキンソンブランドの動きに注目だ。

企業データ

企業名
アサヒ飲料株式会社
Webサイト
代表者
代表取締役社長 菊地 史朗
所在地
東京都墨田区吾妻橋1-23-1
Tel
03-5608-5331

掲載日:2011年8月17日