売れない時代に売れる理由。販売低迷期の成功事例
「相模屋食料」大量生産と衛生管理の徹底で豆腐業界を革新
全国展開とスタンダード化
次々と流れてくる豆腐を多関節のアーム型ロボットがパック、テキパキと豆腐が製品化されていく—。豆腐メーカーの相模屋食料(本社・前橋市)の群馬県前橋市の第3工場だ。いったん工場内に足を踏み入れると、そこは産業用製品の工場と見間違うばかりの製造ラインが広がっている。大豆浸責から包装まで、一貫した製造ラインには11台のロボットが導入され、1日120万丁もの豆腐を製造する同社の生産体制をけん引している。
相模屋食料は近年、アニメ、ガンダムの「ズゴックとうふ」「ザクとうふ」で一躍有名になったが、実は年間120億円を売り上げる豆腐メーカー最大手だ。豆腐製造のオートメーション化と衛生環境の整備で、冷蔵温度帯で配送する豆腐という日配食品でありながら平均15日以上の賞味期限を実現した。現在、「豆腐の“全国展開”」(鳥越淳司社長)と、同社の豆腐が「小売店頭で価格や品質の基準とされる“スタンダード商品化”」(同)を目指している。
豆腐や油揚げといった日持ちのしない冷蔵温度帯配送の日配食品は消費地に近い場所で作られ、配送されるのが一般的だ。大手メーカーの多くは配送時間を短縮するために埼玉や千葉、神奈川などに工場を持っている。豆腐の消費期限は5日間程度が当たり前だからだ。
消費期限を3倍伸ばす取り組み
配送に1日かかると、販売期間は4日しかない。生活者は購入しても、ちょっと冷蔵庫に寝かせておいただけで、食べる機会を逸する可能性がある。
しかし、同社は2005年、その心配を払拭した。本社が前橋市で、大消費地の東京から少し離れた場所にあったこともあり、消費期限を伸ばす取り組みを重ねた。そして、一般的な豆腐の消費期限だった5日間を、段階的に15日程度に引き延ばすことに成功した。現在の工場では15日以上の賞味期限の製品の製造もできるという。5日以内だと、生活者にとって使い勝手がよくないが、逆に長すぎても日配食品としてのイメージが良くない。総合的に判断し頃合いがいいのが15日だったという。
賞味期限長期間化の仕組みはこうだ。主力の第3工場は本社近くにある。大豆の搬入、浸責からパッキングまで一貫した製造ラインを設置、さらに工場内にゴミが入ったり、菌が増えたりしないように複合的な衛生管理の仕組みを導入した。雑菌の繁殖を限りなく抑えたことで、賞味期限の長期化に成功した。この賞味期限の長期化こそが同社成長の原動力となっている。
同社の製造方法には多くの逆転の発想が織り込まれている。例えば「ホットパック」と呼ぶ方法だ。通常、豆腐は成形した後、水の中に浸して温度を下げる。手ですくい上げ、その後に加熱殺菌を施す。そのため温度が上がったり下がったりして、品質に影響が出るという。しかし、同社は大豆の搬入や浸責段階から、殺菌の必要がないほど衛生管理しているため、形成された豆腐を水の中に浸さずに済み、温度の変化がない。結果として「おいしさを閉じこめることができる」(鳥越社長)という。
しかも通常は豆腐を手ですくいパックに詰めるが、同社はライン上に流れている形成された温かい豆腐に、ロボットが上からかぶせるように容器をパックする。ライン上でほとんど人の手に触れることはないのだ。
配送工程にも工夫がある。通常、豆腐は通い箱に入れて配送する。その通い箱の維持回収にそれなりのコストがかかっている。だが、同社の製品は賞味期限を長期化したため、ダンボールでの配送が可能となり、コストダウンを実現した。また販売期間が長くなったことで販売数量の先読みができ、廃棄ロスも減らせる。取引先のスーパーなどは、例えば4トン車でまるごと仕入れるなど、大ロットを購入してくれるようになった。
取引先はその日に仕入れた商品をその日に売り切らなくてもよく、値引き販売しなくてもさばけるからだ。両者でウィンウィンの関係が成立、受注が増えてそれがまた同社の大量生産に結びついている。ちなみに賞味期限の長期化を実現した第3工場を増築し本格稼働した07年の売上高は41億円だったが、昨年は120億円超。わずか4年で3倍の売上高に成長した。
売上10倍をめざしM&Aも
鳥越社長は豆腐市場6000億円市場のうち、今後15—20年内に1000億円の売上高、シェアにして16—17%を獲得したいという。そのためのステップとして目指すのが「全国展開」と「豆腐のスタンダード化」だ。おいしくて、かつ日持ちがして使い勝手の良い豆腐が全国どこでも買えること。メーカー、小売り、生活者の“三方よし”という製品だ。
まず、全国展開にむけて今年、布石を打った。かつてダイエーの子会社で豆腐などを製造していたデイリートップ東日本を買収、商圏拡大に足場を築いたのだ。
同社の製品の賞味期限が15日以上と長くても、鳥越社長は「前橋から仙台へ配送するのと比べて、(距離的には大差ないが)静岡以西の中部地区に配送するのはわけが違う。東京や神奈川を通過せざるを得ない配送には、やきもきする」という。
現在の東北、中部地区までの配送範囲を西日本へと拡大し全国区になるためには、どうしても東京近郊に足場が必要だった。デイリートップ東日本は神奈川県川崎市のダイエーの流通センター内に工場がある。2012年10月には約5億円かけて全ラインを入れ替えし、前橋の工場で蓄積したホットパック製法など生産ノウハウを全面的に導入した。生産能力は、従来に比べ商品によるが2.5倍から5倍にまで高まった。
今後は同工場を足がかりに、商圏を拡大していく。鳥越社長はさらに新規の工場増設や、合併・買収(M&A)、提携などを選択肢に西日本攻略を進めていく考えだ。一方、商品開発にも磨きをかける。同社の知名度を飛躍的に高めたのがガンダムのキャラクター「ズゴック」と「ザク」の形状をした豆腐。ズゴックは品切れする店が続出、鳥越社長の趣味から出来たこの商品は、まさに大ヒット商品となったが、「ザク」は豆腐でありながら甘くデザートとして食べられる豆腐だ。
鳥越社長は「デザートとして販売激戦区のデザート売り場に並べられると、埋没してしまう。だが、豆腐売り場なら、豆腐の延長線上で買ってもらえる」と話す。ただ、今後はキャラクター豆腐路線を拡大する考えは強くない。奇抜な販売戦略を中心に据えることでなく主力商品の絹豆腐、木綿豆腐に磨きをかける正攻法で勝負する。すでに大手加工食品メーカーと組み鍋物用や、麻婆豆腐用として訴求するなど、戦略的なコラボーレーションも活発化させている。この快進撃を続け、豆腐のスタンダードになれるか。相模屋食料の挑戦は続く。
企業データ
- 企業名
- 相模屋食料株式会社
- Webサイト
- 代表者
- 鳥越淳司社長
- 所在地
- 群馬県前橋市鳥取町123
- Tel
- 027-269-2345
- 事業内容
- 大豆加工食品の製造・販売
掲載日:2013年2月12日