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SDGsの「三つのキーワード」を踏まえ、自社の事業を広く展開【金沢工業大学 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授/金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長・平本督太郎氏】<連載第2回>(全4回)

2020年 1月30日

SDGsは中小企業にとっても、自社を成功させるきっかけとなり得るもの。では実際に企業が取り組みを進める際は何に留意すべきでしょうか。本連載の第2回では、専門家の平本督太郎氏にSDGs対応のポイントを伺いました。

◆SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかに記載されている、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するため、「貧困」「飢餓」「気候変動」「エネルギー」「教育」など17分野の目標=「ゴール」と、17の各分野での詳細な目標を定めた169のターゲットから構成されており、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択された。2017年7月の国連総会では、各ターゲットの進捗を測定するため232の指標も採択された。

SDGsの17の目標(国連広報センターウェブサイトより)
SDGsの17の目標(国連広報センターウェブサイトより)

ソリューションを求める世界の声に応える

SDGsを意識した課題解決型ビジネスで自社を成長させていくことを目指すのであれば、SDGsの特徴を知る必要があります。企業がSDGsに取り組む上で押さえておくべきポイントとして、平本氏は“地球規模”“バックキャスト”“誰一人、取り残さない”の三つを挙げました。

「一つ目の“地球規模”は、例えば自分たちの地域の問題は、地球上のどこか別の場所でも課題になっているということを意味します。つまり自分が直面している課題を解決する製品・サービスは、より幅広く横展開できるだろうということです」

先進国、新興国の双方をターゲットとするSDGsの対象は世界に広がっています。島国で経済成長も内需に依存してきた日本は、海外展開への意識に課題がありますが、自社のソリューションを国内外で広く活用できる仕組みに発展させていくことが重要なわけです。

「国際会議で私が日本の中小企業を紹介すると高い評価を得るのですが、英語の資料がほしい、英語で商談したいという要望に企業側が対応できず、価値あるソリューションが埋もれてしまった例が多々ありました。近年は自動翻訳も進化していますし、積極的に世界へ発信することを考えてもらえたらと思いますね」

将来のあるべき姿から逆算して今の行動を変える

二つ目の“バックキャスト”は、最初に未来像を描いてから、今、何をすべきかを考えることです。

「例えば現在の延長線上で物事を考えた場合、ガソリン車の部品製造が売り上げの100%を占める中小企業などでは、『人も資金も余裕がないのに、EVの時代に備えて今から対応なんてできない』という話になりがちです。しかしバックキャストで考えると、イギリスやフランスでは2040年以降、化石燃料で動く新車の販売は禁止されますから、事業を組み替ええておかなければ先がないと分かる。すると、行動の優先順位も変わってくるわけです」

“バックキャスト”を取り入れれば、しっかり情報を集めて未来像を予測し、あるべき姿に向かって主体的に今の行動を組み替えていくことができます。間際になって対策に慌てることもなくなるでしょう。

地域で磨いたサービスを世界に展開

SDGsに取り組む上で留意すべき三つ目のポイントは、“誰一人、取り残さない”ということ。これにはSDGsの前身であるMDGsへの反省があります。

「例えば世界全体の水普及率を調べようとするとき、全世帯について調査をするのは事実上不可能。そこで『水道施設が通っている1マイル圏内のエリアは安全な水が飲めている』といった形で定義が行われます。しかし、実際にはその圏内にいても自分の家までは水が届いていないという人が生まれてしまうのです」

この「ラストワンマイル」の問題は、海外でも日本の地方部でも起こり得るもの。そこで取り残された人へのきめ細かな対応は、地域に根付いた活動をする中小企業に優位性があります。それぞれの地域で成果の上がった課題解決ビジネスを、さらに磨き上げて世界に打ち出す。これは中小企業にとって大きなビジネスチャンスになるはずです。

連載「オープンイノベーションも生かして、SDGsを成長のきっかけに」

平本督太郎(ひらもと・とくたろう)
金沢工業大学 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授/金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長

慶応義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程、メディアデザイン研究科博士課程修了後、野村総合研究所入社。同研究所の経営コンサルタントとして、貧困等のグローバルイシューを解決するBoPビジネスや、アフリカビジネス推進支援、経営改革支援などに2016年度末まで携わる。BoP Global Network日本代表、BoP Global Network Japan創設者兼代表。08年より宮城大学事業構想学部非常勤講師、12年より明治大学経営学部特別招聘教授を歴任し、16年に本学講師就任。2019年より現職。

◇主な編著書
・『アフリカ進出戦略ハンドブック』(東洋経済新報社/共著)2015年
・『BoPビジネス戦略』(東洋経済新報社/共著)2010年

取材日:2019年11月18日