中小企業応援士に聞く
社員を大切にする経営で実質離職率0%【株式会社ブンシジャパン(山口県周南市)代表取締役・藤村周介氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2023年 12月 4日
1.事業内容をおしえてください
昭和32年に創業した。当時の社名は山口文紙。文具の卸売業から始まった。昭和45年ごろから食品包材を手掛ける会社へと変わっていった。自社に4人のデザイナーがおり、お客様の商品のパッケージデザインを作成している。平成7年にブンシジャパンに社名変更した。現在は、食品メーカーからの困りごとの相談を受けるなかで、害虫駆除やHACCP(食の安全性を確保する衛生管理手法)、食品関係の国際標準規格に対応するコンサルタント業も手掛けている。
食品加工工場で働く方々の何気ない会話から着想のきっかけを得て生まれた自動洗浄除菌システム「anbell(アンベル)」は、食品成分の汚れを素早く取り除き、高いレベルの食品衛生を維持し、生産性向上や環境改善にも貢献できるものとして、食品業界から高い評価を受けている。ものづくり日本大賞中国経済産業局長賞もいただいた。
また、グループ会社としてマニュアル作成・閲覧システムの株式会社マイスタイローハ、ステンレスの精密加工のパーツ工業株式会社、パッケージ企画の有限会社スエカネ紙工を擁している。他にも、カフェ&雑貨店の円座も運営している。
卸売業からスタートした当社だが、お客様の要望を聞くなかでメーカーやコンサルタントと事業領域を広げてきた結果が当社の今日の姿をつくりあげた。
2.強みは何でしょう
お客様に「困ったときのブンシジャパン」と言っていただける存在になろうと考え、常に顧客を訪問した時に「お困りごとはございませんか」と聞くようにしている。アンベルもそうした活動の中からから生まれたものだ。生産性を高められたとお客様からも高い評価をいただいている。卸売りの企業だった当社がなぜ開発までできるのかと聞かれるが、これまで事業を行うなかで、企業や経営者との関係性を大事にしてきた。だから、何か必要なことが起これば「あの会社ならこれができるのではないか」とそれぞれの得意分野を持ち寄った取り組みができる。そこに、新連携やものづくり補助金などをうまく活用してかたちにしていった。私は多いときには800枚の年賀状を送っていた。その中身も近況報告をびっしりと書き込んだものにしている。プライベートで会った方でも、この人とは関係をつくっておきたいと思ったら年賀状を送らせていただくなど、人のつながりを大切にしている。
3.課題はありますか。それをどのようにして乗り越えましたか。
一番はデフレだ。私たちの会社だけではなく、日本企業全体に共通する課題だと思う。デフレの原因は、商品の本質的な価値を認めず、価格競争を行っている現状にあると考えている。デフレを脱却するためには、人の優れた努力や優れた技術に対して価値を認める環境を作る必要がある。
当社もかつては価格競争に巻き込まれていた。そのために社員に賞与も払えない時代もあった。そこで、会社として、価格競争から脱却するために従業員の教育制度を充実させ、知識技術を成長させ、付加価値を提供できるような人材を増やすような仕組づくりを考えた。まずは、人事制度の見直しを行った。評価制度をしっかりとつくり、従業員それぞれが自分のペースで成長できるようにした。昇給の項目は30の審査項目を設けている。会社の経営計画と個人の評価がリンクしており、何をすればステップアップするのかを分かるようにしている。例えば、会社の説明能力という項目があるが、単に会社案内を取引先に持っていくというレベルから、当社の仕組みや人事制度など顧客が興味をひくようなことまで説明できるレベルまでに分かれている。従業員の説明能力が向上すると、顧客が抱えている課題が明確になり、それに対する細かな提案もできる。そうなれば、ブンシジャパンはお客様の困りごとを解決することができ、単に価格の安さだけではない付加価値を感じて当社と取引を続けていただけることになる。
そういった数字至上主義の価格競争から、付加価値を重視した方針へ転換し従業員の教育に力を注いだことで、次第に業績も回復していった。
4.将来をどう展望しますか
当社は卸売りから始まった会社だが、メーカーになっていくことで生きのこりをはかっていく。卸売業はどうしても価格競争と市場の縮小が避けられない。まずは、開発した食品衛生に関する機械装置製品を全国でスタンダードな商品にしていきたい。「ブンシジャパンのこれだね」と言われるような商品にしたい。また同時に海外展開を考えている。英語版のウェブサイトも作成した。後継者として勉強中の息子、6年間の海外留学経験を活かし、海外事業を担当させている。狙っているのは、先進国など付加価値を認めてくれる市場。外国の代表的な展示会に出展することから始める。食品衛生に関する規制は国ごとに異なるので、現地の販売代理店と組むかたちになるだろう。パートナー探しが重要で、契約もしっかりと結ばなければならない。ジェトロや中小機構にも支援を求めていきたい。
5.経営者として大切にしていることは何ですか
「近き者説(よろこ)び遠き者来(きた)る」。『論語』の中の孔子の言葉だ。もともとは孔子が「政りごとの要諦は?」と問われたことに対して答えた言葉だが、経営にもあてはまる。従業員が喜べば、お客様を大切にし、頑張ってくれる。するとお客様も喜ぶ。それを聞いて、どうせならブンシジャパンと取引したいよね、と言ってさらにお客様が集まってくる。何よりも従業員を大切にすることだ。
当社も7、8年前までは数字が大事な会社だった。そこから従業員を一番に考え、人事制度を磨いていった。今では離職率は実質0%になった。方針を変えてから業績もV字回復した。会社としてノルマの計画数字は作成しない。計画は従業員自身が考え、実行している。私から従業員に伝えるのは、働くことの意味だ。何のために働くのか。お金がほしい、家族を食べさせないと、趣味を楽しむためとさまざまな理由があるが、それを一言でいえば「幸せ」ということだと思う。疲れたり、苦しいことがあったりしても、ある瞬間に「ああ幸せだ」と思える時がすべての従業員にあるようにしていかないと続かない。経営者仲間からは「理想論だ、甘い」などと言われるが、時間がかかっても、従業員の環境づくりや未来への投資を続ける。きちんとひたすら仕組みづくりをやり、だれにでも分かる透明性の高いものとしていく。これをやり続けたい。
6.応援士としての抱負は
中小機構のやっている支援策を積極的に宣伝している。事業再構築補助金やものづくり補助金など、いい補助金がたくさんあるのに使われていない。どうやればいいのか分からないという経営者が多い。当社はコロナ禍でも売上高は微増だったが、グループ会社が売り上げ減少に見舞われたので事業再構築補助金をもらって次のステップへの投資をした。当社は事業計画を半年ごとに作成し、社員に説明している。現状分析からSWOT分析(自社の外部環境と内部環境を強みや弱み、機会、脅威などの要因ごとに分析する手法)をやることで、未来に対してどうするのかを示すことができる。こうした計画書作成を日頃からやっておけば、補助金申請で求められる事業計画づくりにも応用できる。こうした当社がやっていることをお伝えしている。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ブンシジャパン
- Webサイト
- 設立
- 1957年2月1日 創立 1982年2月4日 法人化
- 代表者
- 藤村周介 氏
- 所在地
- 山口県周南市清水2丁目3-7
- Tel
- 0834-62-2575
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