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「東郷(鹿児島市)」体制最適化が効率の要

この記事の内容

  • 労働環境の見直しから業務改善に取り組む
  • 次に生産活動全体の最適化で新たなニーズに対応
  • 24時間連続加工が難しい金型製作の自動化に挑戦中
製造中の金型を手にする東代表

高い技術力が要求される金型製造は〝匠〟の世界。だが近年、中国をはじめとする海外への生産シフトが増え、より高度な超精密金型も例外ではなくなっている。日本での生産体制を維持し増大する需要に対応するには、高品質とともに高効率な生産体制が求められる。それを実現する取り組みがある。

職人技で作り上げる金型生産は数十年前のこと。現在の業界は、工作機械の技術進歩により機械に頼る製造へと変化している。人件費の安さを考慮すれば、機械化によりそん色のない品質が得られるアジア各国へと金型生産がシフトするのも仕方ないことだ。

それでも国内製造との違いはある。超精密金型メーカー、東郷の東成生代表取締役(60)は「日本の技術者は、ものづくりのイロハが体に染み込んでいる。挑戦し失敗し、その原因を解明することで身に付くノウハウの厚み。この基盤の違いは簡単に追い越されることはない」と言い切る。

日本の製造業の強さがここにある。だが、低コストによる量産品には対抗できない。この状況を東郷は、生産体制を最適化することで高品質、工程の短縮、低コストを実現させ、国内需要の増大に応えている。

働き方の意識改革から

大手電装メーカーでの勤務を経て、鹿児島市に戻った東代表は27歳で起業。地域には金属加工業が少なく、仕事を発注する企業も地盤もなかった。「あるのは必死に働けば何とかなるという気概だけ」と当時を振り返る。その後、NC工作機を導入し地道な営業活動を通し仕事を確保した。ニーズは絶え間なく変化する。それに対応するため最新の機械を投入する繰り返し。金型は設備投資産業と言っても過言でない状態が続いたという。

生産性向上への取り組みは5年前の業務改善から始まる。最初に手掛けたのは労働環境の見直し。残業なし1日8時間労働の徹底を図るが「抵抗は少なくなかった」と東代表は話す。昔気質の社員たちは、時間に縛られるような勤務体系を好まない。週明けの作業を考え休日に出勤し段取りをする者もいる。いずれも会社のためと思っての行動だが、これを改めなければ働き方改革はできない。

「時間内に業務を終わらせる重要さを社員に理解してもらいたい。それには社外専門家の力が必要だと感じた」と東代表。トップダウンではなく、時間をかけ全社員が専門家の指導を受け入れるよう仕向けた。

量産化対応を視野に

次に取り組んだのが、新たなニーズに対応するため生産活動全体の最適化だ。プロジェクトチームを立ち上げ、4M(人、材料、機械、方法)の活用とQCD(品質、コスト、納期)を徹底的に検討し、切削時間の短縮などを実現した。創意工夫は技術面だけでなく人材活用にも及ぶ。

生産性向上は、機械を扱う技術者の高度化も伴う。人を育て技術力を高めていく中で、効率化を伴う生産が可能になる。こうした考え方から研修への派遣や外部から講師を招き勉強会を行うなど、最新の技術動向を学ぶ姿勢を重視する。

人手不足の解消と技術力の底上げを図るため、女性と外国人を積極採用し技術者として育成する。女性技術者は全社員の約2割。このうち5年前に設立したタイ工場の女性技術者を日本で技術習得させることでタイ工場の技術向上にも役立てている。

育てる人材は「持てるノウハウ、考案を発揮しロボット化を達成する挑戦者であり、自ら考える人」と強調する。24時間連続加工が難しい金型製作工程の3分の1を段取り、3分の2を連続加工することで、生産性は大幅に向上する。さらにノウハウを蓄積し加工前の段取りを短縮。これにより24時間フル稼働に近づけていくこと。

それは量産化への対応でもある。Type-C型と呼ばれ、今後の需要増が見込まれているUSBコネクターとそれを製造する鍛造成型機を開発中で、これは平成29年度「戦略的基盤技術高度化支援事業」(サポイン)に採択されている。これならば海外勢に負けない量産品を国内で生産できる。

昨年、閉校になった県北西部にある長島町の小学校を譲り受け、新工場として今秋の本格稼働を目指している。「地元採用を積極化し3年後には50人の工場にする」という。
人を育て、社員の創意工夫で生産活動を最適化する。さらに自動化へと進む。東郷が挑む生産性向上への取り組みは、地域で新たな雇用を生み出す副次的効果もある。

企業データ

企業名
東郷
Webサイト
設立
1985年10月
従業員数
81人
代表者
東 成生氏
所在地
鹿児島県鹿児島市川田町2194
Tel
099-298-8050
事業内容
精密プレス金型の製造・販売