女性起業家応援ページ
「経産省の女性起業家支援」ゼロ・イチと広域にこだわる理由(後編)
女性に特有の起業課題は、起業を決意する前にある——。従来の起業支援は起業準備中の人向けのものが多い一方、女性のニーズが多い超初期段階での支援を広域で展開する例は見られませんでした。
こうした現状を踏まえ、経済産業省・経済社会政策室では、起業の「フェーズ0・1」の女性に向けた地域横断的な連携支援体制を作っています。今年1月、女性起業家支援コンテスト(ジョキコン)を初めて開催しました。
経済産業省 経済社会政策室
(写真左より)
係長 笹谷朋子さん
室長補佐 八木春香さん
係長 浅野優子さん
女性起業家コンテスト
—— 女性起業家支援コンテストでは、北海道と東北の取り組みが総合部門・最優秀賞として表彰されました。どういった点が評価されたのでしょうか?
笹谷 北海道では、「公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会、ワタシプラス」が、東北では「特定非営利活動法人福島県ベンチャー・SOHO・テレワーカー共働機構」が共に最優秀賞を受賞しました。
北海道の取り組みは、道内全体で女性起業家支援を手掛ける「ほくじょき.net」を構築すると共に、キーパーソンとなる先輩女性起業家を中心とした各地域の支援ネットワーク「じもじょき.net」を北海道東部のオホーツク地域や、釧路等にも構築しています。広域と地域の両輪で女性起業家支援を進めているのが特徴です。
支援を受けた女性たちは、自身のスキルや資格のPRに苦労していたのですが、広域のネットワークを生かして新たな人脈を作ることができました。支援により、販路拡大や知名度向上につながっています。
東北の取り組みは、アウトリーチ(出張サービス)に力を入れていることです。地域ネットワークの中心は福島県の機関ですが、東北の他の地域に「キャラバン隊」として赴いています。地域の支援者を巻き込み、新しい女性起業支援ネットワークを、福島県の会津地域や山形県の庄内地域に作りました。いずれも、これまで複数の支援機関の連携が薄かったところのネットワークを、新たに構築した形です。
支援体制を手厚くした結果、技術を持っていながら、家業以外のビジネス経験がなく悩んでいた女性で、事業の具体化に至った例が出てきました。丁寧にキャリア相談を行ったことが奏功した、と聞いています。
女性特有の起業課題への支援策
—— 単純に起業セミナーを開催して情報提供することに留まらない、きめ細かない支援をしています。
浅野 女性起業家の置かれた状況も、地域の支援体制も多様です。 例えば、結婚・出産を機に退職したものの、今後のキャリアを模索していた女性は、自身の妊娠糖尿病経験を活かした低糖質の料理レシピを開発しました。同じように悩んでいる人にご自身のレシピを伝えたい、という想いから、起業に関心を持つようになります。近畿の女性起業家等支援ネットワークへの相談により、事業計画書を作り、ビジネスプラン発表会を経て起業しました。
また、子どもが成人し、第二のキャリアを検討中だった女性が、生まれ育った福島県に戻り、喫茶店を開業した事例もあります。この方は飲食業の経験・知識はゼロでしたが、伴走支援型の起業塾に参加したことをきっかけに、地元の商工会議所や日本政策金融公庫等に人脈が広がり、起業に至りました。
—— ひとことで専業主婦とくくれない、多様な経験や知識、起業動機がありますね。
浅野 はい。ビジネスの経験をあまり持っていない女性に特有の起業課題として、4つほどの支援策があると思います。
まず、自分の得意分野・関心分野の活用方法が分からない方には、起業ニーズの引き出しが必要です。また、自分の得意・関心分野を活かした起業への関心はあるものの、事業化の手法が分からない方は、起業ニーズに応じた支援策の紹介が考えられます。
そして、仕事と家庭の両立をするため「起業」という選択肢があることをご存知ない方には、ロールモデルの提示を通じた起業の普及啓発が効いてきます。最後に、起業に関する相談相手や人脈、情報が足りない方には、女性起業家間のネットワーク構築が有効です。
—— ところで、皆さんは、霞が関という東京の真ん中「活躍する女性」です。お話を伺い、東京から遠い地方の女性が抱える課題に敏感であるように思いました。
八木・浅野・笹谷 私も、地方出身なので…。
笹谷 働きたくても、地方には女性が働ける機会が少ないことは何となく知っていました。
浅野 これまで省内で色々な仕事をしてきましたが「女性だから」と損をしたことがなく実力主義でした。今回、女性起業家支援事業に取り組んで、自分は恵まれていたんだな、と思いました。
今後の取組みと、起業する女性へのメッセージ
—— 今年度は女性起業家支援で、どのようなことに取り組みますか?
浅野 1月のコンテストが大盛況で、女性起業家支援に取り組む方々が、喜んで下さったのが印象的でした。
今後は有効な女性起業支援の事例を広く共有するため、事例集を作る予定です。「ゼロからイチ」の支援は、地味に見えると思いますが、本当に女性起業家を支援するためには必要なことだと思います。
八木 家事に育児にと大変な女性にこそ、起業を選択肢に入れてほしいんです。一生懸命頑張っている女性の発想は、家庭を顧みず仕事だけをやっている猛烈サラリーマンからは生まれません。そのような発想こそが社会を豊かにし、また、同じように頑張っている女性の背中を押すきっかけになると思っています。仕事から離れている期間が長いほど、私に起業なんて難しい、という気持ちになるかもしれませんが、そこは全国のネットワークで丁寧にサポートします!!
笹谷 起業と聞くととても難しいことのように聞こえるかもしれませんが、自分のライフスタイルにあわせて働ける、そして自分の想いを実現できるすてきな働き方だと思います。やりたいこと、やってみたいという強い想いがあれば知識や経験がなくても相談できる支援者が全国各地にいるということを、このネットワーク事業を通じて1人でも多くの女性に知ってもらえると嬉しいです。
浅野 女性起業支援の仕事を通じて、ご家庭の事情などで仕事を一時的に離れたけれども、「自分のスキルを活かして何か活動したい」、「子育てや介護と両立しながら働ける時間で働きたい」という想いをお持ちの女性がたくさんいらっしゃることや、そうした方々に対して国の支援が十分に届いていないことを痛感しました。その想い、女性起業支援ネットワーク事業のメンバーが一丸となって応援します。一緒に、一歩踏み出していきましょう!