社会課題を解決する
ICTで人と医療と介護をつなぐ「株式会社アルム」
2021年 5月 26日
少子高齢化の進展や医療技術の進歩、医療に対する国民の意識の変化など、医療を取り巻く環境は大きく変わってきている。さらに昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大も加わり、医療が抱える課題も複雑化・多様化している。こうした山積する課題を持ち前のICT技術で解決しようと取り組んでいるのが医療関係のITベンチャー、アルムだ。これまでの実績が高く評価されるとともに、今後もグローバルな成長が期待され、同社は中小機構主催の「Japan Venture Awards 2021」で中小企業庁長官賞を受賞した。
スマホで利用できる医療・福祉関係のアプリを提供
同社の事業内容は、スマートフォンで利用できる医療・福祉関係のアプリの開発・提供。主力商品である「Join」は、患者の個人情報が外部に漏れるおそれのない状況で医療関係者同士がコミュニケーションをとることができるアプリで、医療プログラムとして日本で初めて認証を受けた。臨床の現場で使用することができ、手術室やICU(集中治療室)からリアルタイムでの動画配信も可能だ。
また、地域包括ケア推進ソリューション「Team」では、介護事業所向けアプリ「Kaigo」や看護事業所向けアプリ「Kango」で記録された患者の情報を多職種間で共有できる。かかりつけ医や看護師、介護員・ヘルパーなど関係者間で患者の状況を確認したり、医師が指示・アドバイスを出したりといった連携が可能になる。
救命・健康サポートアプリ「MySOS」は、健康診断の結果や通院履歴、服薬履歴、かかりつけ医の情報など個人の医療情報を登録でき、いつでもどこでもスマホで確認することができる。救急時など、いざというときにスムーズな対応をサポートする。
大きな転機となった2014年の薬事法改正
同社の創業者で代表取締役社長の坂野哲平氏は、自動車メーカーに勤める父親の仕事の関係で小学校5年から高校3年生までをアメリカ・オハイオ州で過ごした。日本のすぐれた技術や文化を世界に発信したいとの思いを抱き、早稲田大学理工学部を卒業と同時に起業し、2001年設立の「スキルアップジャパン」ではエンタメ関係の動画配信を手掛けた。しかし、日本の動画コンテンツの多くはテレビ局が制作したもので、海外に発信する前提で作られたものではなかった。坂野氏は「グローバルなビジネスには向いていない」と見切りをつけ、事業内容をコンテンツからIT技術へとシフト。そのなかには医療分野も含まれていた。
そして大きな転機となったのが2014年の薬事法改正。短いサイクルで改良・改善が進む医療機器の特性を踏まえ、医療機器の迅速な実用化に向けた承認制度が創設された。法律の名称も「薬事法」から「薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)」に改められた。これを機に坂野氏は医療分野以外の事業を切り離して売却し、医療分野に特化。2015年に社名を現在の「株式会社アルム」に変更した。「アルム(Allm)」は、「All Medical, All Mankind」に由来し、企業理念にも掲げている「すべての医療(All Medical)を支える会社」を意味する。
コロナ禍で感染対策と経済活動の両立を支援
次なる転機は、今も続く新型コロナの感染拡大だ。とくに自分の健康状態をスマホで登録・確認できるアプリ「MySOS」の利用者が急増した。もともとは倒れている人を見つけた時など、救急時の対応をサポートするために開発されたのだが、コロナ禍のなか、自宅やホテルで療養する感染者の健康状態を観察するツールとしてニーズが高まった。「MySOS」を通じて感染者自身が日々の体調を回答することができ、保健所の職員らが感染者一人ひとりに電話などで体調を確認するという作業が軽減された。また、PCR検査のデジタル陰性証明書をスマホで受け取ることができ、検査機関に結果をもらいに行く必要がなくなった。
さらに、ICTを駆使してコロナ禍の大きな課題、感染対策と経済活動の回復にも貢献したいとしている。そのひとつが医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」の活用だ。新型コロナ感染症の医用画像ティーチングファイル集(症例集)を医療機関に対して無償で提供し、「Join」で閲覧できるようにした。また、感染対策用途で「Join」のIDを追加する場合は無料で提供。いずれも感染拡大の抑制に役立ててもらうのが狙いだ。
一方、経済活動については、コロナ禍で苦境に立たされているイベント関係での「MySOS」の活用を目指している。具体的には、「MySOS」とPCR検査など各種検査とを組み合わせた大型イベント向けの感染症対策ソリューション「MyPass」の提供だ。イベント参加予定者に開催日前の一定期間、「MySOS」で健康状態を記録してもらうとともに、事前に郵送した検査キットで検査を受けてもらうもので、すでにプロ野球チームと共同で取り組みを実施している。坂野氏は「感染防止のため無観客や入場者数の制限、さらには開催中止というケースが相次いでいるが、それでは経済活動が停滞するだけ。適切な感染対策を提供することで経済対策との両立に役立ててもらいたい」と話す。
「日本の技術や文化を世界に発信したい」との思いを胸に
グローバル展開も積極的だ。2021年4月現在、アメリカ、ドイツ、UAE(アラブ首長国連邦)、ブラジルなど8カ国に拠点を有し、累計28カ国に「Join」をはじめとした医療ICTソリューションを提供している。
今後のグローバル展開について坂野氏は、「日本の医療は、世界から見れば特異な面もあるが、医薬品や医療機器、そして健康保険といった公的サービスなど、すぐれたものが多い。私たちのサービスや技術を通じて、日本の医療のいいところを世界に広めるお手伝いをしたい」と話す。起業前の学生時代から抱いていた「日本のすぐれた技術や文化を世界に発信したい」との一貫した思いを胸に、事業のいっそうの飛躍を目指す考えだ。
企業データ
- 企業名
- 株式会社アルム
- Webサイト
- 設立
- 2001年4月18日
- 資本金
- 28億8680万円
- 従業員数
- 約60人
- 代表者
- 坂野哲平氏
- 所在地
- 東京都渋谷区渋谷3-27-11 祐真ビル新館2F
- Tel
- 03-6418-3010(代表)
- 事業内容
- 医療・福祉分野におけるモバイルICTソリューションの提供
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