売上アップ取り組み事例集

既存顧客数をアップする。中小・零細店舗の大型店対策(事例7回目)

「うちみたいな零細小売はもちこたえられない」ではなく、
「さらによいお店へと進化するきっかけ」へ。

大型店が近隣に出店してきたら・・・大型店出店の脅威は、他人事ではありません。でも、お店の特徴を把握して「差別化」が図れていたならば、大型店の出店は「差別化」を際立たせるいいチャンスになります。

今回は、都内商店街に立地するミニスーパーマーケットの成功事例(現在も奮闘中)を3回にわたって取り上げます。 大型店出店対策としてだけでなく、お店の「特徴」を「差別化」まで引き上げる方法としてもご活用ください。

文:若林敏郎(中小企業診断士)

近隣に大型店舗出店

当店は都内の商店街に立地するミニスーパーマーケットです。売り場面積は約165m2(50坪)と中型のコンビニエンスストア程度の面積です。扱い品目は青果、精肉、鮮魚の生鮮3品、及び豆腐、牛乳など日配品、菓子、調味料、酒類などの一般食品合計約4000アイテム、食料品以外の品揃えはありません。

顧客の90%は半径500メートル内の一次商圏から来店し、年齢は50代~70代の主婦が中心です。一日の来店顧客数は平均で1300人、顧客単価は1300円です。 市場が休みとなる日曜日と祝日は休業日と定め、営業時間は午前10時から午後7時です。社員は社長も含め8名、パート社員は18名で年間売り上げは約5億円です。

競合は当商店街に立地する二つの食品スーパーに加えて、近隣には大手GMSが自転車で行くことができる距離にあるほか、バスで20分ほどの駅ビル内にも大手の食品スーパーや専門食料品店があり、競合店舗が多い立地環境です。

このような商圏に、当商店街から直線距離で約300メートルの場所に約500坪の売り場面積を持つ大手食料品スーパーが出店しました。

開店当初より開店特価を満載した折込チラシが毎週入り、ポイントカードや商品の配送サービスなど販売促進も充実しており、駐車場や駐輪場も十分完備されています。

当店は大型店出店以来顧客単価の減少が始まり、顧客数も徐々に落ち込み、この間特売日を増やすだけの対策で、利益、売上が大幅な減少となりました。

緊急「対策会議」

こうした中、経営者は「値下げ競争では体力を消耗するだけで決して現状を打開することはできない」と考え、社長以下全社員によりほぼ毎日閉店後対策会議を開きました。 この際に実施された対策は以下の3つ。

  1. 既存顧客数アップ対策
  2. 顧客単価アップ対策(顧客単価を上げる品揃えと陳列)
  3. パート社員意識改革対策

以降、この対策と、その経過とポイントについて、3回にわたりご紹介していきます。

まず、対策を検討するに当たっては、当社の「経営理念」である「顧客第一主義」の再確認をパート社員も含む全社員で行い、経営理念を実現するための「行動指針」を策定しました。

「経営理念」は経営にとって何か迷った時、経営目的を振り返る意味で特に重要です。詳しくは改めてということにしますが、行動指針のポイントは以下の通りです。

  1. 常にお客様の目線で考える。
  2. 安全で安心できる食材を提供する。
  3. 個々のお客様への笑顔と挨拶を忘れないフレンドリーな接客をする。

さて、具体的な対策に入る前に、もう一つ、確認しておきたいことがあります。それは、売上の構成要素です。

売上の構成を分解すると以下のようになります。

売上=客数×客単価
客数=新規顧客+既存顧客-流失顧客
客単価=商品単価×買上点数
売上=(新規顧客+既存顧客-流失顧客)×(商品単価×買上点数)

売上の構成要素

大型店出店当初は客単価の低下により売上が減少し、徐々に顧客数が減少していきました。客単価は、まず買上点数が減り、次第に商品単価が落ち、客単価の落込みとなったため、以下の対策を講じることとしました。

既存顧客数のアップ対策

顧客数を増やすためには、「新規顧客を開拓」し、「既存顧客の来店頻度を増や」し、「顧客の流失を防ぐこと」が求められます。

大手スーパーの戦略は、広い範囲の見込み客をチラシなどの広告や自動車による来店が可能になるよう、広い駐車場を完備し、新規顧客を広い範囲から集め、固定顧客化していくのが一般的な顧客開拓戦略です。

しかし中小・零細店舗では、顧客開拓に多くの資金を掛けられません。新規顧客を集めるには、既存顧客の維持に比べ数倍のコストが掛かるからです。

従って、目標とすべきは、「どのようにしたら既存顧客を増やすことが出来るか」で、これが大きな課題となります。「既存顧客を増やす」と言うことは、「既存顧客の来店頻度を上げる」こと。言い換えれば他店で購入しないで「当店で購入していただく回数を増やす」ことです。

食品スーパーの顧客は距離の近さと商品力(品揃えの豊富さ、鮮度、価格、美味しさ、旬の提案)、接客の良し悪しで店舗を選択します。 そこで当店の商品力の強化策として、以下の3点に最も力を入れました。

