中小企業応援士に聞く
海外展開ノウハウを提供する京和傘の老舗【株式会社日吉屋 CRAFT-LAB(京都市上京区)代表取締役・西堀耕太郎氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する 全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2022年 1月17日
1.事業内容をおしえてください
当社の創業は江戸時代後期、初代当主・墨蔵が京都・五条本覚寺周辺に傘店を構えたのが始まりだ。その後、上京区東西町に移転し、二代目・与三次郎の代に、皇女ゆかりの尼寺である百々御所(どどごしょ・宝鏡寺)門前に店舗を構え、以来三代目・伊三郎、四代目・江美子と、百数十年にわたり和傘を作り続け、今は京都で唯一残る京和傘製造元として五代目・耕太郎が社長として伝統の技を受け継ぎ、老舗の看板を守っている。
和傘業界は時代の変遷と共に縮小しているが、当社は各地に伝わる伝統行事や祭礼に使われる和傘の製作・修復、各種伝統芸能の小道具製作、修理など、長年培われてきた独自の技術を活かし日本文化の保護継承に努めるとともに、「伝統は革新の連続(Tradition is Continuing Innovation)」を理念に、千年の歴史を持つ和傘が持つ優れた構造や伝統美を活かし、現代にも違和感のない商品開発を進めてきた。創業以来の取引先は茶道家元を中心とした茶道業界や織物業界が中心だったが、近年は自社ホームページを立ち上げ、国内はもとより海外販売も強化して幅広いお客様にご愛用いただいている。
和傘で培った伝統技術を活かしたインテリア照明やデザイン雑貨などを開発し、欧米、アジア、中東など世界各国で展開しており、自社の経験に基づいたノウハウやネットワークを、同じように海外展開を目指す事業者様に提供し、広く伝統産業振興のお役に立ちたいとアドバイザリー事業にも注力している。現地ニーズにマッチした新商品企画・開発のほか、バイヤー向け展示商談会、海外見本市出展、アフターフォローに至るまで一貫したサポートをきめ細かに行っている。
2.強みは何でしょう
和傘は茶の湯をはじめ能や歌舞伎などの伝統芸能に彩りを添える華で、日本文化に無くてはならない小道具だ。現在では日本旅館や料亭、ホテル、店舗などのディスプレイや広告として、あるいは海外へのお土産や小粋な贈り物など幅広い用途で使用されている。なかでも「京和傘」は茶道家元の本式野点傘や、祇園の舞妓さん愛用の蛇の目傘などで知られており、英女王エリザベス2世や故ダイアナ妃が来日された際も、桂離宮で開催された歓迎茶会で当社の本式野点傘をご利用いただいた。
海外展開のアドバイザリー事業では、国や地方公共団体からの委託契約とメーカーとの個別契約を柱に、のべ600社を超す全国の伝統産業事業者や中小企業の商品開発、国内外の販路拡大事業などをお手伝いしている。世界15カ国に代理店があり、現地バイヤーやデザイナーを巻き込んで商品開発を行い、市場特性に合致した商品のブランディングを図っているほか、仏・パリの拠点から日本文化を世界へ発信している。
西堀は講演のほか『伝統の技を世界で売る方法ーローカル企業のグローバルニッチ戦略』(学芸出版社)という著書を出版し、アドバイス先は伝統工芸品のみならず、アパレルファッションや食品分野、観光・インバウンド関連の商品開発、商品展開まで広がりつつある。ジャパンブランドの価値を紡ぐコーディネーターやプロデューサーを目指す人が実践を通して学べるようスクール事業にも着手している。
3.課題はありますか
当社の規模では、日本全国の素晴らしい伝統産業や地域資源に携わる方々の支援や後押しに限界がある。ジャパンブランドの育成や地域で自発的に商品開発ができるプロデューサー人材の養成を進めることで、この取り組みの輪を広げていきたい。地域金融機関とタイアップして、各地の地場産業を支援する取組みにも着手しているので、当社が培ってきたノウハウを積極的に広げていくつもりだ。
4.将来をどう展望しますか
アドバイザリー事業を通して、日本の素晴らしい文化や伝統工芸品、地域資源を消費者ニーズに合致した商品開発につなげたい。現代のニーズにつないでいくプロデュースができる人材、すなわち我々の仲間を増やしながら、国内外市場に販路を広げていくノウハウやメソッドを一つのパッケージとして展開し、加速できればと考えている。
5. 地域や業界とのつながりで、御社が大切にしていることは何ですか
京都に限らず、日本各地には素晴らしい文化や工芸がたくさん残っている。これらに日本人は気づいていないし、関心を向けていないのではないか。私自身もそうだったが、学生時代にカナダに留学していた時、外から日本を見ることであらためて日本の文化や匠のモノづくりの良さを再認識することができた。
日本の良き文化、素晴らしい伝統工芸の技術や作り手を次代に繋ぎ、事業として成り立たせて維持していくためには、個別事業者単位でなく、地域が相互協力し、連携して力を発揮していくことが大切ではないか。主体となる人材を側面的にサポートし、魅力を伝える見せ方や情報を発信し、販路に繋いでいく仕組みを構築していけば、地域や業界の活性化が図れると思う。
6.応援士としての抱負は
中小機構には、当社事業が地域資源に認定される際にたいへんお世話になった。国の補助金申請も採択され、当社には公共財を使わせていただいた恩義がある。恩返しの意味も含め、中小企業応援士の役割を発揮できればと考えている。
当社のノウハウは決して押し隠すものではなく、常にアップデートしながら広く提供しているので、お役に立つことができればこの上ない喜びだ。コロナ禍で中小企業の経営環境には厳しいものがあることは否めないが、日本の底力はここからが見せどころだ。皆様の奮起を促すべく、さらに自社の取り組みを前向きに展開していくつもりだ。
企業データ
- 企業名
- 株式会社日吉屋 CRAFT-LAB
- Webサイト
- 設立
- 2003年10月
- 代表者
- 代表取締役 西堀耕太郎氏
- 所在地
- 京都市上京区寺之内通堀川東入ル百々町546
- Tel
- 075-441-6644
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