中小企業応援士に聞く

自社ブランド製品で顧客の要望に対応【株式会社コメットカトウ(愛知県稲沢市)取締役社長・野々部正幸氏】

中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。

2023年 6月 22日

コメットカトウ本社
コメットカトウ本社

1.事業内容をおしえてください

サービス担当者を自社で配置
サービス担当者を自社で配置

スチームコンベクションオーブン、ガスレンジ、フライヤー、グリドル、炊飯器などの業務用厨房機器の開発・製造・販売およびメンテナンスを手掛けている。
創業は1920年(大正9年)。今年103年目を迎えた。創業当時は板金や鉄鋼所のような仕事から始まって、階段の手摺や柵などを作っていた。その後顧客の依頼を受け、暖をとるだけでなく上に鍋などを載せられるような石炭ストーブを製造したところ評判が良かったため、追加注文が入るようになった。その後、1928年にガス機器の製造を開始した。

最初の大きな転機は、1948年に東邦ガス(株)の指定工場となったことが挙げられる。東邦ガス(株)はガス供給を高めるために、インフラだけでなくガス使用機器を製造する地元の企業(当社以外だと、現在のリンナイ(株)や(株)パロマ)をバックアップされたと聞いている。

その後、ガス機器を中心に製造していたが、2つ目の大きな転機として、1972年に米国の業務用厨房機器の大企業であったバルカン・ハート社と技術提携を行った。当時は、洋食のファミリーレストランが国内に普及し始めてきたころであり、日本人の趣向も変わってきつつあった。技術供与を受けながら洋食向けの製品を作り始めた。また、この頃、ホテル向けの重厚なガスレンジも、バルカン・ハート社とともに製造し始めた。それからは、ガス機器だけでなく、電気を利用する製品も併せて製造し、顧客の様々な要望に応えながら製品を作っている。

当時の社名「株式会社カトウ製作所」では、他にも似たような名前の会社があるということから、1974年にカトウ製作所の販売会社として株式会社コメットを設立。1979年にはコメットの営業活動をカトウ製作所に吸収し、現在の株式会社コメットカトウに社名を変更した。「コメット」は彗星を意味するので、彗星のように光り輝く会社となるようにというのが由来と聞いている。

私自身は創業者から4代目に当たるが、創業家である加藤家以外からは初の社長になる。

2.強みは何でしょう

顧客の要望を迅速にものづくりにいかす
顧客の要望を迅速にものづくりにいかす

パート勤務を含めて従業員数300名弱の会社の規模だが、自社ブランドを立ち上げて開発、製造、販売、メンテナンスまで全て行っている会社は、多くないのではないかと思っている。お客様のニーズに合わせた製品を開発できるし、今後お客様に喜ばれると思う製品を自ら考えて企画し、製造・販売できる。また、業務用厨房機器は売って終わりではない。購入後もお客様が安心して使用できるように、メンテナンスを行うサービス担当者を多く配置している。従業員数300名弱に対して、サービス担当者が65名程いる。業界内でも当社ほど従業員比率で配置している会社は他にない。大手企業もメンテナンスは外部に委託しているところが多い。

機器なので当然トラブルは発生するが、それに対していかに早く対応して、お客様に迷惑をかける時間を少なくするかが大事。当社のサービス担当者は当社の製品を熟知しているので、傾向としてどこが壊れやすいか、また、お客様の修理の要望はどこが多いかを把握しており、車内に修理のための部品を積んでいる。そのため、故障の原因が分かれば、その場ですぐに修理もできる。さらに、新しい製品を販売しても、社内で講習会を開いて教育できるので、一気通貫で仕事ができている。開発の社員がサービス担当者を教育している。

当社は厨房機器の中で唯一素材を変化させる加熱機器に特化して業務を行っているので、お客様の要望にしっかりと応えて、1社のためだけの機器を多く造っている。会社のカタログに載っていない製品で、売上の3割程度を占めている。他社も同様のことを行っているが、他社が面倒と思うようなことも請け負って、ビジネスにつなげている。また、国内のハンバーガーチェーンのパテ(肉)を焼く機器については、当社が独占できていることももう1つの強みだ。バルカン・ハート社と技術提携した経験によって自然と当社の技術基準が高まってきたこともあり、「他社の製品よりも温度の安定性がいい」、「アルバイトなど誰が使っても同じように焼ける」という声はいただいている。製品を使用していただいているお客様の幅が広いことも強みとなっている。ホテルからファミリーレストラン、ファーストフード、官公庁、病院、老健なども含まれるため、業績自体は景気による乱高下が少ない状況である。

会社としては、目先の売上にとらわれず少し長い視点で見て、より良い製品をお客様に提供している。真面目な会社といえば、真面目な会社なのかもしれない。「運がいいな」と思う場面がこれまでもポイントごとにあった。経営者が話すようなことではないかもしれないが、真面目にやってきたから誰かが見ていてくれたのかなと感じている。お客様の要望に対して正直に向き合って、良い意味で変なこだわりを持って応えている。長い目で見て良い関係性を作って、きちんとしたビジネスをするということが、組織風土として根付いているのかもしれない。