  1. 生鮮3品の鮮度アップ
  2. 品揃えの集中化(購入頻度が高い日配商品の充実)
  3. 集客商品の強化

1.生鮮3品の鮮度アップ

「鮮度」とは、新鮮さの「度合い」で、特に青果や鮮魚は、とれたてや活きの良さがおいしさをほぼ決定づけます。そのため、鮮度が高い商品は大きな商品価値となります。 当店の顧客はほとんどがリピーターで、鮮度の高さは食べていただければすぐわかると確信し、大きな決断となりましたが、実行に移すことにしました。

鮮度の高い商品を販売することは、食料品を扱う店舗ではどこでも目標にしますが、見切り損や廃棄ロスが増え、利益率の低下を招く恐れがあるためなかなか決断できないのです。

しかし、中小・零細店舗にとって、商品の品揃え幅や価格競争は大手スーパーに勝てませんが、"鮮度競争"は規模の大小に関係なく競争できる取組みです。

(1)鮮度感のアップ

鮮度には実際の鮮度と"鮮度感"があります。
鮮度感とは見るからに鮮度が良く見えることを意味します。

新鮮なとれたてトマトでも棚に一籠しか陳列されていなかったら、新鮮に見えるでしょうか? 何か残り物のように見えるはずです。
旬の野菜、果物、鮮魚はそれだけでも新鮮には違いありませんが、陳列量を多くすることで一層鮮度感を高めることができます。

そこで特に安く仕入ができた旬の食材は、陳列量を通常の2倍ほどにしました。値引きロスは覚悟しましたが思いのほか少なく、売り上げを伸ばすことにつながりました。

(2)管理基準のアップ

特に生鮮3品(青果・精肉・鮮魚)は、値引き競争の激しい一般食品ほど売上の減少が多くありませんでした。お客さまの信頼を得ている証拠と考え、当店の「強み」とすべく、より一層高い鮮度基準を設けました。

具体的には、「売り切る時間」を従来の倍の速さにすることです。例えば刺身であれば昼食用に店出しした商品は、昼を過ぎた1時には見切り売りします。夕方も同様で、生で食べる刺身類、当日加工の商品は、当日売り切りとしました。

日によっては閉店時刻の1時間前には完売し、お客さまにご迷惑を掛けることもありましたが、徐々にお客さまも早めに購入していただけるようになりました。値引きにより利益率は低下しましたが、値引き商品を購入する新たな顧客が増えた結果、利益額は増加しました。

またこの刺身には加工時刻を記入し、「鮮度の見える化」も図りました。加工した刺身はさくの状態より劣化が速くなるからです。

販売数量の増加により、刺身の店だしが増え、商品の豊富感により"鮮度感"も向上しました。 その他の青果や精肉についても同様に売り切る時間を速めました。 ほとんどの顧客がリピーターであるため、「お宅で買ったお野菜はモチが違う」「特に野菜の葉ものは鮮度が高いのでおいしい」などお褒めをいただき、この鮮度基準アップ作戦は大好評で、「口コミ」もあり顧客数のアップにつながりました。

日配商品も、お客さまが賞味期限を気にします。一日でも賞味期限の多い商品を探し購入します。賞味期限の日数は商品価値ですので、期限が少ない商品は、商品により10円から20円の幅で値引きすることにしました。

この結果賞味期限切れの商品点数は大幅に削減することができ、商品廃棄ロスが減少し利益率も向上しました。

2.品揃えの集中化

売り場面積が50坪であるため商品種類は多くは望めません。生鮮3品を充実させると、日配や一般食品の在庫は絞り込まなければなりません。

POS情報や売り場での買われ方から豆腐、卵、納豆、生めんなどの日配品の充実を図ることにしました。その理由として、日配品は従来から当店での主力商品であり、ほぼ毎日購入するもので、顧客が来店する理由となる商品だからです。

フェイシングは商品により従来の1.5倍~2倍としました。 一方で商品品揃えから取り除く商品選定は慎重に行いました。「容量」や「使用方法」など特徴を列記し、重なる商品を選定しました。

特に食用油、砂糖、醤油などのグロッサリー商品類の品揃えは必要最低限としフェイシングも思い切って削減することにしました。 日配品の充実により目的来店性が強くなり客数は徐々に増えていきました。

3.集客商品の強化

当商店街には二つの食品スーパーがあり、毎週折り込みチラシが入ります。これに対応するため「集客商品」を強化する対策を立てました。
「集客商品」はグロッサリーを中心に、価格を安くすると購入量が著しく増加する商品をPOSデータから50アイテム選定し、その中から季節の料理をイメージし「今週の特売商品」を決定しました。

「集客商品」はあくまでも顧客の来店を促す商材であることを社員に徹底し「安易な安売り意識」を排除しました。当店はかねてから、新聞折り込みチラシはほとんど活用せず、年数回程度です。また駐車場などの管理コストはほとんど掛からないので経費分で価格を安く販売することが出来ました。

さて、顧客の種類は以下のように分けることが出来ます。

  • 見込み客(商圏内の顧客全て)
  • フリー客(一度でも当店で購入したことがある顧客
  • 常連顧客(当店で購入する機会が頻繁な顧客)
  • 信者客(当店でしか購入しない顧客)

まだ、当店だけでしか商品を購入しない信者客はほとんどいません。

「お刺身だけは」、「野菜だけでも」、「牛肉のステーキは他店では買えない」という顧客を一人でも多く増やしていくことがこれからの課題と考えています。

掲載日:2012年3月22日