中小企業応援士に聞く

「人と地域と環境のために」との企業理念で「地材地消」を推進【株式会社ハルキ(北海道森町)代表取締役・春木真一氏】

中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。

2022年 8月 1日

道南の地で「地材地消」を推進するハルキの代表取締役、春木真一氏
道南の地で「地材地消」を推進するハルキの代表取締役、春木真一氏

1.事業内容をおしえてください

法人化以降、事業拡大を果たした現会長の芳則氏
法人化以降、事業拡大を果たした現会長の芳則氏

北海道の南西部・道南の森町で、丸太の製材・集成材製造・プレカット加工まで一貫した生産を行っている。当社の歴史は長く、遡ること約120年前、私の曽祖父・助三郎が開拓民として石川県から北海道に入植したことに始まる。当時の森町周辺は原木が生い茂る場所だったため、それらを燃料とする薪炭業を営んでいた。

戦後になると、炭にする木がなくなったこともあり、助三郎の五男である芳松が1960年に「春木製材所」を立ち上げた。その後、1989年の法人化を機に社長に就任した父・芳則(現会長)のもと事業を拡大し、2000年には資本を増強し、株式会社ハルキへと法人格を変更。創業から約60年経った現在は、北海道が進める「木育活動」(幼児から高齢者まですべての人が木と触れ合い、木に学び、木と生きる取り組み)や、道産木材を利用した製品開発なども進めている。また、「人と地域と環境のために」を企業理念として事業活動を展開しており、昨年11月にSDGs宣言も行った。

2.強みは何でしょう

道南杉は北海道の冬を快適に過ごすのに最適な素材
道南杉は北海道の冬を快適に過ごすのに最適な素材

強みは2つ。ひとつめは、製材から集成材、プレカット加工まで一貫した生産を行っている点だ。すべて一貫して対応できることにより、製品を製造するときの流通コストや販売コストを抑えられる。それと同時に、廃棄物になる予定だった端材に付加価値をつけられるというメリットがある。たとえば、端材を環境に優しいバイオマスボイラー(重油などの化石燃料の代わりに木くずや紙くず、廃タイヤなどの産業廃棄物を燃料として水蒸気・温水などを生成する熱源機器)の燃料にできるし、おがくずは牛の寝藁として畜産業者に活用してもらっている。プレカット加工まで一貫して対応できる民間企業は全国に3社しかなく、当社の大きな強みである。

ふたつめは、地元の木材を活用している点だ。2000年代に入ってロシアなど外国産木材の輸入が困難になってきた時期があり、それをひとつの契機として地元材を見直すこととなった。とくに当社の主力製品となっている道南杉は弾力性や断熱性に優れ、芳香にはリラックス効果もあり、北海道の寒い冬を快適に過ごすのに最適な素材といえる。現在、当社が扱っている木材のうち70~80%が道産材、20~30%が輸入材となっている。道産材の割合が高いため、昨年のウッドショックの際も受注制限なく対応することができた。将来的には道産材を100%にし、地域経済の循環にも貢献していきたい。

3.課題はありますか

丸太の製材・集成材製造・プレカット加工まで一貫した生産を行うハルキ
丸太の製材・集成材製造・プレカット加工まで一貫した生産を行うハルキ

数年前のことだが、幹が太い大径木(たいけいぼく)を挽ける工場が少なく、製材が遅くなるという課題があった。木は生き物なので、製材が遅くなることで、伐採済みの木の品質が落ちてしまう。しかも業界には、どのような木でも受け入れてくれる企業が選ばれる傾向があり、当社としてはなんとしてでも乗り越えたい課題だった。そこで、会長肝いりの取り組みとして、直径60cmまでの大径木に対応でき、処理量も大きい工場を本社内に増設することとし、3年がかりの計画の末に今年3月、ようやく完成した。

また、常に抱えている課題は人材不足である。毎年5人ほどを採用したいと考えているし、少なくとも1人は採用できるようにと思っている。最近では、2020年に開校した道立の林業大学校「北の森づくり専門学院」(旭川市)からのインターン生を受け入れており、卒業生2人が今年入社した。このほか、地元の高校で授業を行ったり、幼稚園児から大人まで多くの人たちに工場を見学してもらったりと、人材確保につなげる活動も行っている。さらに、当社に2人いる木育マイスター(北海道が認定する、木育を普及させる専門家)の社員が地元のイベントに参加してワークショップを開くなどしている。木育を通して木に親しみをもってもらうと同時に、将来的に当社に興味を持ってもらえればと期待している。

4.将来をどう展望しますか

2030年までに自社発電を目指している。現在も工場の端材を燃料としたバイオマスボイラーで熱利用しているが、より大きなバイオマスボイラーを設置したいと考えている。この構想のきっかけとなったのは、数年前のオーストリアへの視察だった。オーストリアは森林管理の先進国であり、すでにバイオマスボイラーの取り組みを行っていた。当社でもぜひ実現し、CO2削減に貢献したいと思っている。

また、集成材工場の移転を検討している。集成材工場は八雲町にあり、本社とは30km以上離れているが、3~4年のうちに本社に移転したい。これにより輸送コストをゼロにすると同時に、すべての事業を本社で一貫して運営できる体制を整えることができる。

5. 経営者として大切にしていることは何ですか

「地材地消」の実例となる函館空港ターミナルビル(上)と無印良品
「地材地消」の実例となる函館空港ターミナルビル(上)と無印良品

地元の材料を地元で使おうという「地材地消」に力を入れている。一例としては、「函館空港木質化プロジェクト」を立ち上げ、空港ターミナルビル3階の一部で道南杉を使用したホールと広場が整備された。同プロジェクトは高い評価を受け、2015年にウッドデザイン賞を受賞した。また、札幌や函館の無印良品の店舗に当社の木材が使用されたほか、プロ野球・日本ハムの本拠地となる新球場を核として来年3月開業予定の「北海道ボールパークFビレッジ」(北広島市)では、道南杉を使った当社オリジナル内外装パネル「道南杉ハル壁シリーズ」が商業施設に採用された。

このほかにも道内の施設で当社の製品を採用する計画がいくつか進んでいる。また、地域材の活用のため地元・森町が中心になって立ち上げた森町モデル事業推進協議会に参加し、設計士や大学の教員らと一緒になって、老朽化が進んだ公共建築物の建て替えで地域の木材を活用できないか議論している。

「地材地消」だけでなく、道内市場の縮小に対応し、地元の雇用を守るため、「地材外消」にも取り組み始めている。新国立競技場整備事業のスタジアム外周部の軒庇に使用する杉材の供給をはじめ、台湾へのトライアル輸出も始めた。

6.応援士としての抱負は

「人と地域と環境のために」を企業理念とするハルキ
「人と地域と環境のために」を企業理念とするハルキ

2019年に中小企業応援士を委嘱されて以降、商談や会合などで中小企業の経営者らには応援士の名刺を渡し、様々な支援メニューがあることを紹介している。ただ残念なことに、中小機構の支援について知らない企業が多いようだ。これからも引き続き中小機構の支援メニューを広めていきたい。

また、応援士には各地域・各業界で活躍している経営者が多いので、できれば応援士同士のつながりを持ちたい。これまでの経験からもいえることだが、異業種の人たちと話をすることで新しい発見につながることが多い。他の応援士の人たちと集まれるような場ができると面白いと思う。

企業データ

企業名
株式会社ハルキ
Webサイト
設立
1960年創業、1989年設立
代表者
春木 真一 氏
所在地
北海道茅部郡森町字姫川11番13号
Tel
01374-2-5057

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