3.課題はありますか

展示会出展でアピール
展示会出展でアピール

食べる口の数で、ビジネスの市場規模が決まってくると考えているので、国内で言えば、課題は人口減少に尽きる。そのため、スーパーマーケットなどこれまで十分PRできていないチャネルやお客様をどのように開拓するか、お客様のニーズをどのように製品にフィードバックしていくか、改めて洗い出しを行っている。

海外では、米食文化の国でどのようなビジネスができるかを、コロナ禍前から検討して動き出していて、東南アジア各国の販売店とも契約している。少しコロナ禍が明けて注文も戻ってきているが、全体の売上比率にすると数パーセントなので、20%位になるまで比率を上げたい。国内で製造して海上輸送していては、現地企業との価格競争には勝てないので、十数年前からベトナムで協力してくれている会社とより深く連携をとって、OEM生産を少しずつ増やしている。

また、取り扱っている商品が多品種・少量生産なので、どのように効率化を図っていくか、完全自動化でロボットが製造することは、当社の業界では不可能だが、ポイントごとにどのような自動化を進めていくかは課題。また、従業員一人一人がどのようにレベルアップしていくか、自分たちでものづくりの改善力を高めていけるかは、ゴールのない課題なので、ずっと続くものだと考えている。

従業員のレベルアップ等のために、社外では、中小企業大学校瀬戸校の研修や名古屋中小企業投資育成のセミナーを受講している。社内では、新入社員や階層別の教育体系を数年前に整えて、運用している。まだ始まったばかりなので、カリキュラム等については従業員とキャッチボールをしながら、今後も改善していく。講師は各専門のセクションの従業員が行っているが、講師となる従業員にも役立っている。

「人」は当社の仕事の中でのキーワードになってくる。経営者が従業員に「こうなってほしい」と考えることも大切だが、従業員が「コメットカトウで良かった」と思ってくれる、成長していけることを実感できるような取り組みは、ドンドンやっていきたい。従業員が進んでいくべき道を準備して、研修の受講等についても、自ら手を挙げて参加する人を増やしていきたい。

4.将来をどう展望しますか

世の中にある「加熱」の技術で、当社の製品に活かしきれていないものがまだある。それを見極めて、新しい製品力・提案力を磨いていきたい。「圧力」「マイクロウェーブ」など調理の時間を短くすることに効果が高い機能は、今後求められていくものだと考えているし、最後に道を切り拓いていくために必要なものは、メーカーとしての製品力だと思っている。それが他社と横並びだと当社の強みもなくなってしまうので、他社とは少し異なるものを製造し、販売していきたい。業界全体としてもここ10年、20年、大きな変化をもたらす製品が出てきていない。

当社の方向性としては、「厨房で働く全ての人々にオンリーワンの視点で、快適な厨房を創造する」ことを目指していく。これが達成できれば、当社の製品で作った料理で、食べる人を笑顔にするという、その先のゴールも達成できると考えている。

5.経営者として大切にしていることは何ですか

地元の祭りにも協力
地元の祭りにも協力

地域貢献としては、地元の祭り等の際に、会場として工場を提供している。以前から考えているのは、地域で行うバーベキューなど何かの機会で、当社の製品で作った料理を提供することだが、実現するためにはハードルが高い。最近はコロナ禍が明け始めて、近所の小学生の社会科見学による工場見学会が復活したので、それを軸に考えていく。当社の従業員の中にも、小学生の時に当社へ工場見学に来たことを覚えている者がいる。

業界とのつながりでは、先々代が厨房工業会の発起人となって、勲章をいただいた。業界内は、当然販売面では戦うが、昔から共存共栄でやっていこうという雰囲気がある。今までにない最近の事例としては、3社が利用していたドイツ製の特殊なポンプが供給停止となった際に、業界の垣根を越えて3社が一緒になって金型を新規発注し、使用数の比率で金型金額を案分するなど、お互いに生き残っていくために工業会の中で協力した。今後もこのようなケースはあるだろう。良い距離感の中で行えている。

6.応援士としての抱負は

100周年の記念撮影
100周年の記念撮影

異業種も含めて、中小企業大学校瀬戸校のPRは行っていきたい。まだまだ多くの人が知らないので、費用対効果の高い研修であることを伝えていきたい。会社がどのように進むかも大切だが、従業員一人一人がどのように成長していくかも同じくらい大切なので、そのような機会を会社がどれだけ準備できるかと考えると、瀬戸校を利用するしかないのではないかと思う。他機関の研修と比較して費用もリーズナブルなので、従業員を気軽に研修へ派遣できる。

企業データ

企業名
株式会社コメットカトウ
Webサイト
設立
創業1920年/設立1951年
代表者
加藤愛一郎 氏
所在地
愛知県稲沢市祖父江町甲新田イ九-65
Tel
0587-97-8441

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