起業のススメ

「株式会社エルテス」複数事業を同時に進め、可能性の高いものに絞り込む

複数事業を同時に手がけ、可能性の高いものに絞り込む 株式会社エルテス代表 菅原貴弘氏

ネットの“炎上”リスクを管理

食品の異物混入や従業員の不適切な発言・行動による、ネットの“炎上”は珍しくなくなった。企業の場合、イメージ悪化や製造中止など深刻な打撃を受ける例も出ている。この“炎上”や風評被害にいち早く着目し、企業と個人に未然防止サービスを提供しているのがエルテスの菅原貴弘社長だ。

炎上防止は、ツイッターなど120以上の媒体の投稿内容を24時間体制で検出し、人が4時間に1回以上の間隔で目視確認する。重要度の高いものはすぐに企業へ通知する。投稿が炎上に発展するケースはしばらく時間がかかることが多く、企業は情報が拡散される前に対応できる。菅原は「ここ1、2年くらいで、ネットの炎上やデマによる被害が認知され始めました」と話す。現在、サントリーやハウス食品、三菱東京UFJ銀行、マツダなど名だたる企業、約300社と契約。2016期2月期の売上高は前期比45%増の約10億円の見込みと急成長している。

失敗から学ぶ

菅原は小学校の頃から、漠然と「大物になりたい」という思いがあった。実現の一歩として、東京大学に進学。だが、早々に「東大に入学しただけではどうにもならないことに気付いた」(菅原)。「大物」の選択肢として政治家やNPOの代表も考えたが、「同じ時間を費やすなら、ベンチャーの方が早く成長しそう」との理由で起業家を模索。ベンチャー企業のインターンシップで働いたり、ビジネスコンテストに参加したりするなか、ある経営者と知り合う。その経営者は本業とは別に、携帯電話のデータの自動バックアップが可能な充電器の開発構想を持っていた。この新会社の設立にあたり、菅原は誘われて取締役に就いた。

「ビジネスモデルの設計や製品規格、原価計算など、給料の支払い以外のほとんど」を任され、実務経験を積んだ。「6人いた顧問に教えてもらったことは、今でも活きています」と当時を振り返る。しかし、試作品が完成したところで、5000万円の資金が底をつき、事業がストップする。「日銭を稼がず、自分のやりたいビジネスを追求する今のベンチャースタイルに近かった。また、経営方針が横道にそれることもあり、取締役にできることは限定的だった」と失敗の原因を分析した。ある顧問から100万円を借りて会社を設立した。しばらくして大学は中退、背水の陣で臨んだ。

設立にあたってこの顧問から「どうせ当たらないから、事業は複数やった方がいい」との助言を受ける。4年間で次々に新規事業を手掛けた。人件費の安いベトナムでソフト開発を委託するオフショア開発、航空券のネット販売、健康増進の運動指導をするトレーナー派遣、携帯電話の学習用アプリの開発、竹酢酸液の製造、動画配信サービスなどまさに多種多様だ。時には5人で5事業を同時進行させたこともあった。菅原は「どんな事業でも始める時はそれほどこだわりなく始めます。時が来たら1位になれそうなものに絞りこむ」との考えだ。

月額固定で安定成長

転機となったのが、2007年から行っている企業の風評被害対策だ。グーグルなどの検索結果の上位に、企業への誹謗中傷のコメントなどが入らないようにするサービスだ。ネットの口コミサイトで企業の誹謗中傷コメントを見たのがきっかけだった。「起業後3年は資金繰りに苦労したが、この事業に絞ってからは順調」という。

ただ、課題もある。「この事業だけで会社を大きくするのは難しい」のだという。「運命の分かれ目」だったのは料金モデルだ。成果報酬型の料金体系は取引先に説明しやすく、契約を取りやすいが、毎月の収入は不安定になる。経営計画も立てづらく、営業員の雇用もままならない。そのため、料金は最初から月額固定に拘った。「正社員を増やせないと、どうやっても会社を大きくできない」との判断だ。

また、成長要因の1つとして自社の「信用」を重視している。「この事業のコアは、インターネットの広告ビジネスの費用対効果とは違い、信用が第一。消えそうなベンチャーに大手企業は自分たちのリスク情報は渡しません」というわけだ。2015年には「信用が増大する方向に持っていく」ため、産業革新機構や有名企業からの出資を積極的に受けている。上場に向けた準備も進行中だ。

最近ではテロ行為を事前検知して、内閣調査室など官公庁やイベント主催者に知らせるサービスを始めた。「ベンチャー企業が危険な人物を見つけることは、海外では一般的」という。サミットや東京オリンピックなど国家的事業が増えるにつれ、ますますテロの脅威は高まっている。今後も幅広く、現代社会が抱える「リスク対策」に取り組む考えだ。

(敬称略)

起業を目指す後輩に送るメッセージ
菅原貴弘氏

起業に向けて最も大切なのは、一刻も早く動くことだ。私自身、大学1年生の時はどこか起業を迷っていた。だが、世の中の状況は刻一刻と変わっており、その瞬間に他の人がチャンスを掴んでしまうかもしれない。タイミングを逃さないよう早め早めに行動することが大切だ。動き出してからの方法はいくらでもある。まずは最初の一歩を踏み出そう。

掲載日:2016年3月7日

企業データ

企業名
株式会社エルテス
Webサイト
設立
2004年4月
法人番号
4010401099544
代表者
菅原貴弘
所在地
東京都港区新橋5-14-10
事業内容
サイトのリスク管理に特化したデータ解析